第10話 あたたかい交流試合
肉料理と酒がある屋台が集まる試合会場。美味いものがあると、大体の人が集まって来る。そういうこともあってか、この人だかりである。当然、観戦席は埋まっている。俺はギルドマスターなので、特権として近いところで試合を見ている。メインイベントの交流試合。ロヒーニャとリンカは既に終了。リンカは途中まで不利だったが、巻き返して勝った形だ。ロヒーニャは最初から優勢だった。相手も弱いわけではない。十年以上のキャリアを持つベテランだし、実力派とタイマンで互角にやり合えるぐらいのものはある。
「マスターよ。お前さんはどっちが勝つと思う」
メイプルと二番手のイガグリ坊主のジェインの試合が始まった。変身はしないから、相当不利なはず。そう思っていたら、隣にいる交流試合のスタッフ(普段は運搬の仕事をしている三十代の男)が酔っぱらい特有の面倒な絡みをしてきた。質問は一応答える。
「ジェインでしょうね」
相手が驚く顔になった。贔屓するような答えを予想していたことぐらい分かる。
「お前ギルドマスターだろ?」
事実は事実。覆りはしない。正直に言う。
「いやまあそうなんですけど。まだメイプルは戦闘慣れしていませんし、相手はジェインですしねぇ」
「……それでいいのかよ」
本気で心配していると言う顔だ。勝ち続けているからか、他の人も交流試合の目的を忘れている。
「今回の試合は経験を積むことを目的にしています。それに交流試合は勝ち負けに拘るような行事じゃありませんしね」
そう言いながら、試合を見る。メイプルが積極的に攻撃しているが、ジェインはきちんと見極めて、必要最低限の動きで避けている。色々と伝授しているはずだから、火力を上げるような魔法を使っているはずだ。一発当たったら、どうにか突破は出来る。流石に特訓してから、数日程度となると、ド素人のままだからか、動きが単調だ。
「その意気は気に入ったぜ」
楽しそうに笑うジェインはまだ十三歳だったはずだ。才ある主人公感満載。何故さらりと言えるのだろうか。
「けど俺はそこまで甘くはねえんだ。本気で行くぜ!」
二つの異なる質の魔力が外に出る。二重魔法。ジェインがギルドの二番手になった理由はそこだ。この歳で二つの魔法を同時に扱えることなんて滅多にないし、それは大人だって同じだ。流石に難易度の低いものを使っているが、それでもこの火力を出せること自体が凄いこと。
「くう!?」
風と氷。メイプルは防御をしているけれど、切り傷と凍傷が少しずつ増えている。攻撃に転じようとしているが、そういう隙を与える程甘い相手ではない。ずっと後退している。逃げ場がなくなったらマズイ。
「しまった!」
場外に行ったら、試合に響いてしまう。ジェインもそれを理解して、攻撃範囲の広い魔法を使うつもりだろう。正直候補があり過ぎて、断定ができない。
「なるほどな。お前も括ったってわけか」
メイプルも初心者ながら分かっている。全力で魔法をぶつけるつもりだ。
「凍てつく氷。刃と化す。幾多の氷の刃は降り注ぐ」
ジェインが詠唱を使った。アイスブレードと呼ばれる、殺傷能力が高い魔法だ。いくら何でも手加減しなさすぎだ。とはいえ、大丈夫だろう。
「ジェインの野郎、いくら何でもやりすぎだろ! マスター、これは試合中断を」
酔っぱらいが慌てている。意外に状況を見ている。しかし本当に中断する必要のないものだ。右手で制する仕草をする。
「ちょっとぐらいは心配しとけよ。重傷になってもおかしくねえんだぞ!?」
「大丈夫です。メイプルは耐えます」
土煙で見えなくなる。悲鳴のようなものはあげない。魔力を感じるから、まだ意識はあるだろう。
「……」
誰もが固唾を飲んで見守る。煙が晴れる。メイプルは膝を付いていた。傷だらけになり、血だらけになっているが、辛うじて動けるみたいだが、試合続行は無理だろう。一方でジェインなのだが、無傷のままだった。あ。一瞬だけぐらつきがあった。
「まさか反撃してくるとは思わなかったぜ。エイト、有望な子が来たんだな!」
いきなり話しかけてくるか。普通は。
「試合終了! ジェインの勝利とします!」
審判がいつものように仕事をしてくれた。さて。治癒魔法の使い手を呼ぼう。
「よっと」
そう思っていたら、ジェインが軽々とメイプルをお姫様抱っこ。
「あの、普通に歩きますから!」
メイプルの顔が真っ赤に。純粋に恥ずかしいというのもあるが、魔法少女として控えておきたいことだったのかもしれない。
「これぐらいはさせてくれよ。試合っつっても、俺が怪我させたようなもんだしな」
本当に主人公過ぎる。ジェインは。周りを見ると、頬を緩んでいたり、口笛を吹いていたり、何だかんだ良いムードである。この村にギルドを作って良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます