第7話 三日月係長の葛藤!


 係長の机に戻ってきた三日月係長が首をかしげてばかりいるのに気が付いた五係の主任警部補が係長に囁いてきた。

「係長、刑事部長に呼ばれたんでしょ、何か有りましたか?」

「あっ、いや何でもないよ。刑事部長の御客さんに会ってきただけだ」

「刑事部長の御客さん? 誰なんですか?」

「いゃ、いいんだ。気にしないでくれ」等と惚けたが、ヤッパリ三日月係長には気にかかる。しかし、五係の皆に、迷惑をかけるわけにはいかないと、机に右手で頬杖をつきながら、ヤッパリ落ち着かない。“身元も判明した。名前も判明したのに、我々は殺人事件の犯人逮捕に尽力しなくていいのかな~。刑事部長は、法務省の役人に気を遣ってあんなことを言ってたけれど、それでは私達の仕事をしなくても良いのか? イヤ、それはおかしい”等と首を傾げるばかりであった。

『イヤ、俺一人でも、何か出きることがあるんじゃないのか? 場所は長野県が第一候補か。そうだ! 確か長野県警の捜査一課の係長とは東京で起こった殺人事件の犯人が長野県に逃走したさいに、ご厄介になったことがあるな。あの時の係長に電話を掛けて様子を聞いてみようか』三日月係長は、早速名刺入れを探して、当時の係長の名刺を捜し当てたので、早速電話をかけてみることにした。法務局に関わりのないようにすればいいんだ。そこで、電話を取り上げると、長野県警に電話をかけてみた。電話が繋がると、早、速捜査一課の杉山係長の呼び出しを頼み込んだ。


 すると、

「はい、捜査一課の杉山ですが」と、返答があった。

「はい、お久しぶりです。警視庁の三日月ですが。逃亡した殺人犯逮捕の件につきましては、大変お世話になりました」

「はい、あの三日月係長ですか。いぇ、大したことも出来ませんでしたが。どうか致しましたか? 突然にお電話いただいて」

「いぇ、別に大したことではありませんが、一寸私にとって気になることが出来まして、それがどうも長野県に関することなのかな~と、思いまして、杉山係長にお聞きしたら良いかな~。なんて思いまして」

「はい、そうですか。どんなことでしょうか?」

「ええと、電話では一寸都合が悪くて、まぁ、有線ですし、警視庁からかけているので、盗聴されることはないと思いますが、実はですね直接あってお話を伺いたいと思うのですが……。丁度明後日みょうごにちが私の非番ですのでそちらに伺いたいと思うのですが。如何でしょうか?」

「えっ、三日月係長がわざわざ長野県警にまで来られるのですか?」

「はい、な~に車で行けば、そちらまで三時間もかかりませんよ」

「私は現在事件を抱えていないので結構なんですが、わざわざ来られるほど重要なことなのでしょうか?」

「はい、今のところは……。」

「成る程何か訳アリなんですね。判りました。それでは明後日にお待ちしております」

「いや~、スミマセン。それでは明後日伺いますので、宜しくお願い致します」

「了解致しました。そんな事情があるのでしたら、県警では話しにくいでしょうから、近くの喫茶店にでも出かけて、お話を伺いましょう」

「杉山係長、お忙しいでしょうが宜しくお願い致します」小さな声で話したのでふっと、息を吐き電話を置いた。


 明後日、5月十二日、三日月係長は、順調に非番が取れたので、長野県に車を飛ばした。確か長野県警は長野県警本部としての建物はなく、長野県庁の中に有ったな。と言うことで、長野県庁を目指して車を進めた。長野県庁そばの駐車場に車を停めると、スマートフォンを取り出し、長野県警の杉山係長に連絡をした。今県庁そばの駐車場まで来た事を告げると、杉山係長からは、

「早かったですね。それでは、県庁前に有ります『ネクスト』と言う名前の喫茶店でお待ちください」と言われたので、近くを探して『ネクスト』と言う喫茶店を見つけた。なかなか小綺麗な店で、“チリン、チリン”とドアベルを鳴らしながら中にはいると、半分ほどの席が埋っていた。そこで、空いた席に座って、コーヒーを頼み杉山係長の来るのを待った。暫くして、杉山係長が店にはいってきたので、三日月係長は手を上げて、合図を送った。すると杉山係長は、直ぐに近づいてきて、

「やぁ、どうもお久しぶりです三日月係長」

 杉山係長は三日月係長の前の席に座った。

「それで、一体どんなご用でしょうか?」いきなり彼は、本題に突っ込んできた。近づいてきた痩躯そうくのウエイトレスにモカを頼み、三日月係長に目を向けてきた。

「相変わらず、君はモカが好きなんだね」すると杉山係長の癖なのか、顔を擦りながら、へ、へ、へ、と笑った。

「実はね、わざわざ自分の非番に杉山係長に会いに来たのは……。実はねこれから話すことは、内緒にしていてほしいんだ。君の心の中にだけね。実はね、うちの刑事部長からもまだ口止めされているんだ」

