第3話 帆蟻義人


 実はな、俺の彼女は、隣の部屋でやっているオカルト研究会に入っている倉橋華英くらはしはなえっていうなんだ。

「え~っ、帆蟻義人ほありよしと部長! オ、オカルト研究会! 何ですか?」巨勢君は驚いた声を出した。

「オカルトはオカルトだよ。巨勢君、君知らないの?」

「いえ、オカルトは判りますが、つまりその……超異常現象を研究するのですか? それとも超異常な性格の研究をするのですか? ひょっとしてポルターガイストや、ダミアンの研究とか、羊たちの沈黙などを読んで研究するのかな?」

「そのどちらもだよ」

「え~っ、異常な世界に深く足を踏み込むと、自分の性格もおかしくなってしまいますよ」心理学部の巨勢君がまくし立てた。

「そーだよな、俺もそれを心配しているんだ」

「大体、倉橋家は何だかおかしな人が多いらしいって聞いてるよ」

「先輩! 一寸やばくないですか」

「お前もそう思う。ヤバイかな~」

 帆蟻先輩は頭をゴシゴシと擦るとそう言った。先輩が頭をゴシゴシと擦るときは、自信の無い時の癖である。やれやれ自称名探偵ポアロも形無しである。ちょうどその時、部室に三年生の佐伯さえき先輩と髙梨たかなし先輩も入ってきた。そして丁度見ていたドラマも終わっていて、ニュースが写っていた。アナウンサーが高揚の無い口調で、ニュースを読み上げていた。『五月一日、東京湾で発見された身元不明の遺体は、未だに身元が判らないままになっています。警察としては、依然身元の特定に皆様の情報を待っています』と、報道していた。

「あ~あ、あの人ねやっぱり身元が判らないんだ~」と、佐伯先輩が声を上げた。

「そうね、天下の警視庁でも判らないもんだね~、何しろ首が無かったもんね。でも、ひょっとしたら、警察には身元が判明してるんじゃないの。公表できない身元だったりして」髙梨先輩が相づちを打つ。

「公表できない身元って、誰なのよそんなことあり?」

「そうねー、例えば……。ん~、判んない!」

 話がそれてしまったので、巨勢君は、リモコンでテレビのスイッチを切ると、

「で、その部長の彼女の何を困っているのですか?」力を込めて問い掛けた。

「え~っ、部長何か困っているのですか?」佐伯先輩が顔を覗そく。

「部長はね、彼女からの 相談事で悩んでいるの」

「ふ~ん、彼女ね。あのオカルトお宅の倉橋さんのことだね。綺麗で可愛い彼女だもんね。部長には似合わない!」髙梨先輩が嫌みたらしく言った。

「悪かったな❗ 俺には似合わなくて、ふんっ」部長は鼻の穴を膨らませていった。

「部長! もう相手にしなくていいから、何に困っているのか話してくださいよ」

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