第9話 メイプルの特訓

 書類の整理をして、作業をしていたら、集中が落ちてきた。ぐっと背筋を伸ばし、外に出てリフレッシュをしよう。そういうわけで、俺はギルドの建物から出て、ちょっとだけ散歩。そのはずだった。


「やあ!」


 打撃の音とメイプルの声が耳に届いたので、予定を変更する。こっそりと丁度よく隠れられる木から見る。この付近は確か修練所としても使っているところだ。メイプルは太い木の棒を殴っている。その傍にレインがいた。


「だいぶ形になってきたっすね! 次は実戦っす。常に動くっすから、きちんと相手の動きを見ないといけないっすよ。色々と型があるんすけど、今回は時間がないから、簡単にこういうことなんだってことを知っていればいいっす」


 レインは生粋の魔法使いで、身体を動かすことを滅多にしない。ただ前世は空手や柔道などを齧ったらしく、ある程度の武力による抵抗ができる。簡単なものは教えられるというのが彼奴の言葉らしいが、明らかにガチな気が……しなくもない。


「あわわ!?」


 レインが真っすぐ殴りに行く。メイプルが初心者だからか、ゆっくりめではある。それでも初めてなのか、彼女はうろたえている。


「えい!」


 それでもどうにかメイプルは拳を使う。レインは右腕で攻撃を受け流した。


「うえ!?」


 メイプルが驚く声を出す。対人戦というのはそういうものだ。手段は腐る程ある。だからこそ、競技というものにルールがある。


「ほいっと」


 レインがメイプルの襟を掴んだ。普通は投げ技をすると思うが、レインは手を引いた。そこまでやらなくても、展開を読めているからだろう。きっと。


「戦うって難しいぃ」


 メイプルがしゃがんだ。頭を抱えている。レインは明るく笑う。


「あっはっは。でも、魔法も絡むと更にややこしくなるっすよ」


 魔法と拳の混合武術流派が存在するぐらい、この世界の戦闘はとても面倒だったりする。魔法が使えるからといって、素早さがなければ速攻でやられる。正直俺は数秒で騎士にぼこられてしまう。空想の物語より、現実の方が厳しいのだ。


「まあ今のメイプルちゃんだと、だいぶキツイみたいっすから」


 それにしてもレインは教えるのがとても上手い。相手の力量を見極めて、必要なところから少しずつ難しくしていく。前世はプログラマーで先生をやった経験はないと言っていたから、この辺りは間違いなく天賦の才だ。


「今のメイプルちゃんが使える魔法で対人戦向きなのを教えるっす。そんで使えるように特訓っすよ」

「はい!」


 レインとメイプルは師匠と弟子の関係性みたいなものだ。いや。魔法少女オタクの影響をガッツリ受けているので、そう表現していいか分からないが。何はともあれ。メイプルはレインに任せておけばいいだろう。それに交流試合は勝ち負けを重視しているわけではない。応援はする。ただ試合が終わってからが大事。日本も。この世界も。その辺りは変わらないはず。

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