第5話 魔法少女、アンチ・ダークへイズ爆誕!

「ご購入ありがとうございます。ですぞ 」


床に散らばる金貨を吸い込んだダルルンの体が、眩い光に包まれた。


「うわっ……!」


リュドラスは咄嗟に手で目を覆う。


あまりの閃光に何が起こるのか期待していたが、その光は徐々に収束を見せ、ダルルンは元の状態に戻っていった。


「…………で? 」


なんの変化も見当たらないダルルンを見て、リュドラスは首を傾げる。


「あ、ワタクシの体の下からコインが出てるので、それを取るんですぞ。厳密に言えば尻なんですが 」


顔を赤らめながら声を潜めるダルルンに、リュドラスはその場で固まる。


「尻!?その余計な一言のせいで取りづれーわ!!何させてんだよ!!」


嫌々ながらダルルンの下半身からコインを抜き取ったリュドラスは、顔を引き攣らせながらそのコインを差し出した。


「あ、1回1回いきます?」


「いや、めんどくせーから一気に行ってくれ 」


最早、心底どうでも良さそうな顔をするリュドラスに、ダルルンは悲しげな表情を見せる。


「ええ……パジェロコールしたかったのに…… 」


「いや、パジェロとかもうとっくの昔に販売してねーだろ!!俺をパジェロの魔法少女にする気か!! 」


Now Loadingから進まない画面を見るかの如くイライラし始めたリュドラスに、フゥと溜息をついたダルルンは、コインを受け取ると浮き出ていたルーレットにセットした。

すると、次々に別のルーレットが並んで出現し、表示が変わってゆく。


「あ、ちなみに確定演出とかは無いので 」


「いや、別にいらねぇよ!!!早くしろ!!」


ガチャの確定演出はテンションが上がるが、初めては何が確定演出なのか分からないので、この際無くても問題ない。


それぞれの組み分けが終わった複数のルーレットが整然と並び、光を放ち始める。


「いや~、ジャンボな宝クジ抽選会を彷彿とさせる絶景ですなァ 」


「宝クジ抽選会は未だにこの方式なのかよ 」


光るルーレットを前に、二人はシーンと静まり返る。

え?これストップとかあるの?と口を開きかけた時、ダルルンが先に言葉を口にする。


「……あ、もう抽選中です。データが重いので少しお待ち下さいな 」


「んえっ!?なんの心の準備も無いまま始まってた!」


いや、確かにガチャボタン押した瞬間に抽選結果が確定してるものだよな。その後にどのタイミングで画面タップして結果を見ても同じだろう。恐らく。


「因みに、有償ガチャの提供確率はこちらです 」


超UAR 0.01% →0.03%

SSR 0.05% → 0.08%


この二行を見ただけで、リュドラスは眉間に皺を寄せる。


「いや!超UARが上がってるじゃねーか!!汚ッサンへの道が!!」


「でも、超UARの中身は汚ッサンだけじゃないので……」


「それにしてもだよ!!」


これで奇跡的に汚ッサンにでもなってみろ?これを読んでる人達、画面そっ閉じでもう誰も寄り付かねェよ!!分かるよな!?世の中には需要ってモンがあるんだ!!空気を読め!!


