第6話 ロリババアにあってショタジジイに無いもの
「よし、早速あのクソ上司をぶちのめしに行こうぜ 」
リュドラスはそう息巻く。
魔法少女になりテンションがハイになっているのか、徹夜明けのテンションで早朝に牛丼を食いに行くが如く扉の方に進んでいく。
「いやいや!魔法少女になった途端に脳筋ですな!? 行動が早すぎますぞ!?まだガチャ結果の説明も終わってないし……」
慌てふためくダルルンを他所に、リュドラスはチラリと窓を見上げた。
「もうすぐ夜明けだ。ブラッドへイズは確かヴァンパイアの因子が入っている。叩くなら今だろ 」
「でも、なにも今日じゃなくても!」
ダルルンは必死にリュドラスを窘める。
「……いや、今のこのテンションじゃないと無理だ。このまま日を置いて、アイツに勝てないイメージが積もってしまったら、俺はもう戦えない 」
そう言ったリュドラスの手は、微かに震えている。
「……リュドラスさん 」
ここまで言うには、本人にしか分からない何かが有るのだろう。ダルルンは、これ以上何かを言うのは止めた。
自分は、スカウトした魔法少女について行くしかないのだ。
例え、魔法少女 ダークヘイズが敗れる事になったとしても─……
「……あんなに勇んでたのに、なんでコソコソ隠れてるんですかな?」
「うるせぇ!!こちとら日々ボロカスな扱い受けて、トラウマが植え付いてんだよ!!」
塔の最上階。
そこは、魔王が「各塔にいる四天王を倒していくなら、バトルはやっぱ最上階の大広間だよね。いや、倒されたら困るんだけど(笑)」と言って作った、それぞれに合ったステージがある。
ブラッドへイズの塔はやはりと言っていい、退廃的な古城の冷たい雰囲気が漂う空間が広がっているのだ。
「……居るな 」
ブラッドへイズは、白み始めた空をボンヤリと眺めながら、高い階段の上にあるいつもの椅子に座っていた。
空は明るくなりかけてはいるが、殆ど窓が無く閉め切られた状態の塔の内部は、まだかなり暗い。
「武器に付いてる水晶で簡易的ですが、ステータスが見れますぞ」
「えっ、ステータスとか見れるんだ!? 」
リュドラスは元々相手のステータスを覗く能力など持ち合わせていないため、上司のステータスを覗き見るなど初めての事だ。
大嫌いな上司の秘密を暴く事に、リュドラスは少しワクワクしていた。
「……ふう。なんか父親のパソコンをこっそり開いて、怪しい名前のフォルダを見つけた時の感覚に近いな……」
過去にそんな事をした事があるのかは、全く記憶に無いが。
リュドラスは恐る恐る、ブラッドヘイズに水晶を向ける。
ブラッドへイズ Lv ???
╴古代竜 ダークブラッドドラゴン
╴ヴァンパイア(真祖)
╴スキル
╴血茨ノ誓約
╴常闇ノ支配者
╴赫灼ノ黒血竜
╴???覚醒
╴魔王ノ系譜/魔王ノ呪縛
……うん。
「いや、内容がサッパリ分からねえ!!!」
何だコイツ!!厨二全開のスキル名並べやがって!!正直、何か羨ましいわチクショウ!!
つか、この魔王の系譜とか魔王の呪縛ってなんだ?魔王に呪われてんのか?
「んん……?いや、待てよ?この二体の魔物の組み合わせ、なんかどこかで見た事ある気が……」
もしかしたら、過去の記憶に何らかの有益なヒントがあるかも……リュドラスは懸命に記憶の糸を手繰り寄せる。
◇
「リュドラスくんは ”のじゃロリ”って好き?」
「なんなんですか突然…… 」
細胞の培養に勤しんでいたリュドラスの後ろから、魔王が話しかけてくる。
「さっき配合スキルがMAXまで上がったから、今までで一番強い魔物を創ってるんだけど ”のじゃロリ”にするか”のじゃショタ”にするか迷ってて……」
「すっげぇどうでもいいですね!?」
「いやいや、どうでも良くないよ!?ベースには古代竜ダークブラッドドラゴンと真祖のヴァンパイアだもん!!こんなの”のじゃ”キャラメイクのチャンスしかないじゃん!! 」
目を輝かせ力説する魔王を前に、リュドラスは思わず目を細める。
「でも、”のじゃショタ”ってあまり聞きませんが……」
「だよね!?ニーズ的にロリババアが90%としたらショタジジイは10%あるかないかじゃない?私が知らないだけかもしれないけど!!」
まあ、年寄り言葉の幼女や少女は何かと強者感があり人気があるが、年寄り言葉の男児や少年は、どれくらいの需要があるのか不明だ。
「でもこの子の場合、算出したら♂の方が個体値高めに作れるんだよね。最初の一体だから失敗したくないしなぁ…… 」
「じゃあ無難に♂にした方がいいんじゃないですか?」
うーん……と魔王は腕を組み、目を瞑って唸る。
「でも需要が有るとか無いとか、そんな事言ったらこの子が可哀想だよね。だけど、私は”のじゃショタ”にも夢と希望が詰まってると思うんだよ 」
魔王は吹っ切れた様に「よし!」と声をあげると、柔らかい笑顔を見せる。
「リュドラスくん。私が創るよ、みんなの心に残る様な”可愛いのじゃショタ”を……!」
◇
…………。
「いや!お前!! 結局 ”可愛いのじゃショタ”の生成に大失敗してるじゃねェかぁあ!!!!」
リュドラスは一部始終を全て思い出した。
ブラッドへイズは、魔王が最初に創った最強に至る魔人。加えて”可愛いのじゃショタ”になる筈だった魔人だ。
いや、失敗してるどころか、どう間違ったらこんな陰険鬼畜ドSショタジジイを生み出せたんだよ!!おかしいだろ!!しかも「〜のじゃ」とか言ってるのを聞いた事もねえ!!
『でも、俺様ドSショタも見たい……』
「いや、うっせぇわ!!!」
思わず、浮かんできた記憶の中の魔王の言葉に突っ込んでしまった。
「……お前がネズミか? 」
至近距離の耳元で囁かれた声に、リュドラスの全身にドッと冷や汗が伝う。
即座に、床を転がるようにその声から距離をとると、咄嗟に武器を構えた。
それは、何度も何度も何度も何度も何度も、そう何百年と耳にした声。
キィキィと蝙蝠達が騒ぎ立てる音。
鼻を掠めるすえた血の匂い。
その全てが、リュドラスを畏怖させる。
「お前……僕を覗いてたな?下等な生物風情が、万死に値するぞ 」
幾度となく目にしてきた、暗闇に浮かび上がる鮮烈な紅い双眼がリュドラスを囚える。
「ブラッド……へイズ……!」
まるで闇から生まれ出た様に姿を現したブラッドへイズは、リュドラスの前に歩み出る。
ブラッドへイズの姿形は、人間で言う12歳前後の少年そのものだが、ただの子供であるわけが無い。
闇夜を映した様な暗い濃紺の髪、血の気の無い青白い肌。そして、幾度となくリュドラスの抵抗心を奪ってきた、あの深紅の瞳がこちらを見据えてくる。
「……お前、変わった匂いだな。魔族なのか人間なのか 」
ブラッドヘイズの問いに、リュドラスは心を落ち着かせる様に息をゆっくりと吐き出すと、一瞬の間を置いて笑ってみせた。
「……知らねぇのか?魔法少女だよ!!」
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