第40話「守るために戦うならば」

 賢也とは違う形の守るために戦う事を決めた優斗は、賢也のようになりたいと願う。そしてそれは少しずつ身に付いていった。徐々に優斗の体も大きくなる。

 優斗は巫女を守りたいと願った。巫女の眼中にはなかったが、それでも彼女を守れるならそれでいいと思っていた。

 だが欲は出るものだ。守る対象から見て貰えないのは苦しい。勿論友達としては接してくれる巫女だが、彼女は賢也のことばかり見ている。


 勉強をしていても巫女の事が気になる優斗。ノートを見ているようで巫女の事を横目で見てしまう。

 どうすればこの気持ちが収まるのかわからない。咲花先生は秘密を守ってくれると思って相談する。

「まぁそりゃそうよねぇ」

 先生は妙に納得して半笑いのまま固まった。らしくないと言えば、らしくない。だが優斗は真剣だ。先生の目を見つめ必死で訴える優斗に先生はため息をついた。

「私も恋愛相談を受けるのは初めてだけど、まず最初に言わせてもらうわね。あなた、告白する気はあるのかしら?」


 ドキリとする優斗は目が泳ぐ。自分から告白するなんて考えてなかったのだ。これには呆れた咲花先生。自分から想いを伝えなければ、今の状況で振り向いては貰えない。

 だが優斗は、今のまま告白しても成功するのは難しいんじゃないか? と先生に聞いた。

 先生は腕を組んで悩む。確かに撃沈する確率の方が遥かに高い。


 ではどうしたらいいのか? 悪党が急にやってきて、巫女を攫っていったのを助ける、なーんて事はまず無理だ。

 咲花先生が悪役をしたら可能だろうがまずバレる。例えば名田先生などにマスクを被ってもらって悪役をしてもらうか?

 答えはノーである。流石にそんな事は頼めない。それに恐らくだが、優斗より賢也の方が早く助けてしまう。それだけ近い距離にいつもいる。

 何よりこんな狡い方法で巫女に惚れられても意味がない。オマケにバレたら印象最悪だ。

 まず逆転不可能になるだろう。


 咲花先生は考えた末、優斗に話す。

「地道に神谷さんのためになることをしていきなさい。細やかな気付きを働かせていけば、自ずと印象は良くなるわ。そして振り向いてもらえると思ったら迷わず告白しなさい」

 優斗は頷いた。たとえ振られてしまっても経験になると思った先生。正直言うと今の状態だとよくて二割くらいの勝算だ。

 それだけ巫女は賢也を想っている。賢也を想っているところに告白されても困るだけなのだ。それは優斗もわかっている。

 賢也を落とすことは出来ない。当たり前だ、そんなの反則だ。蹴落としたい気持ちが全くない訳ではないが、友達としてそれをしてしまってはお終いだと思っている優斗。

 ならば優斗が上がるしかない。巫女にしっかりて貰えるように振り向かせる、そのための努力が必要だ。


 優斗は文字通り優しい。顔も良いし、誰かのために尽くすタイプだ。聞けば家事も少しずつ手伝わされているようで、デキる男だ。

 それならばそういう方面で攻めさせる先生。

 次の日、昼休み。優斗はいつも通り賢也と巫女と食事を摂る。食後に優斗は饅頭まんじゅうを作ってきた。母に教わって作ってきた優斗は、巫女にも食べてもらう。

「うん、美味しい!」

 巫女にも喜んでもらえた事にガッツポーズをする優斗。和菓子は筋トレとも相性が良く、美味しいのにトレーニングする者に合うのだ。

 賢也も満足した様子で食べている。それに対して巫女はこう言った。

「私も作って食べさせてあげるね」


 ああ、これでは駄目だ。そう感じてしまった優斗。巫女も料理ができる。尽くす側では魅力が出ないと思ってしまう。

「作り方を知ってるのか?」

「ううん。お母さんに聞いてみるよ」

「それなら優斗に今ここで聞いた方が早くないか?」

 賢也の上手いパスである。優斗はゆっくり丁寧に作り方を教える。勿論ここは教室だから、道具なんてない。専門用語だと分からないと思った優斗だったが巫女は幅広く知識を持っている。

