シャツとデニムのスタイル

 古のショップ秋葉原の客足は悪くない方だったと言える。渡部の客が来てくれたこともあるし、心配していた新規の客の客足もまずまずあった。レギュラー古着をお買い得な値段でというコンセプトも当たり、売上もまずまずといったところだった。課題と言えば、アパレル未経験の田母神の接客だったが、もともと服に興味のなかった田母神はその視点を生かして、客に的確な提案ができていた。そういうわけで古のショップ秋葉原は順調な滑り出しだった。


「そちらもシャツお勧めですよ。ちゃんとラルフローレンというブランドで、他の店だともう少し値が張ると思います」

「あ、そうなんですか。あー、なるほど」

「試着もできますのでよければおっしゃってくださいね」

「あ、はい。あ、あの。試着いいですか?」

「もちろんです。こちらへどうぞ」


 ファッションに興味がないのが丸わかりの男の接客をする田母神。過去の自分を思い出すようで、親身になって接客ができている。自分も昔服屋に行くと、てんぱっていたなそんな過去の自分が懐かしかった。男が試着室から出てくる。


「いかがですか? サイズ感はとてもいいと思いますよ」

「あ、そうなんですか。あー、なるほど」

「他にも気になる商品あったらおっしゃってくださいね」

「あ、あの。これと合うズボンもお勧めしてもらっていいですかぁ?」

「はい、もちろんです」


 そのファッションに興味がない男も自分を変えようと必死なんだなと思うと、田母神はうれしい気持ちになる。うちの店を選んでくれたという想いと、頼られているという二点から。


「そちらに合うボトムスですと、デニムがいいと思います。ご予算とかありますか?」

「だ、だいたい合計で1万円くらい……」

「わかりました。そしたらこれがいいですよ。ブランド品ではないですが、質はいいと思います。履いてみますか?」

「あ、はい、履いてみます」


 試着をする男。出てきた男はラルフローレンのシャツと相まって、来店時よりかっこよく見えた。


「とてもいいと思います。お似合いですよ。シャツもデニムも似合ってます」

「そ、そうですか。じゃ、じゃあこれにします」

「ありがとうございます」


 男はラルフローレンのシャツとデニムを購入してくれた。両者合わせてアンダー1万円でリーズナブルな価格だった。


「うちの店どこで知ってくれたんですか?」

「となりのカード屋に行くときによく見かけて。あ、カードゲームが趣味で、マジックザギャザリングって言うカードなんですが、土地カードって言うカードが1万円とかするんで、なかなか服に割くお金もなかったんですが、頑張って服を買おうと思って。やっぱりオタクと言えど、身なりには気を遣わないといけないと最近気づきまして、親に言われたんですよ。もっと身なりに気を遣えって。大きなお世話なんですが、珍しく親の意見を聞いてみたって感じです」

「そうなんですね。ありがとうございます。また来てくださいね」

「はい、また来ます!」


 笑顔で去っていく客を見ると田母神もうれしい気持ちになった。

 

「田母神さん、おかげで店はまずまずいいスタートですよ。一緒に働いてくれてありがとうございます」

「渡部さん、僕も楽しんで仕事で来ているので渡部さんに感謝ですよ。ありがとうございます」

「あとはこのままの調子でいければ一番いいんですがね」

「ですね」


 それからも店は順調に常連なども増やしながら、存続をしていった。秋葉原に服屋を開いたのが功を奏したといえる。たまにやってくるディープな服好きにはスペシャル品が売れ、ファッションに興味がない客にはレギュラー古着が売れていく。素晴らしい店になっていった。渡部と田母神はいいコンビで、この2人だからこそ店がうまくいっていったと言える。いずれは2店舗目、3店舗目も開きたいなども考えており、店はどんどん発展していきそうだった。林から遺志を継いだこの店の発展を林が見守ってくれている気がした。

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セレクトショップの悪魔 石島時生 @ishijima_tokio

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