第33話「バレンタインデー」

 女の戦いバレンタインデー。巫女は手作りチョコを作る。勿論クラスの男子と女子全員分。咲花先生にもチョコを作ってきた巫女。咲花先生も同様にチョコを作ってきていた。

 咲花先生のチョコは巫女の物に比べて不出来だったが、愛情が込められている。

 賢也には特別なハートチョコを渡した巫女は、反応を待つが特に何もなかった。がっかりする巫女の方を見ているのは優斗だった。


 巫女はがっかりしながらも優斗にもチョコを渡す。それは賢也にも渡した特別なハートチョコだった。

「ありがとう!!」

 優斗はとても嬉しそうにしている。この反応を賢也で見たかった巫女。だが優斗があまりにも喜ぶのでつい笑ってしまった。

 賢也は咲花先生から貰ったチョコをまじまじと見ていた。

「はい、チョコを食べるのは昼休みにしてね。ショートホームルームを終わります」


 咲花先生が教室を出て、担当教科の先生と交代する。咲花先生は今日はC組で一時限目に国語の授業がある。

 先生はC組の教室に入っていつもの様に授業を始める。この中には小豆をイジメたもの達がいる。勿論ほとんどの生徒は反省はしているだろう。

 今日の黒板係を確認してノートを受け取り、授業を始める。黒板係は小豆をイジメた首謀者の女子生徒だった。書き始めのノートには『国定さんは元気ですか?』と書いてあった。

 彼女なりに反省したのか、それとも家へ訪問している咲花先生に偵察してるのか、どういう意図かはわからないが、咲花先生はこっそり『元気はないけど頑張ってるわ』と書いた。


