2話 金髪美少女は嬉しそうに話しかけてくる
――確かに、素っ気なく接した。
彼女の言葉を無視して「別に」の言葉ですべてを一蹴して。
そのとき、確かに彼女は黙り込んだ。
悲しそうにした。
寂しそうにした。
なのに。
なのに……。
『私、イヴリンって言うのっ。あっ、そういえばさっき自己紹介してたね。イヴって呼んでもらえると嬉しいな。そっちの方が呼ばれ慣れてるから』
どうしてこんなに話しかけられてるんだ……?
いやいや、おかしいだろ。
素っ気なくされたんだぞ?
というか、いま現在俺は顔を伏せて彼女を無視してるんだぞ?
普通この人とは関わりたくないってなるはずだろ。
なのにどうしてこんなに話しかけられてるんだ?
というか、どうしてさっきよりも活き活きとしてるんだ……?
『さっきは急に英語で話しかけられたからビックリしちゃった。でも助かったよ。私、転校が急に決まっちゃってあんまり勉強できてなかったから』
そうか、急に転校が決まったのか。
それじゃあ日本語が拙いのも、勉強が分からないのも無理はない。
……って、素直に彼女の話を聞いている状況でもない。
とにかく関わるのをやめてもらわないと。
『ち、ちょっと待ってくれ』
『ようやくこっち見てくれた……!』
顔を上げれば、イヴはぱぁっと表情を明るくする。
はぁぁなんでこんなに可愛いんだよ。
天使か?
この子は天使なのか?
……じゃなくて!
『あの、あんまり話しかけられると困るんだけど』
『でも、私はあなたと仲良くなりたいの。そういえばあなたの名前を聞いてなかったね。なんて言うの?』
ダメだ、彼女の勢いは止まらない。
もはや俺だけではどうすることもできなかった。
ここは、あの先生に頼ってみるしかない。
俺は学ランのポケットからスマホを取り出し、Glegleの検索欄を開いた。
そうして検索する。
イギリス 女性 おかしい
『おかしくないよ!』
「うわぁ!?」
思わず大声を上げてしまう。
ちゃんと彼女が分からないように日本語で検索していたのに、それでもなお彼女は抗議の声を上げていた。
『日本語わからないんじゃなかったのかよ!』
『分からないけど、「おかしい」って言葉は知ってたの。というか、おかしくないからっ』
『いやいやおかしいだろ。どうしてこんなに無視してるのに話しかけてくるんだよ。あと謎に「おかしい」だけ知ってるんだよ』
意味が分からない。
イギリス人女性ってこんなにもフレンドリーなのか?
だとしても俺以外の人に話しかけている様子はなかったし……なんでこんなに話しかけてくるんだ?
俺は最初の疑問に原点回帰してしまっていた。
『仲良くなりたいって思ったら話しかけに行くでしょ? それの何がおかしいの?』
『今までのやり取りの間に仲良くなりたいって思えるようなことあったか?』
『答えを教えてくれた。あと、英語が喋れる。あっ、そうそう。あなたなんでそんなに英語が喋れるの?』
また話題が変わってしまった。
イヴと話しているとどんどん彼女のペースに飲み込まれていってしまう。
活き活きと話す彼女に、どんどん魅入られそうになってしまう。
それに……。
俺は辺りを見回す。
決してさり気なくはあるものの、特に男子なんかは確かに俺へ嫉妬の視線を向けてきていた。
それは「どうしてお前なんかに」と言いたげなほどに。
いや、それ俺も思う。
どうして彼女は俺ばかりに構うのだろう。
それも彼女に素っ気なく接した俺にだけ。
確かに英語が喋れるという安心感は大きいのだろうが、それでもここまで話しかけてくるのは異常だった。
検索のときに思わず「おかしい」と入れてしまうくらいの異常さだ。
本当に、なんで俺に構うのだろう。
何度も何度も同じ疑問にたどり着く。
……いや、もうこの際理由なんてどうでもいい。
早く一人になりたい。
もう彼女と関わりたくない。
『……また黙るの?』
不満げな声を零すイヴを尻目に俺は立ち上がると、教室を飛び出す。
耐えられなかった。
彼女の嬉しそうな声も、仕草も。
本気で、仲良くなりたいと思ってしまいそうになるから。
『ちょっと……!』
イヴの呼び止めるような声が聞こえたような気がする。
それでも、構いはしない。
もっと、もっと遠くへ。
少しでも、彼女から離れなければ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます