第12話 異世界に来たなら美少女と旅したいに決まっている

「えっ?はっ、はい。そうですが……? 」


ルミナスへイズ、魔王を一瞬にして消し去ったといわれる魔人。

正直、どんな凶悪な化け物が出てくるかと、ずっと戦々恐々としていた。


なんなら、こんなにオドオドしてるコイツは、絶対部屋にいるスライムか何かだと思っていたくらいだ。


しかし、先程に放たれた閃光の威力を目の当たりにしてしまったダークヘイズは、この丸まった饅頭を前にして、固まり動けなくなってしまっていた。


「でも、無事で良かったです!お怪我はありませんか? 」


胸を撫で下ろし、こちらを心配してくるルミナスへイズは、やはり噂される様な凶暴な魔人とは随分と印象が違う。

もしやコイツは、本物のルミナスへイズの影武者なのではないかと、ダークヘイズはまだかなりの疑いを抱いていた。


「あっ、そうだ。そういえば、アナタはここに何の用事で来たんですか?ぼくの事を知ってて、こんな所に来る人は……」


そう言ってルミナスへイズは押し黙る。

ダークヘイズは結んでいた唇を静かに開いた。


「……俺は、お前を殺しに来たと言ったら?」


部屋の空気がシンと静まり返る。


「殺せるんですか……? 」


ダークヘイズの言葉を聞いた、ルミナスへイズの声のトーンが変わる。

自分を殺しに来たと聞いて、豹変して襲いかかって来るかもしれない……そう警戒していたダークヘイズは、ルミナスへイズに向かい武器を構える。


「……殺せるのなら、どうぞお願いします 」


少し間を置いてから、冷静な口調で返ってきた言葉は、想像とは全く違う物だった。

思ってもいなかった返答に、ダークヘイズは険しい表情を見せる。


「なあ、一つだけ聞きたい。お前は魔王を殺したと聞いている。どうして殺した? 」


あの魔王消滅事件の核心。それはリュドラスが、どうしても知りたかった真実だった。


「あっ、あの!……それ……は……」


慌てふためいた、ルミナスへイズの声がだんだんと小さくなる。


「……そんなつもりは無かったって言えば、言い訳になるかもしれませんが 」


ルミナスへイズはそう前置きをして、ポツリポツリと言葉を紡ぎ始める。


「ぼくが生まれてすぐ、魔王様はぼくに会いに来てくれました。その時、ぼくは生まれたばかりで全身がその……この有り様でして 」


この有り様とは、先程の発光した身体の事を言っているのだろう。


「だけど、あの方に一目会った瞬間にコントロール出来ないくらいに嬉しさが爆発してしまい、全身からフルバーストの光線が放出されて……それが目の前にいた魔王様に直撃してしまったんです 」


「ひっ 」


まさかの真実に、ダークヘイズは縮み上がった。先程の光線の最大規模が直撃したと考えると、想像しただけで恐ろしすぎる。

しかし、戦闘能力の無い魔王がそれを回避できるわけも無い。これは起こるべくして起こった事故だとも言える。

普通なら子供が初めて親に会えば、喜ぶのは当たり前の事だろう。


「でも魔王様は、何故か消えるその瞬間も、穏やかに微笑んでいました。そして一言『のじゃロリ』って謎の言葉を残して……」


またも突然出てきた、シリアス展開に不釣り合いな不自然ワードに、ダークヘイズは「ん?」と話を止める。


「は?……なんて?? 」


「えっ……?あの、確かに『”のじゃロリ”創りたかった』と 」


魔王のまさかの最期の言葉に、ダークヘイズは盛大にひっくり返りたい気持ちだった。


「いや!魔王お前!!まだ諦めきれて無かったんかい!!!」


随分と余裕がある最期じゃねぇか!悲しんで損したわ!!どんな辞世の台詞だよ!!


リュドラスは魔王が亡くなったと知ってから、魔王の最期は一体どんなものだったのか、ずっと気になっていた。こちらに攻めてくる人間も現れない、永遠とも思える平和だった日々。

それ故にリュドラスは、ずっと死を意識することがなかった。それは、前世の自分の死に方も覚えていない中で、半不滅の身体を手に入れてしまった事にも原因があったと言える。


そんな中、ある日突として現れた死が魔王彼女を攫って行った事を、リュドラスは暫くは受け入れる事ができなかったのだ。


だから、今やっと彼女の最期が凄惨な物では無かった事がわかり、リュドラスは少しだけホッとしていた。まあ、別の意味では悲惨な事には変わりはないのだが。


「あの……抵抗はしません……だから、このまま殺して下さい。魔王様を消し去り、誰からも恐れられるぼくは、もうこのまま永遠に、此処に留まり続けるだけの存在なんです。これからもずっと独りは嫌だ……こんな事頼むのは心苦しいですが、どうか、どうかお願いします 」


ルミナスへイズが縋る様に絞り出す言葉に、ダークヘイズはソードの柄を握りしめる。


「どうするんですかな……?リュドラスさん 」


ダルルンが気が重そうに、こちらを伺う。


「……お前、もう一度顔を見せろ 」


その言葉に、ルミナスへイズはビクリと体を揺らす。


「えっ!?いや……ぼく興奮すると、また光線が 」


「興奮すんな。落ち着け。賢者タイムを想像しろ 」


「け……賢者タイムとは……?」


正直、またあの光線が来る可能性があるのは怖いが、この饅頭の中身の全貌を見ない状態で叩き切るのは気が引ける。


「いいから、ゆっくりと布を上げろ」


「わっ……わかりました 」


決意をしたように、ルミナスへイズはそう答えた。

そろそろと布が上がり、その下からぬっと頭が出てくる。


「……ギャッ!?」


そこから出てきた頭を見たダークヘイズは、心臓が止まりかけた。

これってホラージャンルだったっけ!?悲鳴顔が楳図チックな作画になってるんじゃないかと、本当に心配になるくらいの衝撃だった。


なぜなら、初めて対面したルミナスへイズの顔は、発光し過ぎて白熱電球みたいになってしまっていたからである。

コイツの顔を電球以外に言い換えるなら、顔無しのマネキン、のっぺらぼう、剥き卵、まさにそんな感じだ。


しかし、一体何百ワットあるのだろうか。

兎に角、まともに目が開けられないくらいに眩しい。今、すごい薄目で目を開けていて、見せられないくらい酷い顔をしてると思う。


もうコレなら、安心して叩き切ってもいいのでは無いかと、ダークヘイズはソードを握りしめ直していた。


「な……なあ、お前、顔あんの? 」


「えっ?ありますけど?」


しかし、どう見ても見れば見るほど、顔がある様には思えない。顔の凹凸すら分からない状態だ。


「あっ、もしかして光ってて見えないんでしょうか?出来るなら、闇魔法をぶつけて貰えば、一瞬見えるかもしれません 」


ルミナスへイズの軽い提案に、ダークヘイズは面を食らう。


「え!?いや、それは大丈夫なのか?」


今まさに殺そうかと迷っている状態なのに、思わず相手の心配をしてしまった。


「あ、はい。基本的に闇には耐性が高いので大丈夫です 」


あっけらかんと答えるルミナスへイズに、ダークヘイズは頭を搔きソードを構える。


「じゃあ、遠慮なく 」


最悪、魔人が死んでもダークヘイズからすると損は無い。


ダークヘイズが振り抜いた剣から放たれた、闇の魔力を帯びた斬撃は、ルミナスへイズの眼前に迫る。


しかしその直前で、斬撃は光の壁に阻まれたかの様にルミナスへイズに軽くぶつかると、室内にバチンと大きな音が響いた。

光と闇は混ざり合う様に、飛沫状に辺りに拡散する。


その弾けた光の中で、ほんの一瞬だけ見えたのは、眩いばかりの”美少女”の顔だった。


「えっ……!?」


黄金に輝くボブショートの髪に、澄んだ天空を思い起こす蒼穹を映す大きな瞳。

それはまさに、ファンタジーに相応しい究極で無敵のヒロインフェイスである。


「わっ!ビックリした!みっ、見えましたか? 」


一瞬にして、ルミナスへイズの顔は白熱電球に戻ってしまったが、そのギャップの衝撃たるや。

返答無く固まっているダークヘイズを、ルミナスへイズは心配そうに見つめる。


「あ、あの〜……?」


ハッと我に返ったダークヘイズは、ゆっくりとダルルンに目線を向けた。


「……ダルルン」


「え?はい? 」


「コイツ、魔法少女にして仲間にしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る