第12話「体育祭」

 体育祭の時期が来て準備が始まる。一年はA組とB組が赤組、C組からE組は白組になる。適当にしていたA組の男子生徒だったが、巫女が赤組応援団になるという事でやる気に燃え始めた。

 またもし赤組が負けたら罰ゲームで次の文化祭の時女装喫茶をする事を女子生徒たちから提案される。

「絶対負けないから大丈夫だよね?」

 巫女のキラキラ光る目と、その台詞に頷く男子たち。


 賢也はやる気がなかった。別に女装喫茶でも問題なかったし、どうでもよかった。だが咲花先生がこう言う。

「また逃げるの?」

「俺個人ではどうにもならんだろ?」


 確かにその通りではある。だが一人でも手を抜けば勝てる確率が下がる。ここで咲花先生が一肌脱ぐ事にした。咲花先生は色んな先生たちと交渉して、赤組応援団長を務めることになったのだ!

 本来なら生徒が団長をするはずなのだが、咲花先生なら華もあっていいだろうとの事だった。衣装は咲花先生が自分で用意する。

 咲花先生にそこまでさせて負けては恥だと思った賢也は本腰を入れた。


 そうして体育祭が始まった。運動部のいるクラスが有利になる。一年生は特に陸上部の多いE組と、足の速い子が多いD組が圧倒していた。

 上級生もいて波乱の体育祭。赤組応援団としてチアの格好をする巫女は人気が出ていた。赤組応援団長の咲花先生もチアの格好で皆を応援する。

 恥ずかしがることもなく堂々と皆を応援する咲花先生に皆やる気満々だった。おまけに露出のせいでその背に似合わぬ大きな胸が見れて男たちは興奮する。


 美世も白組応援団として学ランのコスプレで応援する。白組応援団長も咲花先生に対抗して女の先生が学ランのコスプレで応援していた。こちらは恥ずかしがりながらだったので、逆にヒートアップする周り。

 ムムッとなった咲花先生は最後まで必死に応援した。

 応援団の女子たちはその格好で走る。巫女は恥ずかしがりながら走ったため最下位だった。

 様々な競技で活躍するのは千代だった。白組であるE組を大きく勝利に向かわせる。


「やるなぁ、千代ぷっちょさん」

 優斗はあまり走るのが得意ではないため中々上位に付けない。賢也はいつもランニングしてるので走るのも速い。

 千代と戦う賢也は絶対に負けられないと感じていた。それは強者との戦いだったから。だが千代は陸上部。流石に賢也が勝つことは出来なかった。

 悔しがる賢也に励ます咲花先生。


 そして昼の前に先生同士の勝負が始まる。先生たちのリレー勝負、赤組アンカーは咲花先生。

 陸上部の顧問の先生もいる白組が優勢の中、バトンを渡された咲花先生はとてつもない速さで走る。

 揺れる胸が注目を浴びる。一位に輝いた咲花先生は赤組に大きく貢献した。


 そして昼休憩。巫女の作ってきたお弁当を家族と共に食べる賢也と優斗。優斗の父親は厳しい顔をしていたが、友達を作ることまでは禁止していなかったから何も言わなかった。

 賢也の母親は、これからは巫女に賢也のお弁当を作ってきてもらおうかしらと言う。

 咲花先生はA組の保護者に挨拶しに回っていた。日曜日とは言え来れない家族もいる。来てくれた家族だけでも労うべきだと考えたのだ。


 賢也の父親は先日の件もあり咲花先生に深く頭を下げた。いえいえ、と手を振る咲花先生はお辞儀をする。

「安心出来る学校生活を送れるように我々教師が生徒をサポートしていきますので!」

 チアガールの格好の先生に説得力があるのか不思議だったが、ハキハキした言葉と丁寧な口調、そして皆から慕われる先生であることが周りの反応から見て取れた。だからこそ安心して任せられると保護者の方々も思えたのだ。


