7.儀式が行われる

 潮騒の音だけが静かに反復する中に、湿っぽいコードが響く。この船乗りの儀? だかなんだかがどういう類いのものかは知らないが、船出にしては暗すぎるのかな? などと、自分で弾いておきながら思った。今にも船が沈みそうな、景気の悪い音過ぎるだろうか。


 心配になってきたので、フードの人に目をやってねる。

 しかし、彼は浜辺の方を向いており、特に私に対して注文があるようでもなかった。

 なので、そのまま続けることにした。



 それからしばらくは、私の演奏を聴いていそうなのは、側にいるフードの人だけのようだった。

 ただ、満天の星空と月明かりの下、潮騒をバックに演奏をするのは変な充実感があって、全然寂しくはなかった。



 やがて、岩のステージから何十メートルだか離れたところに、何かの行列が見えてきた。月明かりの下、フードを被った人が、一列になって海へ向かってそろそろと歩いている。


 そのうち、先頭は海へと行き着いたが、そのまま船へと一直線に歩いて行っている、ように私には見えた。実際にはたぶん、途中から足が付かなくなるだろうから、泳いでいるのだと思うが。


 ともかくそんな感じで、浜から船へと列になって静かに歩いて行くのを眺めながら、私は演奏し続けた。

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