第5話 高倉正剛・土御門新之助


「実は、祖父は自分が分家とされたことについて、全く納得していないの、本当は自分が本家を次ぐべきだって今も思っているの。だからいつも新之助しんのすけおじさんの悪口ばかりいってるの。そしてその事実を、新之助おじさんがよく知っているということなの。つまり祖父は自分が教祖になるのが本当だと憤慨してるし、新之助おじさんはおじさんで、とんでもない企てだと憤慨してるの。ところが、この『天体のこころ』と言う教団は、基本的に、天皇が時間をも支配するという観念を、暦・漏刻により象徴的に実現させたものであり一寸現代では危ない要素を持った思想を広げていて、信者をマインドコントロールすることにけていて地元の小さな村人たちを洗脳させてしまったの。先程も言った通り、この『天体のこころ』と言う宗教は、陰陽寮がもとになっているので、明治維新の最初の思想が”尊皇攘夷“だったじゃない、だからその頃は、維新革命にのって江戸へと進んだのだけれど、結局途中で開国主義に変わっちゃったじゃない。その頃からね少しおかしくなったのは、江戸を離れ始めたの。これは家にあった古美術品や古文書などを読んで知ったのとなんだけど。つまり『天体のこころ』と言うのは、尊皇の思想は尊ぶのに、開国論には反対の立場だったのね。開国とは他所の国に屈したもので、日本国の恥❕ であると言った思想ね。だから今の土御門つちごもんのおじさんは、秘かに宗教の名を借りて、軍事力を秘かに高めているの。将来は今住んでいる所を日本から独立させて、自治区を作り上げようと企んでいるの。それも最終的には、昔の武蔵国まで広げようなどと野望を持っているの。それに賛成して『天体のこころ』を我が物にしようと考えているのが、家の祖父の高倉正剛たかくらせいごうなのよ。皆さん馬鹿げていると思うでしょ。私だって母から話を聞くまでは、信じられなかったわ。だから今年祖父の喜寿のお祝いに帰郷するのが、怖いのよ。何か恐ろしいことが起こりそうで」彼女は身体を振るわせながら語った。

「なんだよ! まるでオカルトの上にプロパガンダだなぁ。で、部長に何をお願いしたのよ」蓮副部長が尋ねた。それに答えたのは頭をガリガリとかく帆蟻部長であった。

「つまりだな……。俺たちミステリー研究会は毎年夏休みにキャンプ合宿を行っているだろ。だから今年の合宿を高倉さんの実家の近くでやってくれないか? と言う御願いだよ」そこで、副部長は、欠伸をしながら尋ねた。

「彼女の実家って、どこにあるのよキャンプ等出来る所なの?」

「彼女の実家は、長野県の黒姫山(くろひめやま)、長野県上水内郡野尻にある首無村くびなしむらだ」

「長野県上水内郡野尻! 何だって、もう新潟県との境じゃないか?」

「そうだよ、更にその黒姫山の裾野に開けた村だ。その黒姫山ってのがよ、長野県上水内郡信濃町にある標高2,053 mの成層火山。南東方向より見た整った姿から郷土富士として信濃富士とも呼ばれている。黒姫山は野尻湖を挟んで東の斑尾山と向かい合う、ボリュームの大きな火山である。全山黒木に覆われた、お椀を伏せたような山容は、何か伝説を秘めているよう ……、そんな場所なんだ。何かしら不気味でないかい?」

「そんなところにキャンプ場なんてあるのかよ!」

「勿論あるんだよこれが、そ彼女の父親が家の近くに、丸太作りのログハウスを四棟建てていて、一棟に四人まで泊まれるそうだ。キャンプ用に建てたから、バーベキュやキャンプファイアも出来るようにしているらしい。近くに小川もあって、良いところらしいで」

「つまり、そこで俺たちのキャンプ合宿をやれと! 何でやねん」

「ええとそれは、俺たちが近くにいたら彼女が安心できるかららしい」

「俺たちじゃなくて、俺だろ!」

「デヘヘ、そうとも言うかな」

「けんじゃないよ❗ なんでお前のために……」

「まぁ、そう言うなよ。まだ夏の研修の事なんだから、全員が集まって話し合おうぜ」部長がそう提案すると、副部長が、

「よし、判ったよ。全員が集まる日を俺が決めるから、巨勢君、連絡するから、みんなに連絡してくれないか。それで良いかな」

「はい判りました」と巨勢君が皆の連絡表を見ながらしぶしぶ答えた。

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