20話 金髪美少女は告白する!?
『――お、お邪魔します』
結局、来てしまった。
イヴの家に。
ダメ元で千夏にバイトに行きたいと言ったが「ダメ、今日はイヴちゃんと一緒にいなさい」と、やっぱり断られてしまった。
イヴの家に行けなくなったと嘘をついたとしても、結局イヴと千夏は繋がっているから無意味どころか逆効果になる。
つまり、俺は千夏の言葉に素直に従うしかなかったのだ。
『そんなに緊張しなくてもいいよ?』
声を強張らせていたせいか、イヴが苦笑しながら声をかけてくる。
これが緊張せずにいられるかっていうんだ。
『緊張するだろっ。その……女子の家に上がるの、初めてだし』
『私だって、男の子を家に上げるのは初めてだよ』
『そ、そうなのか』
てっきりイヴの容姿だから彼氏の一人や二人はいたのだと思っていたが、違うのだろうか。
いや、家に上げてないだけでいた可能性も……。
……って、俺は何をそんな真剣に考えているのだろう。
一人で暴走して、いるかどうか分からない人物に……少しだけ嫉妬をして。
恥ずかしいったらありゃしない。
『パパとママはいないから、二人っきりだよ?』
『だから、どうして意識させるようなことをいちいち言うんだよ!』
『照れ臭そうにしてるシュウトが可愛かったからついつい』
『……男のデレなんか可愛くないだろ』
『デレてたんだ』
『んなっ……!?』
気付かないところで揚げ足を取られて、一気に頬が熱くなる。
顔を歪ませていると、イヴが可笑しそうに吹き出した。
『かわいー』
『う、うるさい!』
『なんかシュウト、最近いろいろと弱くなったよね。今だって私が優位だし』
『くそがっ……!』
言い返せないのが言いようもなく悔しい。
さっきからイヴに翻弄されてばかりだ。
なんか手立てを講じないと、勉強中もずっとこのままイヴに弄られ続けてしまう。
それだけは避けないと。
『さぁ、私の部屋はこっちだよ』
イヴに導かれるまま、俺は両手を広げてもなお余裕がある広い廊下を歩いていく。
この廊下を見ただけでもこの家が広いのが分かった。
リビングやキッチンはどうなっているんだろう。
家賃はどれくらいなんだろう。
「っ……」
考えただけでも寒気がする。
俺がこんな家に住むのは、夢のまた夢だろうな。
ボロアパートに住むだけで精一杯だっていうのに。
『――ここだよ』
イヴが扉を開くと、その先には俺の十畳の家よりも広い洋室が視界に飛び込んできた。
だいたい十五畳くらいだろうか?
白を基調とした全体的にシンプルな部屋で、セミダブルサイズのベッドや大きな学習机が置かれてある。
それでもオタクらしく壁一面の棚にマンガや小説が並んでいたり、女の子らしく動物の人形が飾られていたりもしていた。
うん、これはイヴの部屋だ。
そう聞かなくても分かってしまうくらい、この部屋は彼女の色でいっぱいだった。
『広い……』
『えへへ、なんだか照れるね。今テーブルと座布団出すから、ちょっと待っててね』
恥ずかしそうに頬を染めたイヴは押入れを開けて、そこから折りたたみのテーブルと座布団を取り出そうとする。
しかしまるでどう持ち上げようか困っているように眉をひそめ、テーブルと座布団を持つ手のポジションをいろいろと変えながら試行錯誤していた。
なんとか頑張ろうとしている姿に思わず苦笑を浮かべながら、俺は彼女からテーブルをひったくった。
『一度に全部いこうとするからそうなるんだ。俺がテーブルを持つから、イヴは座布団を持ってくれ』
『で、でも、流石に申し訳ないよ』
『これくらいどうってことない。それよりも横着して勉強する時間が減るのが問題だ。早く日本語を喋れるようになりたいんだろ?』
『それはそうだけど……』
『なら、黙って俺に持たせておけばいいんだよ』
俺はそう言ってテーブルを持ち運び、膝をついて適当な場所に広げる。
そうしてイヴに視線を移すと、彼女は何やら幸せそうに笑みを浮かべていた。
『どうした?』
『いやなんか、シュウトが本当にボーイフレンドになってくれたみたいだなぁって思って』
『ボ……!?』
またかぁっと頬が熱くなり、突き放されるようにそっぽを向いてしまう。
『……なんで、そういうことを言うんだよ』
『だって、私の本心だもん』
本心でも隠してくれよ。
心の中でそう呟けば、すぐ近くで『ねぇ』とイヴの声がした。
不意を突かれて体をビクッと震わせながら振り向くと、彼女は俺の耳元に顔を寄せていた。
『な、なんだよ』
『もういっそのこと、私のボーイフレンドにならない?』
『っ……!?』
これは……告白、か?
俺は今、告白されたのか?
英語圏ではボーイフレンドという言葉を“男友達”という意味ではなく、“彼氏”という意味で使う。
ということは、イヴは俺に“私の彼氏にならない?”と言ったわけで……。
荒くなる息を必死に抑えて、俺は絞り出すように言った。
『……まだ、無理だ』
『まだってことは、まだチャンスがあるってことだよね?』
どうして、嘘がつけないのだろう。
いつもの俺ならまだという言葉を隠せたはずなのに。
イヴの言葉に無言を返すと、急に彼女に後ろから抱き締められた。
『なら私、頑張ってシュウトを惚れさせるよっ!』
『ちょっ、離れろ! くっつくな!』
俺は、また彼女に変な火をつけてしまったようだ。
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