第5話「不良グループ『下克上』との戦い」
今日も下校時刻になる。支度を終え早々に帰ろうとする賢也だったが、咲花先生に呼び止められた。
「天谷君は今日ちょっと残りなさい」
仕方なく教室に残る賢也。咲花先生は椅子に座らせ面談する。
「この前の小テストだけどね……」
先生は一枚の紙を見せる。そこにはテストが印刷されており、他には何も書かれていない。名前を書く欄にもだ。
「天谷君、名前すらも書かずに提出するってどういう事?」
「テストなんてくだらないだろ」
咲花先生はため息をついてこう言った。
「あなた、負けるのが怖いのね」
「なんだと?」
「そうじゃなかったら名前くらいは書いてるものよ」
咲花先生は彼が名前すら書かないことで自分が答えを書けない事を隠したいんじゃないかと思ったのだった。だが賢也は首を振る。ただ書くのも面倒だっただけだと。
では面倒事から逃げてるだけだね? と聞いた咲花先生に、沈黙する賢也。
先生はどう指導していいか悩んだ。無理に押し付けるのも逆効果だと思ったからだ。
「天谷君は格闘家になりたいのよね?」
「そうだけど?」
ここは彼の趣味から切り崩そうとしてみる。先生はボクシングの構えをして言った。
「格闘家なら相手選手の事をもっとよく知ろうとするものじゃない?」
「それがどうした?」
「勉強で置き換えてみて、勉強君の事もっと知って戦ってみたいとは思わない?」
賢也は、ふむ……と顎に手を当てる。そして頭を悩ませた後こう言った。
「勉強君ってなんだ?」
先生は半笑いだ。そんな事を気にするとは思っていなかったのだ。
「まぁいいわ、あまり時間を取らせても駄目だから今日は帰りなさい。ちゃんと勉強はして欲しいって事を分かって欲しかったの」
帰り支度をして帰る賢也。手を振る先生さえも彼の眼中にはなかった。校門へ行くと巫女が待っていた。
「終わった? 帰ろう」
「なんで待ってる?」
「ふふふ、冷たいなぁ……」
一緒に帰ろうとする巫女を冷たくあしらう賢也。暫く一緒に歩いていると優斗が木のそばにいた。
「何してる?」
賢也が優斗に話しかける。どうやら木の上に登って降りられなくなった猫がいるらしい。
優斗は助けたくても助けられない歯がゆさを感じていたようだ。
大人を呼んでくるよ、と言って走って行こうとした彼を止めて、賢也は木の上に登る。そして猫を抱えて飛び降りた。
「す、すごいね天谷君!」
「こんなの容易い。それよりこの猫どうする?」
「保護センターに連絡して、保護してもらおうよ」
「それがいいね」
三人は猫を引き渡した後ゆっくり帰る。誰も喋らない中、優斗が声を発した。連絡先を交換しないか? と。賢也もまぁそのくらい良いかと交換する。これには巫女が喜んだ。
賢也は誰かと連む気はなかった。あの日あの子を助けられなかった自分を思い出すからだ。だが賢也は波に巻き込まれていく。
「お、いたいた、かわい子ちゃんと、昨日のボケナスか。丁度いいわ」
そこには昨日のナンパ野郎がいた。賢也は顔をしかめる。ナンパ野郎は賢也に面を貸せと声をかける。それを優斗が止める。巫女も、そんな人放っておいて行こうと言う。
「逃げるならご自由にだ。だがこなけりゃ一生逃げた証を首に掲げてもらうぜ」
天谷はついて行く。優斗は警察を呼ぼうとした。
「ああ、
「大鷹、やめてくれ」
「で、でも!」
仕方なしに優斗もついていこうとする。それを賢也が制止した。
「こなくていい!」
「ダメだ! これは曲げられない!」
「なら私も行く!」
「神谷さんは帰って!」
「はいはい、全員ご案内ー」
賢也は舌打ちした。だが何も問題なんてないはずだ。この程度の奴なら相手にならない。
優斗はなんとかならないか隙を見つけようとするがどうにもならない。
そうして人気のない工場跡地についた。何人ものチンピラが待っていた。
「ダメだ! 逃げよう! 警察を呼ぼう!」
「お前らの逃げ道は作ってやるからお前らだけ逃げろ。俺はこいつらボコボコにしたくて疼いてるんだ」
「なんでそこまで拘ってるんだ!」
「こいつらの首のネックレスわかるか?」