 昼休み、ご飯の後にチョコを食べる。賢也と優斗は巫女から貰ったチョコをかじった。

「美味いな」

「うん、美味しい!」

 それを聞いてホッとする巫女は、自分が貰ったチョコを見る。明らかに賢也と優斗よりも貰っていた。

 というか賢也と優斗は咲花先生と巫女からしか貰っていない。だが巫女は色んな女子から友チョコを貰っていた。

 正道中学一年生の女子のうち半分が女子同士の友チョコを渡しあっていた。逆に男子はチョコを貰えてないものがほとんどだ。


 咲花先生からのチョコをありがたく涙ながらに食べる男子たち。賢也と優斗は巫女から貰えているので恨めしく睨まれる。

 賢也と優斗も咲花先生のチョコを食べる。まぁまぁの味だ。だが二人とも味わって食べた。

 巫女は今日中には全部食べられないので持って帰る。特に話していない女子からもチョコを貰ったので巫女の容姿の美しさが分かる。

 それだけの容姿を持ってしても咲花先生には敵わないのかと思われるが、これはそういう問題ではなかった。


 女子の容姿から惚れる男子はとても多い。勿論中身が伴っていれば尚良しだ。だが中身だけを基準にする者も少数いるのだ。

 とはいえそれは多くの大人の場合だ。思春期にしては珍しいが賢也は中身しか見ない人間だった。

 じゃあ容姿が整っていなければ良いのかと言えばそうではない。賢也にとって強い体に強い心が伴うと思っていた。だから心の強い女が好きだったとも言える。

 守る対象もまた好みだったため巫女の事は好きでもあった。だが背中を預けられる、そして逆に預けて欲しい存在というのは中々いない。

 それだけ咲花先生は賢也にとって大きな存在になっていた。もっともっと教えて欲しい。励まして欲しい、そんな欲望が芽ばえる。


 バレンタインも終わり、一年生の三学期は佳境を迎える。テストも近づき緊張感に包まれる学校内。

 とにかく赤点を回避しなければと励む賢也は、優斗と巫女に教わりながら、咲花先生にもしっかり教わりながらテストに臨む。

 その姿勢に、あの喧嘩をしまくっていた賢也がしっかり勉強をしていると、教師間でも話題になった。

 数学の川戸先生は言う。

「今回は合宿に天谷君は来なくてもいいかもしれませんね」

 他の教科の先生たちも頷く。

「美井さんと河合さんも頑張ってますよね」

 国語という教科しか見てない咲花先生だが、美世と千代の勉強具合には感心していた。


「咲花先生のおかげですねぇ」

 いつの間にか校長室から職員室に来て話を聞いていた校長先生。咲花先生はぺこりとお辞儀をして、校長先生と話す。

「私は少し力添えをしてあげただけです。彼ら自身の秘めた力ですよ」

「それでも内なる力を解放する手助けをしてあげられたなら、それはとても素晴らしい功績です。もうすぐ一年が経ちますね。そろそろクラスについての振り分けを考えても良い頃合でしょう」

 一年生はA組からE組の五クラス。担任はそのまま二年生に繰り上がる。自分が誰を担当するか話し合いで決めて、クラス分けするのだ。

 成績や交友関係、クラスの相性などを考慮して振り分けられるクラス分け。春休みには決めてしまわなければならない。


 春休みには春勉強合宿がある。冬の時と同じで学校で行われる。宿泊施設を利用するのは夏だけだ。

 赤点を二つ以上取った者を強制参加にして、数名以内で自由参加を認めている勉強合宿。

 合宿と言っても、夏以外は泊まりはない。朝から夕方まで先生が付きっきりで勉強を見るだけだ。

 賢也は冬合宿の時は赤点は三つだった。もし一つまでに抑えられたら強制参加はなしでもいい。

 一応言っておくと強制参加と言っても無理強いまでは出来ないので、自分の意思で参加してくれなければいけない。

 強制だぞー、と言っても強制力はないのだ。全くもって矛盾した話だ。


 とにかくテスト期間がそろそろ始まる。先生たちはテストを作る。今はテストを作成するのもアプリなどで手軽にできる。

 勿論そういうものが使えない先生は昔ながらの方法でパソコンで作るしかない。

 時代の流れは教師間でも存在した。咲花先生は若いのもあって手馴れていて、すぐにテストを作り終えてしまう。

 あとは印刷するだけだ。昼休みも終わってしまう、次の授業の準備をする。


 現在正道中学校の教師の数は結構ギリギリだ。補填は効くが、誰かが倒れると穴が空く事もある。副担任を任せるほどの人数がいないのだ。

 非常勤講師を雇おうとした動きもあったが、緊急時以外は雇わないというのが校長先生の考え。

 いつもの先生がいつも通り授業出来ることが大切なのだ。それでも体を壊す人はいる。

「次の社会の授業行ってきますね」

 咲花先生は余裕があれば代わりを買ってでた。社会の先生は現在体を壊して入院中。先生たちが代わりばんこに穴を埋める。

 先程言ったように、緊急以外は非常勤講師は雇わないが、今は非常時だ。だから非常勤講師を募集中の正道中学校。

 教員を目指しても中々合格できない人も多い。教員が多ければいい訳ではない。学校の運営は大変なのだ。


 咲花先生の社会の授業。D組の社会の授業に出た咲花先生は早速黒板係を生徒に頼む。

 生徒たちにどこまで習っているのかを聞き、勉強を教えていく。皆、咲花先生の黒板係が楽しみで字を練習した者も多くいる。

 当然面倒くさがる人も沢山いるが、一人一人歩きながら目を見ていく。

 咲花先生は背が低い。だから机で座る生徒たちとは見上げる形になる。机に向かってメモを取る人の顔を見たり、眠っている人の肩を叩いて起こしたりする。

 一人一人に声をかけて、「大丈夫? 頑張ろうね」と優しく語る先生には敵わない生徒たち。

 中学生から躓いて欲しくないという思いの強い咲花先生は、ただひたすらに生徒の為にと奮闘した。


 そうしてやってきた終業式。校長先生の話を終えて教室に戻ってきた生徒たちは、やっと休みだと声を上げた。

 皆が帰っていく中、賢也は咲花先生に尋ねる。

「勉強合宿は咲花先生が教えるのか?」

「そのはずだったけど、今回は該当者なしよ。よく頑張ったわね、天谷君」

 それを聞いて賢也は咲花先生にある相談をする。

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