36話 金髪美少女は可愛い
『――文化祭だねぇ』
『どうした急に』
いつものように学校の屋上でイヴとを昼食を取っていると、メロンパンを食べていた彼女が染み染みとそう言った。
『ほら、来月にあるじゃん。私、初めてだからすごく楽しみなの』
『そういえば、イヴのいた学校ではそういう行事がなかったんだっけか』
『私の学校だけじゃなくて、きっと他の学校にもないと思う。日本だけだよ、みんなで一つのことをするの』
『その言い方はいろいろと語弊がありそうな気がするけど……』
今日のホームルームの時間に、文化祭でやる出し物をお化け屋敷に決めた。
しかし、たかが学生の作るクオリティで本当に面白いお化け屋敷ができるのか未だに疑問に思う。
カフェとかにしておいたほうが無難な気はしていたが、変に反論するのも面倒くさかったため口を噤みながら流れに身を任せた結果、今に至る。
というか、隣で目をキラキラと輝かせているイヴがいるのにわざわざ反論しようとする気になれなかった。
『準備も全部自分たちでやるんだよね?』
『あぁそうだ。計画から買い出し、準備、当日の運営。何もかもを全部自分たちでする』
『今日の放課後からもう準備が始まるんだよね? シュウトは……って、そっか、バイトがあるのか』
分かりやすくがっかりするイヴに、思わず笑みが溢れてしまった。
そのせいで、彼女に睨まれてしまう。
『なに笑ってるの』
『ごめんごめん、イヴのがっかりした様子が可愛かったからさ』
『っ……なんか、調子狂うな……』
これまた分かりやすくイヴが照れる。
あまり俺に“可愛い”と言われ慣れていないせいか、目を忙しなく彷徨わせながら頬を赤らめていた。
ここ最近、俺は自分の気持ちに嘘をつくことをやめた。
今までは照れ臭かったのももちろんあったが、それ以上に付き合えないのにそんなことは言えないと本音を吐き出すことを渋っていたのだ。
……まぁ、それでも結構出てしまっていたとは思うが。
それでも、気持ちよく出すことはできていなかった。
でも、一週間前のあの夜。
“もしここに住むことになったら、同じ部屋がいいな”
彼女の何気ないあの一言に“我慢しなくてもいいよ”と言われているような気がした。
俺の思い違いかもしれない。
でも今、彼女は俺の想いを一生懸命に受け止めてくれている。
否定しようとする様子もない。
それが、彼女の答えのような気がしていた。
『あのさ、シュウト。これから私に可愛いって言うときは“今から可愛いって言うぞ”って言ってくれない?』
『でも、そしたら今度はその言葉に悶えたりしないか?』
『じゃあ、試しに今やってみて』
『分かった』
イヴは依然として頬を紅潮させており、加えて声まで震えだした。
もう答えが出てしまっているような気がしないでもないが、ここまで来たら引く気もないだろうし、付き合ってやることにした。
弁当を脇に置き彼女と向き合うが、視線は一向に合わない。
合わせようとして俯いた瞳を覗き込めば、彼女は顔をぷるぷると震わせながら視線をさらに逸らした。
『っ……』
『もうアウトじゃないか?』
『あ、あうとじゃない……』
舌足らずな言葉遣いが余計に可愛い。
もう大丈夫ではなさそうだが、望んだのはイヴだ。
構わずに、俺はその言葉を伝える。
『じゃあ、可愛いって言うぞ』
『~~~~っ!』
まだちゃんと“可愛い”と伝えていないのにも関わらず、イヴは声にならない声を上げながら顔を手で覆ってしまった。
『ほら、やっぱりダメだった』
『そ、その顔……ダメ』
『その顔?』
『目つきは鋭いのに、表情は優しくて……』
そのまま言葉を言いきることが出来ずに、へなへな~と上半身が前に倒れていく。
自分だとよく分からないが、ギャップにやられてしまったのだろうか。
ここまでイヴが恥ずかしがっているのも珍しい気がする。
彼女の可愛いところを見られた嬉しさもあり、俺の頬は終始緩みっぱなしだった。
『シュウト、これからは可愛いって言わずに可愛いって言って(?)』
『どういうことだよ』
『……あれ、さっきまで何の話してたっけ?』
『放課後は俺がバイトで文化祭の準備に出られないんじゃないかっていう話』
『あぁ、そっか』
思えばかなり脱線してしまったな。
『文化祭の準備には行けるよ。そのことを千夏に話したら、いない間のバイト代は出してやるから意地でも行って来いって』
『それ、大丈夫なの?』
『分からんけど大丈夫だから言ってるんだろ、きっと』
逆にどうしてそこまでして俺に文化祭の準備に行ってほしいのか気になるが、きっと彼女のことだから俺のためを思ってのことだろう。
彼女の俺に対する願いもこの前エラさんが話したようなことと同じなのだろうから、俺は彼女の言葉に素直に従うことにした。
『とにかく、文化祭の準備をシュウトと一緒にできるってことだよね?』
『そうだな』
頷くと、イヴは嬉しそうにしながら俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。
『頑張って、一緒に文化祭成功させようねっ!』
本当は、手を抜く予定だった。
友達もろくにいない俺に、文化祭という行事を楽しむことなんて無理だと思っていたから。
でも……。
『あぁ、そうだな』
彼女がいれば、楽しめるかもしれない。
急に文化祭が楽しみになってきて、俺はイヴの言葉に笑顔で返すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます