第21話「クリスマスの誘い」

 クリスマスイブ、咲花先生に誘われた賢也と優斗と巫女は教室で飾り付けをする。そして下校時間になり見送る咲花先生はサンタのコスプレをしていた。

 可愛いと思った巫女は、明日の終業式でコスプレして来てもいいかを尋ねるが校則違反だから駄目だと言う咲花先生。

 自分だけ可愛い格好して、と口をすぼめる巫女だったが、クリスマスプレゼントだと言って咲花先生に渡されたポインセチアの花のキーホルダーに喜んだ。


 クラスメイト全員分のポインセチアの花が描かれたキーホルダーを作っていた先生。図工と美術の先生にも手伝ってもらったらしく、とてもいい出来のキーホルダーだった。

 手作りと分かって更に喜んだ巫女は何かお返しを出来たらと思うが、咲花先生は大人のサンタからの子供への贈り物だから気にしなくていいと言う。


 代わりに終業式の後、咲花先生の道場に来るように言われた三人。電車に乗った後着いた先で道場に到着すると、美世と千代が後ろから駆けてきた。

「やほー!」

「あれ? 美世さんと千代ぷっちょさんも呼ばれてたんですか?」

 後ろから声をかけた美世に振り向いた三人は、どうして美世と千代がここにいるのかを聞く。

「それにはワシが答えよう」

 サンタクロースのコスプレをした咲花先生のお祖父さんが道場の前に立っていた。そして隣の自宅へ案内するお祖父さん。


 改めて広い家だった。茶を出され待っているとサンタのコスプレをした咲花先生が帰ってきた。

「遅くなってごめんなさい。さぁクリスマスパーティをするわよ!」

 先生はケーキやらチキンやらを買ってきていてパーティするつもり満々だ。

「あの……僕、家でも多分色々食べさせられると思うんですけど」

「勿論、家庭の事情はわかってるわ。だからご家族には連絡済みです。安心してここで腹いっぱい食べなさい!」

 それを聞いた優斗はよく彼の父親を説得できたなと先生に感心した。


 クリスマスパーティが始まる。クリスマスソングを歌う咲花先生はノリノリだ。可愛らしい容姿で歌う姿を見ていると、こちらまで楽しくなってくる。次々に料理が運ばれているが誰が作っているのか不思議に思った五人はキッチンを覗いてみる。

「お母さん!?」

 どうやら巫女の母親が訪ねてきていたらしい。そして料理を作る手伝いをしていたのだ。

「神谷さんすいません、料理を作って頂いて」

「いえいえ材料は使わせてもらってるんですから、これくらい平気です。巫女のお友達を喜ばせるためなら、いくらでも腕を振るいますよ」


 巫女は慌てて手伝おうとする。だがそれを巫女の母は止めた。

「あなたはお友達と沢山楽しむ側なのよ? さぁ今出来た鍋を持っていきますから、皆さんテーブルに戻って戻って」

 巫女の母が鍋をテーブルに持っていく。みんなで鍋をつつきながら談笑する。

 話題は冬休みに何をするかという事。先生はまず宿題を終わらせましょうねと言う。宿題が終わったらどこかへ皆で出かけようよと言う巫女に、まず宿題が終わらんと言う賢也。それならまず勉強会を開こうかという優斗に、それは必要ありませんと言う先生。


