第2話 近代の魔法少女、業務委託になってた
「……ヒッ!」
転がったオッサンの生首と目が合い、リュドラスは小さく悲鳴をあげた。
「ちょっと、痛いんですけど? 」
オッサンの生首はこちらをジッと見ながら圧をかけてくる。
「いやいや!俺が殺したんじゃないからな!!何だこれ!怖い!!オッサンの頭、成仏して!!」
パニックになるリュドラスを前に、生首はフワリと状態を起こすと、こちらを睨みつける。
「こんな可愛いマスコットを前にしてオッサンとはあまりに失礼ですぞ?」
厳つい顔の描かれた丸いシルエット。
それは達磨。Daruma、そうダルマである。
この世界には全く馴染みのないものだ。
しかしリュドラスはそれを見て、どこか既視感を感じていた。
怪訝な表情でこちらを見るリュドラスに、そのダルマはゆっくりと近づく。
「改めて、自己紹介をば……ん"ん"ッッ」
その咳払いも紛うことなきオッサンである。
「ワタクシ、魔法少女の勧誘、派遣業務の委託を行っております、”敗北しても怖くない!アナタと紡ぐ最高の魔法少女ライフ!KKRコーポレーション”のマスコット兼サポートキャラクターが一体、ダルルンと申しますぞ。ちなみに日本支部から参りました 」
「はぁ〜?魔法少女〜~??」
それは初めて聞いた言葉だと思うが、なにか耳馴染みのある言葉に聞こえる。
「魔法少女、ご存知ない?うら若き少女達が愛と平和、希望を信じて世界滅亡を企む悪党と日々戦う、日本ではかなりポピュラーな職業ですぞ? 」
「少女に色々背負わせ過ぎじゃないか!? 」
「昨今は、マダムやシニア、少年から成人男性まで活躍してますからな 」
「少女の概念!!!」
どうやら日本という場所では、今や魔法少女は存在がメジャーになり過ぎて、供給が溢れかえり色々な魔法少女(?)が存在するらしい。
「ワタクシ共の会社は、魔法少女の勧誘や魔法少女の派遣を担っております。今日は人材スカウトがてらに敵地視察も兼ねて来てましてな……そう。この世界とリュドラスさん、貴方を 」
「そんな胡散臭い会社があるか!!……って、は?なんだって? 」
「ワタクシハ、アナタヲ、スカウト、シニキマシタ」
「いや!言い方変えろって言ってんじゃねーよ!!」
目の前のダルルンと名乗る物体は、確かに自分を「スカウトしに来た」と宣う。
それに、自分は名前を名乗って居なかったはずだが、こちらの名前を把握しているのがまた怪しい。
リュドラスは、改めてダルルンをジロジロと眺める。
厳つい顔は、マスコットキャラクターと言える可愛さがほぼ無い。
しかし、この喋り方にどこか既視感のある……前世か今世の記憶か思い出せないが、脳内にぼんやりと浮かぶシルエットは赤い毛むくじゃらの魔物な生物だった。
そして、変な語尾の喋り方に反してその声は、無駄にダンディなイケボだ。絶対〇水〇の声使ってるだろ!……いや!〇水〇って誰だ!!
頭にドカドカと流れ込んでくる、知らない生物、知らない人物の名前。知らない情報のはずだが、本能がそれを識っている。
「……ぐっ…頭がッ」
「おやおや、厨二病ですかな? 」
「厨二病じゃねぇよ!! 」
また反射的に、よく分からない病名に反応してしまった。これが存在しない記憶なのか存在してる記憶なのかもわからない。理解が追いつかなくて怖い。
「ワタクシが思うに、アナタは以前は日本人だったのでは無いかと……だから魔法少女に対する適性がある」
「日本人〜?つか、日本って何処にあるんだよ 」
「完全に別次元ですな。貴方もワタクシと日本に帰れたら、全て思い出すかもしれませんぞ? 」
この際日本でも何処でもいいから、兎に角ここから逃げ出したい。でも、あの4体の化け物達を俺が倒すんだろ?しかも一人で!!こういうのってチーム戦じゃないのか!?知らんけど!!
「つか、派遣業もしてるなら、こっちにその魔法少女とやらを派遣して来いよ!!そして俺を助けてくれ 」
「いや、普通に考えてこんなヤバい世界に派遣されたがる魔法少女はいませんよ。時給1800円でも来るかどうか……」
「時給制!?」
「歩合制の場合もありますが 」
魔法少女も給料貰って働いてるんだなぁ、やはり先立つものは金だもんな。
そう思いながら、リュドラスはダルルンの話を話半分に聞いていた。
「貴方が魔法少女になり、この世界を救った暁には、報奨金もお出ししますぞ。時給は出ませんが、今回は歩合制と言うことで 」
「出た、歩合制 」
確かに、こんな難易度の高いミッションで時給制にしたら、いくら金がかかるか検討もつかない。考えたくは無いが、100年戦争、もしくはそれ以上も有り得ないとは言えないのだ。
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