ナンパ野郎たちが着けているネックレスを指差す賢也。優斗は何が何だかわからない。
それはある不良グループが仲間の証としてチンピラに配っている特殊なネックレスだった。
「それが何? チンピラ集団が何かあるの?」
「小学生の頃、俺の親友の心をぐちゃぐちゃにしたのがその集団だ。あの頃は何も出来なかった。だけど今は俺には力がある。こいつらをボコボコにして憂さ晴らしする!」
賢也は因縁でもある、その不良グループ『下克上』と戦う。
囲まれていたが賢也には関係なかった。優斗は警察を呼ぼうとするがスマホを取り上げられた。巫女も同じだった。
「ふぅ、守りながらボコボコにする、か。いいね」
天谷は笑った。そして走り殴りまくる。喧嘩が始まった。巫女と優斗は、なるべく賢也から離れないようにした。優斗はその辺に転がっていた木の棒を持ち振り回す。
結局ナンパ野郎も含めて全員ボコボコにしてしまった賢也。スマホを取り返した彼は優斗に渡す。
「警察を呼ぶよ? いいよね?」
「どっちでもいい」
「天谷君凄く強いね!」
神谷さんは目をキラキラさせている。多分惚れている。
警察に連絡しようとした時、丁度着信がきた。誰からか分からない。
『こらー! 大鷹優斗君! 親御さんから連絡がつかないと聞きました! 何をしてるんですか? 早く帰りなさい! そして今すぐ親御さんに連絡を入れなさい!』
優斗の父は割と厳しい人だ。遅くなるなら連絡を入れろといつも言われている。だから咲花先生に連絡がいったんだろう。優斗は先生に電話で全て話した。
『全くもう! 何やってるの! わかりました。場所はわかるので、先生が迎えに行きます。念の為警察にもすぐに連絡を入れなさい! お説教ものよ!』
優斗は電話を切り三人で先生を待つことにする。その間に彼の親に直ぐに連絡を入れ帰ったら説明すると言った。
そして警察にも連絡を入れようとした時だった。
「はい没収ー!」
不意に後ろから誰かが来てまたスマホが取られた。
そしてその人は履歴を見て、まだ警察を呼んでない事を確認した後放り投げた。
その人は一人。だが明らかに大人だった。オマケに手には金属バットが握られている。首にはそのネックレスを提げていた。
「お前ら下がれ」
「だ、大丈夫? あの人武器を持ってるよ……」
ニヤニヤしながら近づいてくるその人は、急にスピードをあげ襲いかかってきて、賢也が防ぐ腕を金属バットで殴った。だが天谷も負けていない。反対側の腕で反撃をする。だが全然当たらなかった。
「遅い遅い。俺からしたら亀の拳だ」
「あ、あなた達警察が怖くないの?! こんなことしたら当然捕まるわよ!」
巫女が叫ぶ。それには男は笑った。
「そのための風貌だ。気づかなかったか? どいつもこいつも似たような格好してるって」
そう言われれば特徴は皆同じような特徴で統率されている。
「捕まるならそれまでだが、逃げる算段も整えてある。それが俺たちのやり方さ」
その不良グループは皆同じような格好をしており通報されても逃げられる算段を付けていた。
大規模な不良グループで有名で、喧嘩をする時に武器を持ち込まないという暗黙のルールがあるらしいのだが、賢也が相手したその男は卑怯にも金属バットを使っていた。
ついてきてしまった優斗と巫女を守りながら戦う賢也だったが武器を持った相手には敵わない。
巫女は警察を呼ぼうとした。だがすかさずスマホを取り上げ放り投げる男。
その隙をついて男に殴りかかる賢也。それをかわしもう一本の腕を金属バットで殴り潰す。
「ぐぅ!」
「に、逃げよう! 逃げようよ!」
「逃げれるものなら逃げろよ?」
男は賢也の足を金属バットで叩き潰す。痛みで悶える彼は必死で歯を食いしばっていた。
「ち、ちくしょう! 僕が相手だ! こいよ!」
「や、やめろ……。お前らだけでも先に逃げろ」
「神谷さん走って! 僕が引き付ける!」
「いや……。いやだよ……。いやだよぉ!」
巫女は恐怖で腰を抜かした。彼女は先程まで担ぎあげていた賢也がぐちゃぐちゃにされて混乱してしまった。
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