第23話「お正月も一緒に」
お正月、昼過ぎの空いてる時間に近くの神社で初詣。賢也と優斗と巫女は一緒に初詣をする。着物姿の巫女にドギマギする優斗と、咲花先生は一緒じゃないのか? とガッカリする賢也。
一方その頃、先生同士で交流を深めようとしていた川戸先生含む男性教師は、咲花先生含む女性教師に愛想を尽かされ、別行動を取らされる。咲花先生を小さい子供のように扱う女性教師の面々に半笑いになった咲花先生は、早く時が過ぎ去れば良いのにと思っていたのだった。
「すいません、お子さんの飲酒はダメです」
店員が咲花先生の飲酒を止めてくる。咲花先生はすかさず鞄から免許証を取りだし言った。
「私、成人してます!」
「え!?」
店員さんは慌てて確認する。写真も同一人物である。
「あの……お母さんの免許証を持ってきたとかではなくて……?」
「保険証もありますよ?」
頭を下げる店員。注文を聞き入れ厨房へ行く。
「その身長だと色々大変そうですね」
女性教師の一人が咲花先生に声をかける。咲花先生は首を横に振った。
「慣れたものですよ。免許証取るまでの方が大変でした」
和気あいあいとした中でお酒を飲む咲花先生。お酒に強い咲花先生はグイグイ飲んでいく。
「強いんですね」
「内蔵はなんか強くなっちゃって」
背が低いと許容量も小さそうなものだが、関係なく飲み干す。
「咲花先生ってちっちゃくて可愛いですよね」
「あはは……」
「うちの子になって欲しいですよ」
「勘弁してくださいな」
酔っ払った女性教師の絡みが面倒になってきた咲花先生は、一次会で抜けて連絡をとった彼らとの合流地点に向かい歩く。昼に飲んでいたのでまだ彼らはいるはずだ。
小さな神社の傍の公園のベンチに腰掛ける彼らは咲花先生の顔を見ると嬉しそうに笑った。
「やっぱり先生がいないとね」
優斗が言う。寒がりな彼は沢山着込んでいる。
「咲花先生、飲み会はもういいんですか?」
巫女も手袋にマフラーをかけている。着物姿の彼女も中に少し着込んでいて寒さを凌いでいた。
「咲花先生は酒にも強そうだな」
賢也はそこまで着込んでいなかった。上着を羽織ってるくらいで見てるこっちが寒くなりそうだ。
「皆はもうお御籤引いたの? 私も引きたいわね」
そして咲花先生は子供用のダウンジャケットを着た普段着。
「まだお御籤引いてないんです。先生を待とうって言ってて」
「それなら早く行きましょう」
人がまばらな神社で今年の願いをお賽銭と共に神様にお願いする咲花先生たち。
お御籤を引いた咲花先生たちは同時に見せ合った。
咲花先生は末吉、優斗は小吉、巫女は大吉、賢也は大凶だった。
「うわぁ……賢也君、どんまい」
優斗が賢也を励ます。
「どちらかと言うと私と大鷹君の方がどんまいね」
「え!?」
「見せ場がないもの」
咲花先生が笑う。優斗は苦笑した。巫女は大吉で喜んだが、賢也の大凶に同情して言った。
「私の運を分けてあげたいな」
「ふむ、まぁこんなもんだろ」
賢也は特に気にしてない様子。咲花先生たちはお御籤結び所に行く。
「どうする天谷君、結ぶ?」
「いや持っておくよ」
ならば後日結びに来れば良いということでお御籤を持って帰る。お守りは見て回らないのか? と先生が三人に問いかけた。三人はもう神社を出ようとしていたのだ。
「咲花先生、私たちまだ受験生じゃないし、余計な散財はしないかな」
巫女は何やら口元が寂しそう。つまりこういう事だ。
「お腹が減ったから食べるのにお金を使いたいのね」
やれやれといった風に腰に手を当てた先生はこう言った。
「ご飯は先生が奢ってあげるからお守りを買っていきなさい」
すると三人は顔を見合せてガッツポーズを取った。
「何でもいいんですか? 先生!」
「私、お寿司がいいです」
「肉だ、肉を食うぞ、お前ら!」
「いいからお守りを買いなさーい!」
