第13話「テストでの成長」

 一学期に五教科赤点だった賢也は、勉強を頑張る。放課後に優斗や巫女に教えて貰いながら、必死に頑張った。とはいえ自分の修行は欠かせない賢也。

 帰ってからも勉強したらもっと成績も良くなるはずなのだが、それは出来ないと言う。

 日課をやりながら勉強に励む彼は赤点を減らせた。賢也の赤点は三つ。まだまだだ。

 どうにかして賢也に勉強する楽しさを知って貰おうとする咲花先生。

 だが賢也本人の気持ちが強くなることにしか向いてないことが原因だと感じていた先生だからこそ、勉強を楽しみなさいと言っても無駄だということはわかっていた。


 運動や武道に身を入れることは悪い事ではない。むしろ勉強ばかりしていても駄目なくらいだ。

 バランスが大事。賢也は少しずつだが勉強にも力を入れてくれている。ここで先生が焦っては駄目だと感じたのか、彼に無理強いはしなかった。

 あくまでも自主性を重んじる咲花先生。自分からやろうと思える環境作りをしていく。

 いつかやるだろうと待っているだけでも駄目だ。そういう子は待っていたら一生やらない。こちらから働きかける必要がある。


 周りがやっているから勉強するという子もいる。そんな子らにも、学ぶ楽しさを覚えて貰うのに、小学校や中学校、高校はぴったりだ。

 そこで出会った恩師の教えは一生その子が纏うエネルギーとなるだろう。

 咲花先生もそんな恩師になりたいと思っていた。だから常に考えていた。どうすれば皆が勉強を学んでくれるかを。


「勉強は嫌い?」

 ショートホームルームで語りかける先生。勉強が好きな生徒なんてきっとわずかしかいない。

 正確に言うと、好きな科目と嫌いな科目がある場合もある。先生は問う。

「国語は嫌い?」

 漢字を覚えるのが苦手な生徒や、問題と選択肢の意味が分からないと言う生徒がいる。

「私はね、いっぱい悩んで欲しい」


 咲花先生は話す。完璧な人間なんていない、間違えてばかりの人生。だけど勉強が出来れば少しずつ道は開かれていく。

 得意分野だけでなく学ぶこと。苦しいのを超えた先に新しい楽しみが見つかるはず、そう言う先生。

 テスト期間は終わり、返し終えたテストを見てため息をつく生徒たち。これから挽回しなければ内申点に響く者もいる。


 賢也もその内の一人。優斗は巫女は優秀だ。中学校の勉強はちゃんと聞いてれば理解出来るものが多い。だからこそテストでどこが分からなかったかしっかり復習する事が大切だと先生は言う。

 分からない事を分からないままにしておかないこと。賢也にはわからないままにしておくこと、それが負けるということだと言い聞かせた。

 中学校でならまだ取り返せる。大人になったら取り返せない事も沢山ある。今のうちから学ぶ大切さ、勉強する楽しさを覚えること。


 賢也はテスト用紙を見ながらなぜ間違っているのかを優斗や巫女に教えて貰っていた。

 次の日まではテスト期間として部活動もない。咲花先生は放課後残る生徒たち一人一人に勉強を教えていた。

 特に国語の質問が多い。A組は国語の成績が悪い者が多かった。これは担任として放っておけない。

 暗記は出来ても言葉の意味をしっかり読み込めない子が多い印象。どんな風に文章を捉えたらいいのか迷う子が多かった。


「しっかり本を読みましょう。読書が一番の近道です」

 咲花先生はオススメの本を聞かれ、生徒一人一人がどんな本を読みたいかを聞いてから答えていく。

「好きな本一冊、もっと言うと一つのシリーズ、好きな物があるといいわね」

 先生は図書室で借りれる本を言っていく。好みはそれぞれある。ただ学生が使えるお金は少ない。図書室や図書館で借りれるならそれに超したことはないのだ。


 一年生の二学期の中間テストで学んだ生徒たち。まだまだ中学校生活は始まったばかりだ。学校生活は勉強だけじゃない。

 友達とふざけ合ったり青春を分かち合うのも大切。優斗も賢也と巫女との時間を大切にしたいと思っていた。賢也は相変わらず脳筋でそういうのにうといが、巫女の方は優斗と同じ想いだった。