 午後からは応援団による応援。


「フレー! フレー! 赤組!」

「フレッ! フレッ! 白組!」


 応援合戦で勝負する。赤組も白組も負けてない。赤白応援団両者のお辞儀で始まる、午後からの種目に点差は拮抗した。

 そして……最終結果が発表される。

「勝者は……白組!」

 白組のクラスが歓声をあげた。赤組のクラスメイトは落ち込んでいる。


「ほらほら、顔を上げて。勝者を称えるのも勝負をした者の責務よ」

 咲花先生の声にもなかなか落ち込みから立ち直れない生徒たち。

「大丈夫よ、あなたたちには次があるでしょ」

 先生がそう言うと女子たちが叫んだ。

「そうよ! 次があるわ! 文化祭でひっくり返しましょう!」


 立ち上がるA組女子たちは、赤組が負けたら男子たちに文化祭で女装喫茶をさせることを約束したのを思い出す。

 男子たちは逃げられない。だが賢也の一言で変わった。

「次があるなら……次は負けない!」

 徐々に顔を上げる男子たち。そうだ、そうだよな! と立ち上がり燃え上がる。

 体育祭では負けてしまった。でも人生で負けた訳ではない。次こそはと立ち上がることが大切だ。


 咲花先生と巫女は更衣室で着替える。サラシを巻いていく咲花先生を見て巫女は言う。

「もうそれ意味ないんじゃないですか?」

 すると咲花先生は笑った。

「少なくとも外では効果あるのよ」

 学校内だけが世間ではない。人の目はそこら中にある。たとえ校内で胸が大きいのがバレていたとしても、世間でバレているわけではない。

 ならば大きい胸を隠す意味もあるのかと思えるが、女性なら胸が大きいことは誇りにもなるはず。隠す意味なんてないんじゃないかと考えた巫女。

「先生はなんで胸が大きいことを隠すんですか?」


「昔ナンパされたからよ」

 先生は強引に寄ってくる男たちに飽き飽きしたらしい。彼女ならばナンパ野郎に何もさせないだろう。だが防衛するために拳を振るわないといけないことに困ったのだと言う。

「意味もなく暴力を振るうのは嫌いなの。無意味な争いが生まれずに済むなら、それに越したことはないわ」


 なるほどと頷いた巫女だったが咲花先生は胸の件がなくても魅力的な女性だ。それだけでナンパされるんじゃないかと思ったがどうやら違うらしかった。

「いっつも子供だと思われるから、サラシ巻いてからナンパされなくなったわ」

 非合法だと思われる先生はナンパされることがなくなったと言った。


 着替え終わってから生徒と保護者を見送る咲花先生は、今日くらい飲みに行きませんか? と先生たちに誘われる。今日用事がありますので、と言った先生は支度をして小豆の家に向かう。優斗と美世は今日は来れないが、咲花先生は時間を見つけては小豆の勉強を見ていた。


 小豆の家に着くと小豆の母に頭を下げ部屋に向かう。そしてノックをして返事の後に部屋に入った咲花先生は、今日の体育祭でのチアガールの写真を小豆に見せた。

「……先生可愛いですね」

 ふふふと笑った先生は壁の方を向いているように言う。何故と問う小豆に、いいから! と壁の方を向かせる。そして着替えた先生は小豆を振り向かせる。


 チアガール姿の咲花先生に驚いた小豆だったが、少しだけ……ほんの少しだけ笑ったように見えた。

「……先生素敵です」

「ありがとう。さぁ、勉強しましょう」

「……え? 先生着替え直さないんですか?」

 先生は無言の笑顔のまま小豆を机に向かわせる。そしてチアガール姿のまま勉強を教え始めた。なんだか応援されてる感覚を覚えた小豆は、少し照れながら勉強を見てもらう。


 何も変化がない毎日を送っている小豆に、少しでも変化をつけてあげられたらと思ってチアガールの着替えを持ってきていた咲花先生。

 少しずつでいい。少しずつ頑張れ。そういう思いで小豆に勉強を教える。

 やがて勉強を教え終えた後、着替えて帰ろうとする先生。

 先生が着替えてる時壁の方を向いてる小豆。

「別に女同士なんだから見てもいいわよ?」

 そう言う先生だったが、小豆は首を横に振る。そして着替えた後、先生は小豆をハグしてから帰っていく。ちょっとだけ心に変化ができた小豆だった。

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