咲花先生も交通安全のお守りを新しい物と買い換える。巫女は恋愛成就のお守りを買っていた。優斗は学業成就のお守りを、賢也は厄除けのお守りを買っていく。
「なんだよ、気にしてるじゃないか」
優斗が笑う。賢也は首を横に振り、古い厄除けのお守りを返納した。毎年厄除けのお守りを買っているのだと言う。
「そんなに災難に遭うの?」
「そういうわけじゃないんだが……あの日からせめて祓える厄くらいはと思ったんだ」
それ以上は賢也は語らなかった。気になって聞こうとした優斗だったが咲花先生に言葉を出す前に止められる。
賢也の言う『あの日』とは一体何なのか、それは賢也の過去に触れることだ。自分から言わないなら聞かれたくない事かもしれない。
そして聞いたところで救われない話かもしれないのだ。それなら時を待つのが無難だろうと思った咲花先生。
咲花先生たちは神社から出てファミレスに寄る。ファミレスに来た事にブーイングが起きるが、食事が運ばれてくると美味しそうに食べる三人。
咲花先生は自分の分のご飯を食べながら、賢也を見つめる。きっと賢也は小学生の頃嫌な思いをしたんだろうなと思う先生。
それは普通になりすぎて異常な事。賢也の身体が出来上がり過ぎている事だ。どんな過酷なトレーニングを自らに課したら、その歳でそこまで筋肉が付くのか。
彼はまだ中一だが、高校生と見られてもおかしくない体つきをしている。両親の育て方も良いのだろうが、小学生から上がってきたばかりのように見えない。
勿論この約十ヶ月間で鍛えた分もあるが、入学時もかなり筋肉質だったように思える。きっと彼なりに努力したんだろうその筋肉はきっと、強くならなければならないという自分を責める思いからきてるのだろう。
何があったのかは咲花先生にも分からない。何かがあった事だけが分かっている。
咲花先生は目を細めて賢也を見ている。視線に気付いた彼は、ご飯を食べるのを止めて咲花先生の方を見る。
「どうかしたか?」
「いいえ、何でもないわ」
咲花先生は自分のご飯を食べ終えて、三人に言う。
「何か相談があったらいつでもいいから話して頂戴ね」
三人もご飯を食べ終えて先生を見る。巫女が申し訳なさそうに咲花先生に言った。
「すいません、相談があるんですけど……」
「あら? 何かしら?」
巫女の言葉に咲花先生は何事かと姿勢を正す。先生モードの発動だ。
「おかわりしていいですか……?」
先生は机に頭を打った。真面目に聞こうとした途端にこれだ。育ち盛りの彼らには一人前では足りなかったらしい。とはいえ咲花先生も足りないと思っていたので追加で注文する。
昔は一人前はもっと多かった。材料の値上がりなどの波で量を減らしたり値段をそのまま上げたりしているのだ。
お腹いっぱいになった咲花先生たちは、店を出る。歩いていると賢也が咲花先生に話しかけた。
「なぁ……咲花先生」
「どうしたの?」
「先生はさ……友達っているか?」
吹き出して笑った先生は、当然でしょと言った。
「今も連絡を取り合っている友達が何人かいるわよ」
「それは学生の頃からのか?」
「そうよ?」
咲花先生だってまだ二十四歳だ。友達は小さい頃からの友達もいるし、大学生の頃の友達もいる。
「そうか……」
咲花先生は、あなたにもいるじゃない、というその言葉を飲み込んだ。何か深い事情がありそうな気配を感じ取ったからだ。
「僕たちも友達だもんね」
優斗は楽しそうにしている。巫女も頷いていた。
「そうだな」
肯定する賢也は何故か遠くの空を見ていた。咲花先生は心配になり声をかける。だが賢也は上の空だった。
「もう五年か……」
呟いた賢也の切なそうな声に反応した咲花先生はただ手を握ってあげた。それに気付いた賢也が咲花先生の顔を見る。心配している顔をしていた先生に、賢也は前を向き直して言った。
「大丈夫だ、ありがとう」
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