「えっ、そんなことを私に話しちゃって良いんですか?」

「だから内緒にしていて欲しいって頼んでるんだよ」

「了解しました❗」と、敬礼までされて言われた。そこで、三日月係長は、ここに来た訳を詳しく話し始めた。

「は~あ、成る程❗ 何とも私も新聞で読んでおりましたが、あの身元不明の遺体に、法務省が絡んでいましたか。そりゃビックリですね。更にその遺体は、長野県にある公安調査事務所に関わりがあるとは。そう言えば、私も噂で一寸小耳に挟んだことがありました。何でも、その公安調査事務所の責任者が、うちの本部長のところに来て、誰かのDNA を検査して貰えないかと、科捜研に頼んだそうですよ……。そうか、そんな事情があったんだ。成る程そこで、三日月係長は、殺人犯を探すために長野に来た。と言う訳なんですね」すると三日月係長は人差し指を口許に当て、

「まぁ、そんなところだ。そこで杉山係長を思い出してね。杉山係長に聞いたら、何か判るのじゃないかと思って来たんだよ」杉山係長は、モカをひとくち飲んで、

「はぁ、公調ね、彼ら調査員が目を付けるとすると、あの事かな?」

「あの事と言うのは?」

「いえね、実は長野県にが住んでいるんですよ!」

「ま、?」

「そうです。魔物ですね! あの人物とその一族は、人物の名前はと言う名前なんですがね。実は、この長野県には平安時代から代々伝わる一族と『天体のひかり』と呼ぶ宗教団体がありましてね。それがなんと、その一族とは、安倍晴明の末裔と呼ばれていて、あの非業の死をとげた、前総理大臣の故安倍晋三代議士も、安倍晴明の末裔と呼ばれているそうですよ。そんな関係かどうか判りませんが、あの一族には、何人かの国会議員が関係していると言われていまして、警察や役所関係にもかなりの圧力がかかることもあるそうなんで、あの一族の地域には私達も滅多に入ることが出来ないわけで……。」

「えっ、前安倍総理だって❗」

「そーなんですよ。更に宗教絡みでしょ。あの一族は、黒姫山の麓に住んでいるのですが、殆どの地域の地主なんですよ、山林を含めて」

「ふ~ん、魔物の『』か」

「その宗教団体は昔から有りましてね、長野県の上水内郡野尻にある首無村くびなしむらにその宗教団体の母体がありましてね。どうも最近動きがおかしいと噂されている団体なんですよ」

! そんな村があるんだ」

「はい、もう新潟県に近いところなんですがね。うちの公安部も最近マークし始めたらしいと言う噂話は聞きましたがね」

「う~む! それか❗ そこに原因があるのかもしれないな。県警の公安部も目をつけ始めたのなら、公安調査事務所も、目をつけるだろうな」三日月係長は両腕を組むと、唸り始めた。

「よし、今は法務省との約束もあるのでなにも出来ないが、それがなくなれば、警視庁としても黙ってはいられなくなるな。その時はまた協力をお願い致します」

「判りました。その時は遠慮なくこの杉山係長に連絡をください」

「すまない。その時はまた協力をお願いするよ。長い時間取らせて済まなかった。来たかいがあったよ。有り難う」三日月係長は、頭を下げると別れを告げた。

「お役に立てて、良かったです。それでは連絡をお待ちしています」と、杉山係長も、頭を深く下げて、その場を後にした。残った三日月係長は伝票をもつと、出口に向かい、駐車場に向かった。車に乗り込んだ三日月係長は、東京に向けて車を走らせた。

「う~む! 長野にはが住んでいるのか」と、呟いた。


 そして、五月末日、ついに、

『法務省公安調査庁本庁総務課長補佐 時正一人ときまさかずとさんから、不明人の発表をしても構いませんよ』と、刑事部長に連絡が入り、ここでやっと身元不明遺体の身元発表が刑事部長からマスコミになされた。その身分が身分だけに、マスコミにざわめきが起こった。

 各新聞社の三面記事には『今年五月一日、東京湾で見つかった身元不明の遺体の身元が判明❗ なんと、身元の男性は、法務省公安調査庁、長野公安事務所の若手調査員と判明❗』等といった類いの報道がなされた。テレビでもその意外な身元を取り上げていた。現場の長野公安調査事務所には、地元や大手のマスコミ関係者たちが詰めかけ、事務所責任者に沢山の質問が投げ掛けられた。


 そして、警視庁の三日月係長のところには、杉山係長から、

「遂に、来るべき時が来ましたね」と、連絡が入り、

「出来るだけ私の方でも調査を行っておきます」調査協力の電話もかかってきた。

「う~む、早速刑事部長とも相談をしなくては」三日月係長は決意を込めた顔をして立ち上がった。

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