 実は冬合宿の話が持ち上がっていて、賢也と美世と千代は出なければいけないのだ。そこでまた咲花先生と川戸先生が見ることになっていて、宿題もそこで教えるそうだ。

「大鷹君と神谷さんも来る?」

 咲花先生は尋ねる。自由参加はオーケーだ。今回は学校での合宿になるので泊まりではないが。

「それっていつですか?」

「大晦日やその前日は皆忙しいからその前の三日間よ」


 うーん、と唸ってしまう二人。家族との時間もある。学校で勉強するとなると少し抵抗もある。

「こ、今回は不参加で……!」

「私も……」

 優斗は巫女が不参加と言ったのに驚いた。

「あら、神谷さん珍しいわね、天谷君と一緒の方がいいのだと思っていたわ」

「……」

 俯く巫女に笑った母が咲花先生に耳打ちした。

「ああ、なるほど」

 巫女の勝負は正月なのだ。色々と母から習うことがある。皆と出かけたいというのも、きっと初詣の事を言っているのだろう。

 そのために年末は忙しくなる。学校に来ている暇がないかもしれない。賢也と一緒に勉強したいのは山々だが、そのために正月への準備期間を潰したくはない。


 皆の予定を組み、ノートにメモしていく巫女。冬休みの計画は確実なものとしたいらしい。巫女の母は血筋ねぇ、と呟いた。

「お母様もこんな感じの学生生活を?」

「いえいえ、私はむしろガサツな方です。この子の父親がマメなものでして」

 笑う巫女の母に、そういう事は言わなくていいから! と怒る巫女。そうして巫女の母は洗い物をしてくれると言うので任せた咲花先生は、クリスマスの今日、最後のプレゼントをする。

「うわあああ!」

 それは感激の声ではなかった。阿鼻叫喚だ。

「ふふふ、皆への強化メニューよ!」

 賢也と優斗には冬版トレーニングメニューと勉強の課題ノート。巫女と美世と千代には勉強のメモノート。


「こ、これ先生の手作りですか?」

「そうよ神谷さん、作るの苦労したんだから」


「もっと素敵なプレゼントくださいよ!」

「あら? 大鷹君、これもとても素敵なプレゼントでしょう?」


「これで俺も強くなれるな」

「あなたはホントに素直よねぇ」


「さーて、じゃあ帰りますか。行こう、ぷっちょ」

「あら、美井さん。勉強メモノート忘れてるわよ」


「じゃ、じゃあこのプレゼントは天谷君にプレゼントするよ」

「河合さん意味がわからないわよ? ちゃんと持って帰りなさいね」


 それぞれが諦めて勉強ノートを鞄に入れる。賢也だけが嬉しそうに受け取っていた。

 連絡はいつでも取れる、冬休みの予定はみっちり決まって咲花先生の家でのパーティはお開きとなる。

「送っていくわ、天谷君と大鷹君。場所教えてね」

「すいません、神谷さんのお母様、私は美井さんと河合さんを送っていくので」

 巫女は母親に安全運転でお願いと頼んでいる。美世と千代は咲花先生の車に乗り込んだ。

「へぇ〜! これが咲花先生号か〜!」

 助手席に座った美世のその言葉に咲花先生は笑っている。手で動かす車に目を輝かせる美世。

「危ないから邪魔しないでね?」

 先生は睨むように笑う。イタズラしたら大事故に繋がる可能性もある。

「行くわよ」


 車を運転しながら喋る美世と千代は楽しんでいた。普段でも咲花先生と喋る機会は多い。だが夏合宿以来、咲花先生とこうして周りの人がいない状態で話すことは少ない。

 いつも囲まれている咲花先生だからこそ、先生を独占しているような感覚に陥る二人。咲花先生の普段見れない顔を見ようとする。

 だがあくまでも二人を生徒として扱う咲花先生。ただそれは線を引いて突き放している訳ではない。どの生徒にも同じように近い距離で話を聞いてくれる先生だからこその対応だった。


「咲花先生〜」

「どうしたの?」

 美世が鼻歌でジングルベルを歌いながら言う。

「来年は咲花先生と同じクラスが良いなぁ」

「そうねぇ〜」

 咲花先生は笑いながらハンドルを握る。

「サンタさんにお願いしてみたらどうかしら?」

 来年の話だからサンタさんでも無理だろう。だが今宵はクリスマス。お願いを聞いてもらうのにサンタさんは絶好の的だ。

「あ! 雪だ!」

「あら本当。ホワイトクリスマスねぇ」

 ちらほら雪も降ってきて最高のクリスマス。ただ車の運転は安全運転だ。安全第一で美世と千代を家に送る。


 咲花先生は二人を送った後、自宅に帰る。するとお祖父さんが待っていた。未だにサンタの格好をしている。

「薫」

「何? おじいちゃん」

「メリークリスマス!」

 ふっと吹き出した先生は笑った。机にトンとプレゼントが置かれる。


「サンタさんから薫にプレゼントじゃ」

「え? 本当に?」


「開けてみなさい」

「……」


 中身は栄養ドリンクだった。手紙が入っている。

『いつも頑張ってる薫ちゃんへ。もっと頑張れるようにこれを送ります』

 これには先生は吹き出して爆笑してしまったのだった。

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