第2話 巨勢勇樹


 同年五月十日、豊島区にあるR大学の二年生になった私は、青空が広がり、心地よい風が吹き、清々すがすがしい五月の日というのに、大学の本館の地下にある、現在は古くなっていて、使いようもなくなった小部屋に一人座っていた。部屋は暗くて、昼間でもLEDライトを点けなくてはいけない。この地下室にある幾つもの小部屋は、現在は文化クラブの拠点となっていた。”あ~あ、何で私はこんなじめじめとした陰険な部屋にいるんだろう“と心のなかで悔やんでいた。


 昨年の大学入学の時、入学式が終わったあと、大学の中のキャンパスをブラブラと歩いていた時、新入生の入会合戦に巻き込まれたのだ。  色々なクラブが新入生の引っ張りあいをしていた。体育会系クラブや文化系クラブなど様々であった。そんな中で、一寸可愛い娘が俺に声をかけて来た。

「どこか、入会するクラブは決まりましたか? 私は文学部二年生の佐伯真梨子さえきまりこと申します」と声をかけられ、

「イイエ」と言ったのが運のつき、

「じゃあ、私たちのクラブに入りませんか? ミステリー研究会と言うのですが…」

「へぇ、ミステリー研究会なんですか。面白そうですね」と前からミステリ-が好きだった私は答えてしまった。

「じゃあ、ぜひ入ってください」と言われ、つい承諾してしまったのが悪夢の始まりだった、

「それでは、これからミステリー研究会の部室まで、ご案内いたしますから付いてきてください」と言われ、ついなんとなく、付いてきてしまったのがこの部屋であった。部屋の中には、数人の学生たちがいた。この大学の先輩たちだ。私が入室すると、みんなの注目を浴びた。

「この子が、今年入学した新入生で、ミステリー研究会に興味があるらしいので案内してきました」と、彼女が言うと、

「そうなの、歓迎しますよ。君の学部と名前を教えてくれるかな」と部長らしき先輩に尋ねられた。

「はい、心理学部一年の巨勢勇樹こせゆうきと申します」

「心理学部か。難しいところに入ったな~ まぁ、いいや喜んで歓迎するよ。俺はこの研究会の部長で山田麟太郎と言うものだ。宜しく」先輩は鼻を掻きながら言った。

 こんな風に、私はミステリー研究会に入ることになった。


 あれから一年経ち、今こうしてここにいるのであった。結局ミステリー研究会は、現在、一年生二人、二年生が二人、三年生が三人、四年生が三人の合計十人となっていた。私が部屋へはいると、すぐ左側の壁には頑丈な本棚が並べられていて、勿論本棚には、ミステリ作品で一杯になっていた。国内作品、海外作品でシリーズごとに並べられている。本を読もうかと思ったが、何となく今日はそんな気にならなかったので、部室にあるテレビをぼ~として見ていた。その内誰か来るだろうと、思っていた。つまらないミステリードラマを見ていたら、男の先輩が二人入ってきた。ミス研の部長の理工学部の帆蟻義人ほありよしと(自称、名探偵ポアロ)さんと、副部長の法学部の蓮英一れんえいいち(自称、ドルリーレーン)さんだった。二人ともどこにでもいる貧乏学生の格好をして、見た目は何の特徴もなかった。

「よう、巨勢君か。作品はできたのか?」

「いえ、まだ出来ていません」

 実は年に二回、三月と九月に、部員の皆がミステリー作品を書いて、先ずは問題編として、同人誌にして纏めることになっていたのだ。その後に四月と十月に回答編として、同人誌を発行することになっている。

「先輩たちはもう書き上げたのですか?」と問いかけると、

「俺たちもまだだよ」ふて腐れたような答えが返ってきた。

「それと言うのもさ、俺の彼女に相談事を持ちかけられてな。それの対処に悩んでいるんだ」ロン毛を引っ張りながら部長が言った。

「相談事ですか。どんな相談事ですか?」

「うーん、それがね…………」部長は言いにくそうな顔になったが、ポツリポツリと話し始めた。

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