第13話 こういうのでいいんだよ(フラグ)

ダークヘイズの提案に、ダルルンは怪訝な顔を見せる。


「……。リュドラスさん……この方があまりに美少女だったから、そんな事言ってるんですよね?」


その問いに、ダークヘイズは静かに目を閉じた。


「いやいやいや、そんなんじゃねぇよ。敵意もないし、ずっと此処に独りで居るのは可哀想だろ?魔王が死んだのも事故だと分かったんだから、もう戦う必要なんてないんだ。な?そうだろ? 」


早口で捲し立てるように喋り始めた下心が見え見えなダークヘイズを前に、ダルルンは深くため息をつく。


倒すべき魔人を仲間に引き入れようなんて、リスクしかないと思うが、一体何を考えているのだろうか……いや、何も考えてないなとダルルンは思う。

ゲームや漫画の世界にはよくある展開ではあるが、それが現実で上手くいくかは分からない。完全に大博打と同じだ。


そんなダルルンの心配をよそに、ダークヘイズはルミナスへイズに向き直ると、真っ直ぐに彼女を見据える。


「なあ、ルミナスへイズ。このまま一生ここに居るのと、俺の仲間になるの、どっちがいいか選べ 」


「えっ……えっ!?」


その言葉に、ルミナスへイズは戸惑った様子を見せた。

遺伝的な繋がりは無いが、兄弟ともいえる他の魔人達と戦う事になるのを知らない状態でこの選択を迫るのは、卑怯と言えば卑怯だが、今は善良さを装っている余裕はない。


「あ、あの、本当にぼくも一緒に行っていいんですか……? 」


「ああ。まあ、その代わりこんな姿になると思うけど。俺は今こんな、ボロボロだけどな 」


ダークヘイズは、汚れて破れた状態のスカートの裾を引っ張って見せる。


「ええ〜!いいなぁ!!初めて見た時から、すごく可愛いなって思ってたんです!!」


ルミナスへイズは喜んでいる様な素振りをみせる。なかなかの好感触だ。

今の時代まで何万といたと思われる魔法少女の中にも、可愛い服が着れるという特典に飛びついた女の子も、きっといた事だろう。


先程まで少し不安そうな様子を見せていたルミナスへイズだが、胸の前にあった手を握りしめるとダークヘイズを見つめる。


「決めました!やっぱりぼくは、ここから出たいです!もっと外の世界が見てみたいんです 」


おどおどとした印象しかなかったが、ハッキリとそう伝えたルミナスへイズの決意は固そうだ。

しかし少し興奮したのか、若干身体の発光が強まったルミナスへイズを見てダークヘイズは、ビクリと体を揺らす。


「……だってよ 」


チラリと視線を向けられたダルルンは、観念した様に口を開く。この世界ではいくら考えても、もうなる様にしかならないのだ。


「まあ、魔法少女人口が増えるのは、私にも悪い話ではないので別に良いですが。じゃあ、早速ガチャでもしますかな……」


そそくさとガチャ台をセッティングしようとするダルルンの頭を、ダークヘイズが急いで掴み押さえ付ける。


「おい、待て待て!お前に要望を押し付けなきゃ、そのままでもいけんだろ!?調理するにしても、その素材を生かした調理方法ってやつがあるだろうが!?」


折角の美少女が、ガチャでイロモノにされてはたまらない。そして最悪、当たりという名のハズレを引いて汚ッサンを連れ歩く事になるのだけは、絶対に嫌だ。

高級食材をヘドロで煮込む事になるのは、是非とも避けたいものだ。


「ええっ、そんな簡素な感じでいいんですか!?……後で後悔しても知りませんぞ? 」


「いやいや、美少女が汚ッサンになる以上の後悔があるかよ 」


ダルルンは、目を細めジトリとダークヘイズを見つめる。


「……はぁ、そう言うなら仕方ないですね 」


渋々折れたダルルンに、ダークヘイズは安堵する。

それにいつ追っ手が来るか分からない状態で悠長にガチャを楽しんでいる暇はないのだ。


これは恐らくだが、自分が魔法少女この姿になった時、自分のスキルだけは残ったが、魔族特有の固有特徴は無くなった様に思う。となれば、ルミナスへイズのこの発光も消える可能性は高い。


