35話 金髪美少女との未来予想図

『……結局、今日も一緒に寝るんだな』

『当たり前じゃん』


 隣でベッドに寝そべりながら、イヴがニコニコとしている。

 さっきまで養子縁組のことで頭を悩ませていたはずのに、彼女の笑顔を見るとこっちまで笑顔になってしまう。


 というか、彼女と一緒に寝ていることを素直に受け入れてる時点で相当やばいんだよな。

 普通ならこういうことは付き合ってる男女がすることなのに。


 それでも幸いなのは、彼女が以前のような露出度の高い服を着ていないことか。

 ちなみに俺が来ているのは、あの日イヴが選んでくれた黒いパジャマだった。


『シュウトがうちにいる間は絶対一緒に寝るからね』

『じゃあ俺が毎日この家に居たら、毎日一緒に寝るのか?』

『もちろん。一緒に寝なかったら損だからね』

『損ってなんだ損って』


 なら俺がここの家の子供になったら、本当に毎日一緒に寝るのだろうか。

 イヴのことだから、本当に毎日ベッドに潜り込んで来そうだ。


『だって損じゃん、一緒に寝られるのに寝ないのは。何、シュウトは私と一緒に寝たくないの?』

『それは……別に、そういうわけじゃないけど』

『あっ可愛い』

『うるさい』


 毎回思うのだが、男のツンデレって需要あるのだろうか。

 ラブコメでもヒロインのツンデレはよく見るが、主人公のツンデレはあまりというか全然見ない。


 同性だから必要としていないだけで、仮に俺が女子だとしたら主人公のツンデレを欲しがったりするのだろうか。


 誰か有識者の方、男のツンデレは需要があるのかコメントで教えてくれ。


 ……って、あれ。

 コメントってなんだろうな。


 それに俺はいま誰に喋りかけていたのだろう。


『どうしたのシュウト、難しい顔して』

『いや、なんでもない』


 なんだか、ものすごくメタい匂いがする。


『というか、イヴはエラさんから何か聞いてたりするのか?』

『ママから? 特には何も聞いてないけど……』

『そうなのか』


 俺が毎日この家にいたらというくだりに何も反応していなかったから、てっきり養子縁組の話をエラさんと話していたものだと思っていた。


 だって、あの人はイヴのためなら何でもする人だ。

 俺をこの家の子どもにしようとしているのもイヴのためだと思っていたのだが、違うのだろうか。


『どうして?』

『エラさんに養子縁組の話を持ちかけられたからさ』

『養子縁組……ってことは、シュウトが私の家族になるの!?』

『待て待て、まだそうと決まったわけじゃないぞ』


 いきなりガバっと起き上がるものだから、俺は慌てて誤解を解く。


『でも、もし仮にシュウトが家族になったら、シュウトと結婚できなくなる?』

『ケ、ケッコン? なんでそうなるんだ?』

『だってそうでしょ、兄妹は結婚できないんだもん』

『いやそうじゃなくて』


 俺はどうして結婚の話に変わってしまったのかを聞いてるんだが。

 というか、まだ付き合ってもいないのに結婚は話が進みすぎだろ。


『結婚できなくなるの?』

『……どうしてそういう話になるのかは分からないけど、日本では血が繋がってない限り兄妹でも結婚はできる』

『そうなんだ』


 安心した様子で胸を撫で下ろすイヴ。


 もしかして、彼女は俺と結婚する気でいたのだろうか。


『シュウトは、私の家族になるの?』


 少し落ち着いたのか、イヴは再び体をベッドに預けながら口を開いた。


『まだ決め兼ねてる』

『どうして? うちに来たらいいことだらけじゃない』

『それはそうなんだけど……そう簡単に決められないんだ』


 これは俺一人で決められることじゃない。

 でもそれを事細かに説明してしまうとイヴに心配をかけてしまうため、俺はあえて濁した。


 目を逸らし、瞳を伏せることで察してもらう。


『……でもそしたら、シュウトが私の家族になる可能性もあるってこと?』

『それは、まぁ』


 何かアクションがない限りは無理かもしれないが、もしかしたら俺がこの家の子どもになることもあるかもしれない。

 というか、できるなら俺もこの家の子どもになりたい。


 イヴは俺の返答にぱぁっと顔を明るくさせると、這いずりながらぐいっと顔を近づけてきた。


『もしそうなったら、毎日一緒に寝ようねっ』

『……別に、いいけど』


 イヴの顔がより一層嬉しそうに輝く。

 あまりに眩しすぎて、俺はまた彼女の笑顔に口元を綻ばせてしまった。


『でもそうなったらベッドはもう少し大きい方がいいかな?』

『俺は別にこのままでもいいけどな』

『どうして? 少し狭くない?』

『それは……』


 付き合ってもいないのにこんなことを言うのはどうかと思うが、深夜テンションもあってか今は少しだけイヴとイチャイチャしたい気持ちだった。


 それでも少し照れくさい気持ちを抑えきれずに、イヴから視線を外して言う。


『こうして少し狭い方が、よりイヴを感じられる、というか……』


 ……静寂。


 目を逸らしているせいでイヴが今どんな顔をしているのか分からないが、それを確認する勇気もない。


 今はこの静けさにただただ身を任せることしかできないでいると、不意にイヴが声を上げた。


『これは……もう少し?』

『もう少し……なのか? どうなんだろう、自分でもよく分かんない。でも、まだ大丈夫ではない』

『そっか……。でも、その日が近づいてるのは確かだよね?』

『……多分』


 俺の中では彼女に対する恋心以外に何も変化はない。

 だから依然として彼女とは付き合えないのだが……もしかしたらそうなる日は近いのかもしれない。


 曖昧に頷けば、それを気にしないと言わんばかりに彼女は俺を抱き締めた。


『……もしここに住むことになったら、同じ部屋がいいな』


 その言葉は俺の変な気遣いを解いてくれているような気がして、体の強張りが抜けていくのを感じる。


 そうして気づけば……俺は笑顔を浮かべていた。


『じゃあ、イヴの部屋か? 俺の家具は少ないぞ』

『ならそうだね。そっちの方が、シュウトを感じられそうだし』

『……楽しみ』

『たくさんしようね』

『早いなぁ』

『だって、それがシュウトに伝えられる最大の愛情表現なんだもん』


 蒸れて暑いが、そんなのは関係ない。


 今だけは、この身をイヴの温もりにうずめていたい。


 俺は勢いに任せながら、彼女とともに未来予想図を思いのまま描くのだった。

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