5.知らない人について行く
うっすらとドアを開けて廊下を覗き込んでも、誰もいなかった。まさか幽霊? もしくは気のせい? と思いつつ、もう少し大きく開いて顔だけ出して見ると、ドアから3メートルほど離れたところに、フードを目深に被った人影が見えた。
ただ、それが人なのかどうかは何とも言い難かった。フードの隙間からちらちらと覗いていた肌は、鱗のようなものに見えた。部屋からの明かりをときおり反射して、ちらちらと光っている。
そのフードを被ったのは、制止を促すように、片手の掌を肩の辺りまで上げて見せた。その掌の肌はやはり鱗っぽく、また、指と指の間には水かきのようなものがあった。
「あの、驚かせてしまったら申し訳ありません。この格好は、気になさらずに。ギターは海辺の方に用意しますので、付いてきてください」
そう言って、その人(?)は歩き出した。私はドアから出ると、一応カギを締めて、それからそのまま、3メートルくらい間隔を開けたまま付いていった。
その人は、私がさきほど部屋に行くときに使った廊下を通らなかった。だが、なんやかやと歩いている内に、簡素なボロボロのドアにたどり着き、そこから外に出た。どうやら裏口らしかった。
外に出ると、さきほどまでどんより曇っていた空はいつの間にか晴れて、まんまるの月がはっきりと見えた。そして、プラネタリウムかと錯覚しそうなほど、くっきりとした星空が広がっている。この辺では当たり前の光景なのだろうが、ちょっと現実感を見失いそうだった。
しかし、現実感云々と言えば、私が今やっていることは現実なのだろうか? なんで私はこんな怪しいのについて行っているのだろうか。
そんなことを考えている内にも、私達は例の船の家みたいなところまでやってきて、そこからさらに道を外れて、ゴツゴツした大きな岩がところどころに見える浜辺を歩いた。
しばらく海の方に歩いていると、海の上に、何やら大きな影があるのに気付いた。明かりも何も灯していないため、はっきりとはわからないが、おそらくあれが船なのだろう。距離感がはっきりと掴めないが、浜辺から50メートルだか100メートルだか、あるいはそれ以上かもしれないが、そのくらい離れたところに停泊しているようだった。
少なくとも、大きな遊覧船くらいのサイズはありそうだった。さきほど朽ちていた漁船とは比べ物にならない。
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