「あ、ガチャしなくても、武器とかはランダムですからね? 」


「もう容姿以外は正直、ランダムでもなんでもいいわ 」


ダークヘイズは早くしろと目で訴える。


「それじゃあ、いきますよ!! 」


「お、お願いします……!!」


ダルルンとルミナスへイズから眩い光が放たれる。


長い変身バンクでも始まるのかと期待したが、ルミナスへイズの光も相まって、眩しすぎて目が開かない。


包んだ光は瞬時に拡散し、辺りに光の雪を降らした。


キラキラと舞う光の中、静かに頭を上げたルミナスへイズの顔は、先程までの白熱電球ではなく、一瞬だけ見えたあの蒼眼の美少女の顔だった。


「……!ぼく、今、光ってないですか!?」


ルミナスへイズは、大きな瞳を輝かせ、こちらを見つめてくる。


「ああ、光ってない。それでもって、めちゃくちゃ可愛い…… 」


「えっ!?そ、そうですか?なんかそう言われると、恥ずかしいですね 」


エヘヘと笑い、思わず顔を手で覆い隠すルミナスへイズを見て、ダークヘイズは静かに涙していた。


(そう!!これだよ!!こういうのでいいんだよ〜〜!!)


魔王よ。

いつも余計な事ばかりしてきた魔王よ。

大人しめの美少女で、おまけにボクっ娘なんてお前にしては、鉄板というか変な捻りを入れてこなかったのが意外過ぎるが、大変グッジョブだ。


薄い黄色を基調にしたスカートを身につけたルミナスへイズは、クルクル回ったり、軽くピョンピョンと跳ねながら動きやすさを確認している。跳ねる度にスカートがフワリと浮いて、絶妙に中が見えそうで見えない。


「わ〜!可愛い!ぼく、生まれた時からずっと服とか着せて貰えて無かったんです 」


「じゃあ、ずっと全裸だったの!?!?」


光っていたし、布から顔しか出て無かったが、さっきまであの布一枚を隔てて全裸の美少女と密室に居たのかと思うと妙な気持ちになる。

そういえば、その前も全裸の美少女に殺されかけてたし、二回も連続で裸の女から殺人未遂を起こされるとは、一体どういう状況なのか。


何はともあれ、仲間など全く望めなかった状況が一転したのは喜ばしい。

ダークヘイズは、ルミナスへイズに手を差し出す。


「俺はダークヘイズ。本当はこんな姿じゃないんだけど……元の名前はリュドラスだ。よろしくな 」


「は、はい!ルミナスへイズです。よろしくお願いします!」


二人は握手をかわし、笑いあった。


「やはり魔法少女はバディが最高ですなァ。これからは、どちらが人気があるのか疑心暗鬼になりながら日々を過ごして貰いたいものです 」


「やめろよ!!結成早々に不穏なことを言うんじゃねぇ!!」


ダークヘイズは、早速関係にヒビを入れそうな発言をするダルルンの頭に手刀を入れる。


「よし!まずはこの塔から下に降りて……そうだな。最初は、人間の村がどうなってるか見に行ってみるか 」


「わ〜!ぼく、人間は初めて見ます! 」


二人と一体は魔王城のテリトリー外の様子を確認するため、部屋から外の連絡橋へ出た。


「ん〜?この近く町や村はどの辺だ?」


橋を歩くダークヘイズの少し後ろを、辺りをキョロキョロしながらルミナスへイズがついてくる。

それを背中で感じ取っていたダークヘイズは、ニヤリとほくそ笑む。


今のご時世、あまりこう事言えないけど、俺は3歩後ろを歩く様な奥ゆかしいステレオタイプのヒロインが大好きなんだよ!!

