25話 金髪美少女と少しの進展

 そうして着いたのは、大通り沿いにある有名なメーカーの洋服店だった。

 イヴのことだからてっきり高級ブランドの店に連れて行かれるのかと思っていたが……。


『意外と庶民的な店を選ぶんだな』

『私、服を買う時はいつもネットだからね。だからどんな服屋さんがいいのかとか分からないけど、わざわざ高いところに連れてくよりも、こういう慣れ親しんだところの方が着心地もいいと思って』

『……意外と考えてくれてるんだな』

『その意外は心外だなぁ』


 思ったよりも俺に寄り添った考え方をしてくれていて、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


 ……まぁ、俺はこのメーカーの服すらも高くて買えないんだが。


 でもせっかくイヴがいろいろと考えてくれているわけだし、俺も服にこだわりはない。

 というか、こだわっている余裕がない。


 ありがたくイヴのチョイスにするとしよう。


『それじゃあ、行こっか』

『あ、あぁ』


 店内に入ると、洋楽のおしゃれなBGMが聞こえてきた。

 店の雰囲気も相まって、少し緊張する。


『どんな服を買いたいとかは決まってたりするの?』

『あんまり考えてなかったけど、寝間着だし今は暑いから、無難に半袖と短パンが一着ずつあればいいかなぁって』

『なるほどね……って、どうしたの?』


 歩き出そうとして、イヴが立ち止まる。

 振り向いた瞳が店に入って動けない俺を捉えた。


『いや……俺、こういう場所初めてだから』

『えっ、初めてなの?』


 緊張で動きにくくなった体に鞭を打って、俺はぎこちなく頷く。


『じゃあ、いつも服はどこで買ってるの?』

『……中古屋』

『中古屋さん……?』


 まるで中古屋そのものを知らないと言わんばかりに疑問符を浮かべるイヴ。

 引かれるか不安だったが、それ以前の問題でいささか複雑な気持ちになる。


 そういえばこいつの家、金持ちだった。


『いわゆるリユースショップってやつだ。誰かが使わなくなって売ったものを、代わりに使いたい人に売る店』

『そこで買ってるの?』

『……あそこが一番安上がりなんだ』


 普段外に出るのは大体学校に行く時くらいなので、外行きは制服で事足りる。

 友達がいなかった俺には家に友達招き入れるなんてこともなかったため、部屋着は全て中古屋で手に入れていた。


 イヴに引かれるのもメンタルにくるだろうが、こうして事細かに説明するのもなかなかに病みそうになる。

 しかし中古屋がよく分かっていない彼女は、至って純粋だった。


『じゃあ、中古屋さんにする? そっちの方が着慣れてるんでしょ?』

『いやいや大丈夫。中古屋に売ってるものは生地も柄もバラバラだから着慣れるとかないし』

『そう?』


 いろいろと勘違いしていそうな彼女に俺は両手を突き出す。


 金銭的な面を考えれば中古屋の方がいいのだろう。

 だがそろそろ晩ご飯という時間の中で移動に時間を裂きたくないし、きっとエラさんにこのことを言えば『どっちで買っても同じようなもの』的なことを言われると思う。


『ただ、その……俺、あんまりファッションとかよく分からないから、イヴに選んでもらえたら、嬉しい』

『えっ?』


 勇気を振り絞って頼めば、イヴが目を点にして固まる。


『な、なんだよ』

『今、私……シュウトに頼ってもらえたの?』

『何が』

『えっ、だって今、私に服を選んでほしいみたいなことを言ってたよね』


 どうしていちいち掘り返すのだろう。

 俺を辱めたいのだろうか。


 しかし聞かれている手前、照れ隠しのために否定することはできないし、実際それを望んでいた。


 だから俺は俺はやけくそ気味に言葉を吐いた。


『あぁ、そうだよっ。どうせ買うならお前に見られても恥ずかしくないような服がいいからお前に頼んでるんだっ』


 ここまで正直に言うこともなかったため、羞恥で何処かに行ってしまいたくなる。

 俺の顔も滅茶苦茶赤くなってると思うし。


 でもイヴはそんな俺をからかうことなく、ただ純粋に目をキラキラと輝かせた。


『うん……うん! 選ぶ!』


 活き活きと頷いた彼女は、また俺の腕をグイグイと引っ張りながら。


『早く行こっ! 私がシュウトにとびきり似合う服を選んであげるから!』

『わ、分かったからあんまり引っ張るな』


 イヴが腕を組んでいるせいか、周りの温かい目が痛い。


 でも、俺が頼ったことにイヴはとても嬉しそうにしてくれている。

 そのことに彼女を頼ってもいいのだと思えて、俺はふと笑み崩れてしまった。


『シュウト!』

『今度はなんだ』


 振り返ったイヴは、とびきりの笑顔で言った。


「アリガトウ!」

「っ――!?」


 嬉しくて、可愛くて、愛おしくて。


 思考がぐちゃぐちゃになった俺は返す言葉もないまま、思わずそっぽを向いてしまうのだった。

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