 出来れば賢也と同じ高校に通いたい巫女。だが親の考えもあってランクは落とせない。賢也に少しでも成績を上げて欲しいと思う巫女は熱心に勉強を教えた。

 優斗もここまできたら三人一緒の高校に行きたい。そのためには賢也の成績の向上が必須だ。中学一年の時の成績もまた内申点に影響を与える。

 積極的に勉強に取り組むこと、これが大切だ。

「頑張ろう!」

 優斗がそう言うと「オー!」と手を挙げる巫女。肝心の賢也は教科書と睨めっこしている。

「楽しみなさい」

 咲花先生がそう言う。学問を楽しめば自ずと覚えられる。逆に機械的にやった事はいつか忘れていくのだ。そしてどこかでつまずいてしまう。


「面白いと思えるくらい楽しく教えてあげるから」

 咲花先生の授業は楽しかった。透き通るような若い声で大きくはっきりした言葉で教える先生の授業はわかりやすかった。

 それを証拠に賢也も国語の成績はやや上がっていた。読解力の問題で成績の上がりにくい生徒が出る中、賢也は咲花先生の授業にだけはついていった。

「咲花先生の授業は頭に残る」

 賢也はそう言う。嬉しいことを言ってくれると笑う先生は、より一層授業に力が入る。


 空手部も再開していて、今は筋トレや正拳突きや蹴りの動作の後、型の練習に入っている。咲花先生は身を守るなら柔道の方が良かったかなぁと後悔したが、賢也や優斗の拳に力が入っているので副顧問として見守っていた。

 時々料理部の巫女が作った料理を差し入れに持ってきて輪ができる。

「いやぁ、神谷の料理は最高だな! いい嫁になるぞ!」

 顧問の先生である名田先生が笑いながら言うのに照れる巫女。


 空手部の部活動を終えた皆はそれぞれ帰っていく。賢也と優斗と巫女も帰り支度をすると先生に挨拶して帰る。平和な日々が続いていた。

 喧嘩もなくただ毎日を過ごす、そんな日々は賢也にとって久しぶりだった。優斗は賢也に話しかける。

「僕たち、もう親友だよね?」

 優斗は少しだけ不安だった。賢也は別に何とも思っていないかもしれないと感じていたからだ。だがそれは違った。

「ん? そんなの当たり前だろ?」


 賢也は優斗の方を向いて笑った。優斗はパァっと明るくなり頷いた。巫女も笑う。三人の仲良し組としてなっていた事に優斗は嬉しくなり前を向いたまま笑っていた。

「私たちを仲間外れにするんだぁ」

 後ろから声がかかる。いつの間にか追いついていた美世と千代が笑っていた。

「あ……そういうわけじゃないよ! 美井さんと河合さん……じゃなかった、美世さんと千代ぷっちょさんも親友だよ!」

 優斗が慌てて言う。美世は、ほんとかなぁ? と嫌らしく笑った。冷や汗ダラダラの優斗に千代が笑う。

「美世、そこまでにしてあげなよ」

「ぷっちょがそう言うならそうするよー」

 皆が笑い合う。美世は結局合唱部に入ったらしい。ピアノ担当がいないので運良くピアノを弾く担当になれたそうだ。

 夢を見ている訳ではない。ただ楽しめたらいいと今でも思っている美世。

 五人で帰っていてもそれぞれ別の道に帰る。優斗は改めてこの友情を崩さないために、父親の言いつけである成績を落とさないことを、絶対に続けなければならないと思ったのだ。

 手を振り別れる五人。美世と千代は小学校から同じだが、優斗と賢也と巫女はそれぞれ違う。この近辺の学区にある小学校は複数あり、一つの中学校に同級生として集まっているのだ。

 小学校時代を寂しく過ごした優斗は中学校以降は自由に過ごすために父親と約束した。

「絶対この自由は手放さないから……」

 そう呟くと走って帰って勉強しようと思う優斗だった。

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