第4話 拝啓、厳選厨の魔王様
「ねぇねぇ、私のこの魔物をジョグレスして進化させる能力すごくない? 」
「ちょっと、何かに引っかかりそうな言い回しはやめてくださいよ 」
それはかつて、魔王が健在だった頃の話。
リュドラスはその昔、魔王城で魔物研究の手伝いをしていた。
魔王は女性であり……いや、女性と言っていいのか判断に迷うところだが。
とりあえず彼女は、転生前はかなりのゲーマーだったのだろう。魔物を生成してる時は、口を開けばやれ選別だの個体値だの種族値だのとブツブツと言っていた記憶がある。
「せっかくだし、童心に帰って”俺たちが考えた最強のモンスター”みたいなの作ろうぜ。小学校の自由ノートに描いたみたいなやつ! 」
「女の子でそんなことしてる子いたんだ…… 」
この魔王はアニメ好きのゲー廃オタクだったが、天真爛漫という言葉が似合う陽キャに属せる存在であり、同じ転生者のリュドラスとは友人の様な関係を築いていた。
先程、この魔王を女性と断言出来無かったのは、彼女は中身は女だったが、転生した魔王の身体は男だったからだ。
なんの運命か、今まさにリュドラスは、半強制的ではあるが、その逆を行こうとしているのだ。
「これ見て、私の考えた”ギガントガイアドラゴニクュス” ちなみに、体長は3000メートル」
「いや、魔王城に入りませんが!?」
「わはは、言えてる~!無駄に身体のデカいボスって、あんまり強いのいないよね~ 」
日々そんなやり取りをしながら、ゆっくりと時は過ぎていき、その間も魔王城を脅かす勇者は現れなかった。
「ここの生活もまあまあ楽しいけどさ~、ゲーム出来ないの辛いわ。基本暇だし。早く帰りたいんだけどなぁ……新作どんだけ出てるんだろ?金ないわ 」
そう言って笑っていた彼女は、その約一月後くらいにこの世界から消え去ってしまう事となる。
「うわぁああ!!なんで!なんで俺を置いて逝ったんだよぉお!!!」
先の回想シーンが終わると、リュドラスは床に膝をつき泣き崩れる。
「ええ……未亡人なんですか?それとも捨てられた男なんですかな?」
急に情緒が乱れたリュドラスに、ダルルンが頭を心配して顔を覗き込む。
消えた魔王は元の世界に帰れたのか、消滅してしまったのか、はたまた別の次元にまた飛ばされてしまったのかは分からない。
だがこのままだと、自分は辞職も許されない職場で独り、パワハラを受けながら悠久の時を過ごすしかなくなる。
気付かないフリをしてきたが、リュドラスの精神はもうとっくの昔に限界だったのだ。
「……ああ、いいよ!!やってやるよ!!」
リュドラスは腰に下げていたアイテム入れから、3820Gを取り出し床に叩きつける。
「有償ガチャ上等だ!!!」
◇
「なあ、ブラッドへイズ 」
「……なんだ、バーンへイズ 」
静まり返った暗闇の魔王城の中、魔王が座るべき玉座に体を預けるように凭れかかっていたブラッドへイズに声を掛けてくる男。
そのバーンへイズと呼ばれた魔人は、2メートルを優に越える体格に、燃え盛る様な真っ赤な髪を逆立ている。
「悪ィ、この次元にまた異物が紛れ込んで来たみたいだが、小さすぎて見失っちまったわ。まあ、人間では無いみたいだがな 」
「フン、そんなネズミ放っておけ 」
ブラッドへイズは興味無さそうにそう答えた。
「……今のはファンタジー物の悪役側によくあるワンシーン……」
淡々とそう口にしたのは、階段に体操座りしていた植物の蔦の様な長い髪を揺らす、綺麗な顔の少女だ。
「アシッドへイズ、お前は余計なことを言わなくていい 」
ブラッドへイズはアシッドへイズという少女の魔人を睨みつける。
「今日も三人だけだね…… 」
魔王亡き今、この場に残る意思疎通ができる高位の魔物は、魔王直属の四体しか残っていない。
「まあ、ルミナスへイズは外に出せないもんなァ」
バーンへイズが出した”ルミナスへイズ”という名前に、ブラッドへイズが顔を顰める。
「当たり前だ。生まれて直ぐに魔王を殺した奴を野放しにできるか 」
「うん……確かに危ないカモ……」
魔人四体のうちの残る一体。魔王を殺したとされる、ルミナスへイズという魔人は、他の魔人達によって塔の中に幽閉されていた。
かの魔王を一瞬にして葬り去ったルミナスへイズは、塔に幽閉される際にも多大な数の魔物を葬り去り、危険な魔人として扱われていたのだった。
「お前達、何故此処に集まって来る」
「だって暇なんだモン……」
「ホントやる事ねェよな~、人間達も諦めて誰も攻めて来なくなったしなァ 」
魔人各々は、魔王城の周りにある4つの塔に普段は身を潜めている。
塔同士は石橋で繋がっており、自由に行き来が出来る様になっているが、お互い仲良しごっこをしている訳でも無いため、誰もその橋を使用する者はいない。
ただ、無意識に魔王の面影を追うのか、幽閉されたルミナスへイズ以外の三体はよくこの魔王城に集まって来ていた。
「人間共の数は減らし過ぎるなよ。何も無くなった世界はつまらないからな 」
ブラッドへイズは他の二体にそう言い残すと、闇に紛れ込むように姿を消した。
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