おめでとうございます!中ボス様は魔法少女に選ばれました!▼

0gⅢ

第1話 魔王は綺麗に終活を終えてから退場しろ


「不味い……よくもまあ、こんな不味い物をこの僕に出せたものだな 」




月明かりが差し込む薄暗い部屋の中、闇に浮かび上がるように光る、鮮烈な紅い瞳がこちらを見下ろしている。 


その声の主は、手にしていた液体の入ったグラスを階段の下へと放り投げた。

階段の下で跪く男の目の前に、ガラスと液体が飛び散り、着ている服を赤く染める。


「…も…申し訳ございません 」


跪いた男は、震えた声で謝罪の言葉を吐く。


その様子を見た紅い瞳の主は、目を細めるながら溜息をついて、再び男を睨みつけた。


「……フン、もういい。下がれ 」


その言葉に、男は一瞬チラリと視線を上げる。


「はい。失礼致します 」


そう言い終わるや否や、急いで割れたガラスをかき集めると、早足に出入口の扉へと向かっていく。

ダメ押しに扉の前で申し訳なさを装い、再度、深く一礼。

そして扉を閉めた後は、光のような速さで自室へと走り出した。


「くっそーー!!!ほんっっとムカつくクソガキだな!!」


いや、正確に言えばガキではなく陰険なショタジジイなのだが。


先程の高圧的な声の主は、”ブラッドヘイズ”

この塔を支配する魔人である。

彼は今は亡き魔王が創り出した、魔王幹部と言われる、この世界で最強の一体だ。


この世界にかつて君臨していた魔王は、特殊な力を持っていた。

それは、高位の魔物を生み出す力。

魔王は所謂転生者であり、戦闘能力こそ無かったが、魔物を生み出すチート能力で最強の魔物を作り出し、配下に置く事で身を守っていたのだ。


─そして先程、パワハラを受けていたこの俺も、実は転生者だ。


今の名前はリュドラスと言う。


見た目も金色の目、金色の長髪と言うだけで、特に目立つキャラデザではない。

中盤で殺られる想定だから、キャラ立ちさせる必要はないのだろう、と少し尖った意見を記しておく。


転生したという事実的な記憶はあるが、以前は何処の何人で何者だったのか、全く覚えがない。分かるのは、たまに出てくる前世の記憶から来る知識が微妙に役に立つという事と、性別が男ということだけだった。


転生者の俺は、申し訳程度のそこそこの能力を貰ったらしい。それはそうだろう。俺はこの世界の主人公ではない。勇者でもなく、ラスボスでもない、中ボスという微妙なポジションだからだ。


中ボスならもしかしたらワンチャン、チート勇者に寝返ってチート無双に便乗してこの世界からおさらばできるかもとか、そう思っていた時期が俺にもありました。


勇者、全然、来ない。


もしかしたら来てるのかもしれないが、強い魔物を作りすぎた魔王(故)のせいで、能力の覚醒前に死んでる可能性も高い。


そうなれば、俺のこの魔人生は完全に積んでいる。

魔王亡き今、残された最強の魔人は四体。チート勇者が例え奴らを倒せなくても、俺だけでも倒してくれたら問題無いのだ。後は自分の知ったことではない。


どういう訳か、自害も許されないこの身体は誰かに殺されない限り、この世界から解放される事は無い。

どうして魔王は、この厄介な魔物達を連れて消えてくれなかったのか。そこの所、しっかりと終活して欲しいものだ。

しかし、この死ねない身体は本当に厄介な物で、このままだと一生、あのブラッドへイズに虐げられながら生きていくしかないのだ。死にたい。死ねないけど死にたい。


「ツライ……」


そう呟き、満身創痍で自室の扉を押した。


ガツン


鈍い音が響き、ゴロゴロと何かが転がる音が聞こえた。


「あ?なんだ?何か当たったな 」


部屋を覗き込んだリュドラスの目に飛び込んで来たのは、床に転げたオッサンの生首の様な物体だった。



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