第2話 王都からの緊急クエスト 

 黒髪黒目のアラサーこと黒田瑛人(俺のこと)は依頼主の男を見る。煌びやかな宝石の指輪と質の良い茶色のコートとブーツ。この格好はロイヌ村でまずあり得ない格好だ。そうなると他の村の者か、王都の役人か。そういったところだろう。


「ご要望は何でしょうか」

「……」


 男はきょろきょろと見る。木で出来た暖かな空間にはひとりもいない。見回りや小さい遺跡の探索などを行っている冒険者が多いためだ。


「警戒なさらなくても、この時間帯はあまり人がいませんよ。少しお待ちください。レイン!」


 俺は立ち上がって、裏にいる天才で馬鹿な右腕を呼ぶ。ドアを開けると、白髪赤目の二十代の男のレインがソファーで寝っ転がっている。絵になるほど、顔立ちが良い。読んでいるものは魔導書だが。


「マスター。どうしたんすか。客人っすか」


 よっこらせとレインは身体を起こす。人差し指でくるりと宙で描く。何かが光って落ちる。その落ちたものはレインの右手に。空間転移の魔法だ。無詠唱。何かしらのアクションで発動するように設定したと考えていいだろう。それを簡単に出来る辺り、天才魔法使いは伊達ではない。


「どーぞ」


 その鍵をレインから受け取る。デカい熊のぬいぐるみのキーホルダーみたいなものはレインお手製だ。いつものことなので気にせず、礼を言ってギルドマスターとしての指示を出す。


「ありがとう。受付をやってくれると助かる」

「うぃーっす」


 表に出る。男は静かに待っていた。俺は営業スマイルで接する。


「お待たせしました。応接室でご対応しましょう」


 応接室は二階の端にある。鍵で開けて、中に入れさせる。ソファーとテーブルがあるシンプルなものだが、それでいいと俺は思う。茶色しかないという問題点はあるが、追々やっておけばいいだけの話だ。


「座ってください」


 そう言うと、男は静かに座った。王都で作った質の高い紙を差し出した。書類の類だ。緊急招集に関するものだ。


「ある報告を受けました。王都の地下水道に魔物ありと。根源があるタイプなのでそれを潰してもらいたいとのことです」


 魔物の発生源があるタイプとなると、犯人がいるだろう。犯人確保は国に任せ、魔物の出処の調査は魔法使いがやればいい。それだけなら冒険者の手を借りる必要はないはずだ。そうなると国絡みの厄介なことと考えた方がいいか。


「一刻も早く解決をしたい。すぐに動けるのは冒険者のみですから」


 時間が経てば経つほど事態が悪化する。早めに解決しようとなると、冒険者を使うことになる。そうなると冒険者ギルドに声をかけまくっているはずだ。魔法の行使の回数を踏まえると、消耗も激しいだろう。通信の魔法でレインに連絡を取ろう。


「レイン、聞こえるか」

「珍しいっすね。接客中に。何すか」

「魔力回復薬を頼む」

「了解っす」


 とりあえず魔力については解決した。あとは状況をある程度把握しておくべきだろう。そういうわけで質問を何度かやってみる。


「今現在の冒険者の募集はどうなってます」

「募集開始したばかりですから少ないです。傾向を考えると、魔法を扱える人がいると助かるでしょう」

「治癒はどうです。医師の派遣などは」

「そこは問題ないです。浄化の魔法を扱える人材がいればと思うのですが」


 浄化の魔法。宗教系の職種なら身に付けていることが多い。うちのギルドだとシスターのテレジアだ。二つの組織に入っているから、迅速に動けるかどうか怪しいが。もし出来ないなら、最年少のシンちゃんを引っ張ったら……おじいちゃんで王都が騒がしくなる。頭が痛い。仕草はしないで、ただ普通に接しよう。


「いるにはいます。集合するのはいつに」

「明日の朝までには」


 予想より早い。レインをこき使わないと間に合わない。ノックの音?


「すみません。お茶をお持ちしました」


 レインが入って来た。暖かい紅茶のセット(黒いカップは間違いなく魔力回復薬数滴たらしている)をテーブルに置く。丁度良かった。


「レイン。頼みたいことがある」

「はい。何すか」

「テレジアとシンに連絡を取ってくれ。緊急招集を王国から貰ったと。返事は夕方までだと」

「分かりました。すぐやります」


 レインはすぐ退室した。


「二人に確認を取ります。依頼の詳細スケジュールと報酬について伺いたいのですが」

「書類に」


 二枚目の紙にスケジュールと報酬金額が書かれている。金貨二枚。近くの商業都市なら色んな物が買える金額だ。


「それじゃそろそろ行きます。連絡はこの使い魔に」


 男は魔法も使えるのか、見た目が鴉の使い魔を無理やり渡してきた。うちのギルドに来たということは、もうひとつの冒険者ギルドにも行っているのだろうか。


「あの。ここの村のもうひとつの冒険者ギルドには行きました?」

「いえ。まだです」

「あっちのギルドマスターによろしくと伝えてください」


 そう言って、ホールで見送ったわけだが、男は急いでもうひとつの冒険者ギルドに行ってしまった。微々たるものだが、あの茶を飲んでいたから、魔力は回復しているはずだ。仕事に滞りなく終わらせるだろう。さて。ギルドマスターとしての仕事を再開だ。

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