第43話「学校が楽しい」
小豆は学校が楽しいと感じ始めていた。周りが支えてくれる。心配かけたくないと思えるほど大切な人が増えた。まだまだ恐怖感は抜けない、それでも必死に抗う。
時には気が張って疲れてしまい休んでしまうが、ゆっくり自分のペースで良いと咲花先生に言われて、少しずつ前に進む。
無理をして身体や精神を壊したりすれば余計に後退する。何も良いことはない。キツい時は相談して休みを入れる方がいい。
小豆は体育をするのも難しく、見学するか保健室で勉強する。だが動くのが嫌いな訳ではない。今はまだ無理でも、時が経てば出来るようになるかもしれない。
体を動かすことは脳にとって良いことだ。じっと机に向かって勉強していればいいとは言えない。学校が楽しくなってきた小豆にとって、挑戦してみたい事柄ではある。
運動神経はあまり良くないが、小学生の頃よく外でボール遊びに混ぜてもらった経験もある小豆。
本が好きだから運動しないという訳ではないのだ。と言っても、そこまで沢山運動する方ではないのは確かだが。
動きが少しずつ大きくなっていくことで今までより食べる量も増える。いい刺激になっているのだ。
食べる量が少し増えれば活動する気力も湧く、いい循環だ。小豆は物語を書くことに頭を巡らせる。
沢山の本を読んで思い浮かべるストーリーだが、中々言葉を紡げない。咲花先生にその話をしてみると、経験値がまだ足りてないかもと言う。
「色んな経験で知った言葉や知識、週間や生活は本を読む力もつけるわ」
想像力の強化。実際の体験が読解力に追い風を吹かすこともある。例えばイジメられ感じたことの経験は、
感謝の気持ちを持てれば、優しい世界感を作ることが出来るだろう。謝罪の念は辛い主人公の気持ちを書くのに使える。
様々な実体験が創作の役に立つ。感性は磨かなければいけない。感性を磨くのに、学校生活や社会に出てからの経験は丁度いいのだ。
また人から体験を聞いてみるのもいい。小豆は陸上部の千代に思い切って取材してみる。
「走りきった後は爽快だよね。記録が伸びたらめちゃくちゃ嬉しいし!」
千代の走りを文字にする。表情や体の動きを言語化すると、とてもタメになる。走り始めの表情と走り終わりまでの表情は全然違う。上手く表せられてるか不安になるが、千代にもう一度聞いてみると、こう言われた。
「そんな感じで合ってると思う。私は自分の表情を見れないからわからないけど、小豆さんの感じ方は間違ってないと思うよ」
更に空手部に向かう小豆。賢也と優斗が試合をしていた。どちらも真剣な顔で勝負している。勝ったのは賢也で手を挙げて勝利を表す。
優斗は悔しそうだ。中々勝てないままいる。小豆はそういう感情も取り入れたいと思っていた。
「小豆か。小説は捗ってるか?」
賢也が尋ねると、色々な経験を聞いて回っているいる事を小豆は伝えた。
優斗の方を見ていた小豆に気付く。賢也は優斗に話を通す。
「うーん、悔しいよ。やっぱり鍛えてる地の部分が違うんだろうね。僕は家では勉強してるし。全然差は縮まらないね。一回でいいから本気の賢也君に勝ちたい。もどかしいね」
勝てない悔しさ、勉強しなければいけない苦悩、鍛えても差は縮まらないもどかしさ。
それらは優斗が苦しんで、勝利に飢えている事からきている。そういう心境を感じ取る小豆。
そうこうしていると料理部で差し入れを作ってきた巫女がやって来る。
小豆は巫女に料理を作っている気持ちを聞く。
「うーん、そうだねぇ。大切な人たちが健康で、食べて幸せになるように作っているかな」
カロリー計算や栄養素、何より味を美味しくして喜んでもらうこと。他人への思いやりを第一に考える巫女。その想いは優しく多くの男子に響き渡る。