誰に向けてか分からないリュドラスの願いは、眩い光の中に消えていく。


もうなる様にしかならない。

リュドラスは強く目を瞑った。


それは一瞬だったが、体感的には数分に感じられる程の時間だった。


「おお……これは! 」


遠くで聞こえたダルルンの感嘆の声に、リュドラスは薄目を開ける。


「……?」


目を開けて最初に目に入ってきたのは、自分の足元だった。

おろしたての新品みたいに真っ白な靴だな。と何故か他人事のようにそう思った。

そしてそこから伸びた、白の長いソックスが映える、綺麗で真っ直ぐなか細い脚。


「これ、オッサンの脚じゃねぇよな……? 」


未だ疑心暗鬼になっているリュドラスは、なかなか自分の姿を確認出来ない。

そうだ。確か自分の右側には、全身鏡があった筈だ。

リュドラスは意を決して、恐る恐る顔を上げると、ゆっくりと右側を向いた。


簡素な部屋の中を映す鏡の中には、そこに不釣り合いに佇む、真っ白な姿の少女を映し出している。


緩い巻き毛気味の長い髪は温かみのある白色。パッチリとした大きな瞳はキラキラと輝く金色をしており、まるで仔猫の様だ。レースがふんだんに使われたヒラヒラの服も、白で統一されている。ただ少し露出度は高めの気もするが……。


「えっ!ええ~っ!やべぇ!俺、めっちゃ可愛いじゃん!?!?」


これは容姿SSRだろ!!

リュドラスは鏡の前でくるくると回ってみせる。先程までのヤル気のなさは何処へ行ったのか、気分はもう完璧に魔法少女だった。


「この姿から察するに、光魔法が使えるんだろ!?な!?」


容姿問題をクリアして安堵したリュドラスは、ダルルンの方に振り返りハイテンションで話しかける。


あのクソ上司の陰険鬼畜ドSショタジジイは絶対に闇属性だ。光魔法ならこれはもう勝ったも同然。リュドラスは勝利を確信していた。


「あ、いえ、アナタの魔法属性は”闇”ですな 」


「……は?」


リュドラスはダルルンからの報告に固まる。


「いやいや、この真っ白な容姿で闇属性ってあるか? 」


「そこはランダムなので 」


はい、出たよ。便利な言葉、ランダム。

ランダムは人の心に闇を生む。

毎度毎度のランダム商法で必要以上に金を使ってきたオタク達に全力で謝って欲しい。


「闇と闇の討ち合いってどうなるんだよ!闇が強い方が勝つのか!?心の闇が深いのは俺の方だわ!!」


「そこはまあ追々なんとか……さあ、次は魔法武器ですぞ !」


その声を合図に、リュドラスの頭上が光り輝き、ゆっくりと棒状の長物が降りてくる。

リュドラスの手元に収まったソレは、多少厳ついが魔法使いが振るう杖の様にも見える。


「へぇ、綺麗な魔法ステッキだな 」


闇魔法属性だからか、その武器は当然真っ黒だ。しかし、銀の装飾に縁取られた暗い紫水晶の魔石は厨二心を擽らせる。長物の武器というのも色々ポイントが高い。


「いや、これはビームソード的な奴ですな 」


「ビームソード的な奴!?」


魔法ステッキかと思っていたが、これはどうやら剣らしい。

それは置いておいても、ビームソードってなんだ。大乱闘させるつもりか。

ファンシーな物を想像していたのに、物騒な武器が出てきた事に驚きが隠せない。

女児向けの玩具になったなら母親に買って貰えるのか微妙なラインだ。


「まあ、ミサイルランチャーとか肩に背負ってるタイプの魔法少女もおりますし、これは動きやすいのでは? 」


「そんなMSみたいな魔法少女がいるかよ!!」


「うちの国では、戦艦とかが擬人化したら大体そんな感じなので別に何も不思議なことはは……」


何故かストンと腑に落ちた。言われてみれば、そうだった気がする。見た事も無いはずなのに、遺伝子に情報が刻み込まれている様だ。


「ああそうだ。魔法少女名はどうします?」


「魔法少女名〜?ああ、確かに今の名前じゃマズイか……」


「闇魔法だし、魔法少女、ピュアダークとかにしときますかな?」


ダルルンが冗談半分に提案する。


自分の目標としては、魔王幹部全員を消滅させる事だ。今の所、”できれば”の話だが。

確か、魔王が幹部の奴らに付けた名前には統一性がある。


リュドラスはうーん……と唸った後に、ニヤリと笑った。


「……そうだな。ダークへイズ……俺は今日から魔法少女、ダークへイズだ 」

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