魔王、死後も色々やらかしてて正直「ふざけんなよ!」って思う事も多々、多々あった。

しかし、最後に最高のプレゼントをありがとう!!魔王我が友よ!!


ダークヘイズは澄み渡る空を見上げて、深呼吸する。


俺の転生人生は、やっと今、ここから始まったんだな。まあ、スタートがありえないくらい遅すぎるんだけど!!


しかし、依然問題は山積みだ。

魔王残党が倒されたら、この世界と自分がどうなるのかも気がかりである。

そもそも今は、魔人達あいつらを本当に倒せるのかも検討がつかない状態だが。


もし、ルミナスへイズを倒さないとこの魔人生が終わらないなら、他の奴らだけぶっ倒して、このままずっとこの新世界に生き残ったアダムとイブになってもいい。

いや、今の状態だとイブとイブになってしまうが、元の姿に戻れば全く問題ないだろう。


チラリと後ろを振り返ると、ルミナスへイズがはにかむ様に笑顔を向けてくる。


「……結婚しよ 」


「はっ!?えっ!?あああの?」


おっと、思わず思った事が口から漏れてしまっていた。

意味がわからず慌てふためくルミナスへイズを見て、ダークヘイズは激しく顔の前で手を振る。


「い、いや!今のは冗談だから 」


「わっ、ビックリした!ダークヘイズさんって面白いですね 」


もう何を言っても優しい言葉しか返って来ない。全肯定彼女の爆誕である。いや、別にまだ付き合ってもないけど。


(最高かよ )


その時、下からの突風でルミナスへイズのスカートがフワリと吹き上げられた。


「ひゃっ!?」


(はい。主人公補正のラッキースケベ、ありがとうございます! )


ダークヘイズはその様子を横目で捉えたが、直ぐに目を見開き、固まる。


その直後、ルミナスへイズは、顔をゆでダコの様に真っ赤にしてスカートを抑えながら地面にへたり込んだ。


「みっ……見ました!?」


その恥じらう仕草は超百点満点……なのだが



「うん……見た……見たけど、見てないな」



魔王……



魔王、お前……



(やりやがったなぁあぁ!!!)


ピシリと固まったダークヘイズの隣に、ダルルンがフワフワと寄って来て呟く。


「おとこの娘も鉄板ですもんなぁ 」


「あああ言うな!!!言うなァァ!!」


やはり、あの魔王がただの可愛い女の子を作るはずが無かったのだ。ダークヘイズは思わず頭を抱えた。


「……お前、知ってたのか? 」


思い切り遠くを見ているダルルンの背中に、問いかける。


「ええ、職業柄、おとこの娘はごまんと見てきましたからな。だいたい分かりますぞ 」


そう言いながら、ダルルンはゆっくりと振り返った。


「だから……後悔しても知りませんぞって言ったんですがなァ 」


振り返ったダルルンは、今まで見たこともない、凶悪な笑みを見せていた。


(コイツ、俺に地面に埋められた事や投げられた事を絶対、根に持ってやがったな……!? )


「まあ、おとこの娘でも可愛ければホールインワンできるし問題ないでしょう? 」


「そういう問題じゃねェんだよ!!意味深な事を言うのはやめろ!! 」


言い合いをしてる一人と一体の間に、ルミナスへイズが慌てて割って入る。


「あ、あの!変な空気にしてごめんなさい。この服可愛いけど、下がスースーするし、ちょっと困りますよね 」


一生懸命、気を遣わせない様に場を取り繕うルミナスへイズを見て、ダークヘイズとダルルンは顔を見合わせる。


(( ええ子や…… ))


ダークヘイズは、この狂った世界に現れた天使を前に、もはや性別などどうでも良くなってきていた。

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