巫女に見てもらおうとしている男子は多い。ええかっこしいな男子も沢山いる。空手部の男子たちは巫女が来ると寄ってくるし、話しかけたりもしてくる。
小豆はそんな巫女のことを尊敬していた。人気者には中々なれない。それだけで才能だ。
そしてそれはヒロイン属性でもある。小豆は自分の物語のために巫女をよく観察する。細やかな作法まで見ていると色んな面が素晴らしい。
「……巫女さんはどうやってその美しさを手に入れたの?」
「え? な、何? 突然。美しさ?」
抽象的な小豆の表現に困惑する巫女。小豆はただ見つめる。
「うーん……。多分お母さんに色々習わされたからかなぁ」
習い事を沢山してきたという巫女。今はそれらをマスターしたため自由にしているが、小学生時代は厳しくされていたという。
そんな彼女だからこそ、滲み出る美しさや優雅さがある。綺麗で可愛い彼女はいつだって注目を浴びる。それは日頃の努力の賜物だし、そう簡単に手に入れられるものではない。
小豆は巫女の長い髪に触れていいか聞く。大丈夫だよと言われて触れた髪はとてもサラサラしていた。
きっと美容院で綺麗にしてもらって、自分でもケアを怠っていないのだろう。
小豆は髪の毛ボサボサだ。美容院に行く勇気が出ない。時々母親に切ってもらうだけだ。
そういうのも試してみるのもまた一興よ、と咲花先生は言う。流石に首を横に振る小豆は、最後に帰りに美世に話を聞く。
「んー、私は楽しかったらそれでいいかな」
合唱部でピアノを弾いている美世。ミスもするが笑って許してくれる部員たちだから、楽しく弾ける。
楽しめることが一番いい。楽しいだけが全てではないし、苦しいことや辛いこと、悲しいことや寂しいことも沢山ある。
だが楽しめることを第一にしていけば心は明るくなっていく。楽しめないこともしなければいけないが、やっていて嬉しくなるような事がなければ続けられない。
ではどうすればいいのだろうか? まずは自分が楽しんでみることが大切だろう。何事も楽しい未来を想像し、こうなったらいいのにという願いを実現するために努力をするのが肝要だろう。
「……楽しむ、難しいよ」
「そうだね。実際はめちゃくちゃ難しいよ」
美世は笑う。だが、それを手にした時の快感は半端ない。だからこそ探して欲しいと思っている。
「……私にできるかな」
「もうしてるんじゃない?」
小豆の疑問に美世は、もう既にしていると言う。小豆は頭で考えた後、確かにもう今既に楽しんできていると思い直す。
家に帰った後、小豆はノートに
どんどん心が明るくなっているのを感じる。まだまだ暗いままではあるし、ゆっくりペースではあるが、心の顕微鏡で見れば大きく動き始めているのがわかる。
意欲が湧いてきている。一瞬で沈んでしまうから油断は出来ないが、前向きになれたことは大きな一歩。
やれない事の方が多いけど、やってみたい事も少し増えた。お小遣いで本も増える。改めて充実した日々を送ることが出来るようになってきたことを、咲花先生に感謝した。
そして次の日の放課後、小豆は新聞部の人に声をかけられた。初対面の人だからこそ心臓が高鳴り逃げたくなったが、堪えて話を聞く。
取材紛いの事をしていた小豆の事を聞いた新聞部の人は、入部してみないかと声をかけたのだ。
勿論強制ではない。小豆の事情は新聞部の人も知っている。もし記事に出来そうな文章を書けたら提出するだけでもいいと言う。
「入部してみてもいいんじゃない? 幽霊部員になってしまってもいいじゃない。もし何か書けそうな事があったら書いてみたらいいのよ。どうかしら?」
咲花先生は前向きに考えるように言う。何も出来ないよりは良い。小豆は少し考えた後、よろしくお願いしますと答えた。
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