第3話 夕方の魔法少女ギルド内

 太陽が沈む前に所属の冒険者が帰って来た。今日参加した人数は三人と少ない。受付から目視で出来る。短い白髪に褐色肌のスレンダーなロヒーニャは白いシャツに焦げ茶色の長いズボンにブーツというシンプルな格好だ。男性のようにも見えるが、ロヒーニャはこういうものがお好きだと言う。特に怪我はなさそうだ。同じぐらい短い赤毛に黒目の狩人のユイは赤ずきんを思わせる何かを被っている。狙撃銃を背負っているから、狩る気満々である。彼女も特に目立った傷はなし。


「マスター! 今から薬を作りたいんですけど!」


 白いエプロンと村娘の質素な恰好の十七歳の子がグイグイ来た。薬師になったばかりのリンカだ。ギルドの裏にある工房を借りて、何かを作る気だ。施設はここが優れているから。だがあの工房の主は俺ではない。レインだ。


「ちょっと待ってろ。おーい」


 裏で働いているレインに声をかける。部屋の窓が開いている。王都から来た男の使い魔を飛ばしたか。


「返事を出したところか」

「ええ。テレジアさんもシンちゃんも参加っす」


 テレジアは問題ない。冒険者としても、シスターとしても、役割があるからだ。シンちゃんの場合は……幼過ぎるという大問題があるが、その他にも保護者役として大魔法使いのニコラが来てしまう点もヤバイ。隠居しているとはいえ、大体の人はビビる。作戦に影響がなければいいのだが。


「ニコラさんは出ないっすよ。テレジアさんが一緒にいるからとか」


 レインの台詞で何となく察した。


「教会側もニコラさんの影響を知っているから許可をすぐに出したのか」

「そっすね。で。マスター、どういった用件なんすか」


 そういえばそうだったと、俺は本題を出す。


「リンカが工房で薬を作りたいと言ってた。問題ないか」


 レインがニッと笑う。


「問題ないっすよ。リンカさんはどこに」

「受付のとこにいるぞ」


 表に通ずるドアを開ける。すぐに受付の席があって、ホールがあるといった感じだ。ひとり人数が増えているような。気のせいではない。


「ナミアンさんっすね」

「だな」


 短く切りそろえた金髪に力強い黒目。普段の鎧姿だと威圧があるけれど、今はオフだからか穏やかなお姉さんになっている。ナミアン・ブロヒスティス。昔からいるロイヌ村の騎士貴族だ。


「ナミアンさん、何かご用件がありますか」


 ナミアンはかつてうちのギルドの一員だった。数か月前に正式に騎士となり、ギルドから脱退した。身分のことを考えると、昔のようにタメ口というわけにはいかない。


「堅苦しい言葉はいらない。ただの見回りだ。気にすることなんてないだろ」


 特に問題はないらしい。ロイヌ村は治安がいい。食う物があって、服と住処があるからか、穏やかな気質の人が多いのかもしれない。まだ問題は抱えているが、少しずつ変わっていける土壌があることが救いだ。


「そうですか」

「ところで」

「はい?」


 何があるんだろうと俺は気を引き締める。


「大魔法使いの孫のシンが参戦するという噂が流れているのだが」


 村中に流れるのが早過ぎないか。さっきレインが返事を出したばかりなのだが。


「ああ。本当のことですよ。保護者無しだそうです。テレジアさんがいるからでしょう」

「なるほど。しかし恐らくだが、ニコラ氏は間違いなく使い魔を飛ばして監視する」


 あのご老人ならやりかねない。何か手を打つべきか。色々考えても思いつかない。相手が悪過ぎる。それよりも手続きなどやるべきことがある。


「そろそろ仕事に戻ります。お仕事頑張ってください」

「マスターも」


 ホールにいる二人はあと少ししたら、家に帰るはずだ。俺は裏で書類作成とか、手続きの仕事をしようか。ちょっと帰りが遅くなるだろう。仕方のないことだ。

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