 材料や道具の名前くらいならなんとなくわかる。そして優斗が暗記していた材料の適量等をメモしていく。


 口頭だと説明しづらいから今度家に行かせて貰えないか聞く優斗はかなり攻めていた。

「家かぁ。賢也君と優斗君が二人来てくれるならいいよ」

 あくまで賢也のオマケみたいな扱いだが、作り方を教えるのは優斗だ。これでいいと了承した。

 賢也も了承する。こうして今日は放課後、巫女の家に二人で向かうことになった。

 空手部には行かない。強制ではないし、行ってしまうと時間がなくなる。買い物にも行ってお小遣いで材料を買う。

 お母さんが和菓子屋の娘で、元々和菓子作りを仕込まれていた経験があると言う優斗。テキパキと買い物していく優斗に巫女は感心していた。


 賢也には分からない世界。だが買い物する優斗と巫女を微笑ましく見守る。

 巫女の家に着くと巫女の母が出迎えてくれた。キッチンを借りて、巫女の母が見守る中、優斗が巫女に饅頭の作り方を教える。

 作り方を教えている時、触れ合う二人だが気にしないようにしていた。賢也は巫女の母と共に見守る。

 幸い巫女の家のキッチンにあるもので饅頭は作れるようだった。優斗の家では調理器具が本格的な物だが、そこまで贅沢は言えない。

 優斗に教わる通りに作っていく巫女。出来上がった饅頭はとても美味しそうだ。


「やった!」

 巫女はガッツポーズをして喜んだ。その姿があまりにも可愛らしくて見蕩みとれる優斗。賢也に声をかけられハッとする。

「皆で食べないか?」

 材料は多く買ってきていて失敗してもいいように少し少なめに作ったからみんなで食べるには足りない。

 量を計算し、もう一度同じ数量作る巫女。今度は優斗も見守る側だ。少し焦げたが良い色合いの饅頭が出来た。帰りの遅い巫女の父にも食べてもらえる。


 巫女の部屋で三人分の饅頭を持ってきて食べる優斗と賢也。賢也は全く気にしてなかったが、女子の部屋に入るのが初めての優斗にはドキドキだ。

 賢也は波江の部屋で慣れている。可愛らしい部屋にも反応しないし、当たり前。何より波江の部屋と巫女の部屋は似ていた。

 ピンクに近い色の部屋模様に、ぬいぐるみがある。男性アイドルグループのポスターが何枚か貼られていて、机には家族写真の入った写真立て。

 本棚は料理などの本で埋め尽くされていた。当然、辞典や勉強に関する本もある。

 優斗にとっては巫女一点張りの部屋だ。好きな人の部屋ほどドキドキするものはない。


「あまりジロジロ見ないで欲しいな」

「ご、ごめん!」

 ついつい注視してしまう優斗だが、注意されて饅頭を食べるのに集中する。

 帰る時、玄関まで見送ってくれた巫女。手を振りながら帰ると優斗は寂しくなる。巫女のいる、あの空間に居たいと思ってしまう。

 パシッと優斗と肩を叩く賢也。パシパシと賢也は叩く。それを受けて返しながら優斗は賢也に尋ねる。

「僕に守れるんだろうか?」

「守れるかどうかなんて関係ない。守るんだ」

 賢也の言葉に優斗は、ジャブを繰り出す拳に力が入る。全くもってその通りだ。守ることが可能かどうかなんて関係ない、絶対に守り抜くという強い意志が大切だ。


 次の日、優斗のことも巫女に見てほしいと思った彼は行動に移す。巫女を屋上に呼び出し彼女に思い切って告白する優斗。

「神谷巫女さん、好きです! 恋人になってください!」

 玉砕覚悟の彼に巫女は驚いた。正直言うと彼の気持ちには薄々気付いていた。だが今告白されるとは思っていなかったのだ。

 無謀にも見える優斗の告白。その答えが巫女から発せられる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る