宝船の物語、その「冗談」は必ずしも通じるとは限らない!

Haika(ハイカ)

宝船の物語、その「冗談」は必ずしも通じるとは限らない!

 小学校卒業前の、メッセージ作り。

 少子化で統廃合が決定したため、別れの前に生徒達の想いが書かれたボトルを、海に流すというもの。


 生徒は、卒業生の31人のみ。

 彼らが巣立った瞬間、門は永久に閉じられる事になる。

 「みんな。ボトルの中に、自分達が書いたメッセージは入れているな?」

 「「はい」」


 生徒達の手には、透明のペットボトル。

 中はその殆どが絵筒だが、一部は天然石や手作りアクセなど、紙以外のものまで入れている生徒もいた。

 それでも、先生は怒らなかった。


 ――危険そうなものは入ってないし、大丈夫だろう。

 という、目視での判断だ。



 目の前には、買い物カゴほどの大きさをもつ箱船が、置かれている。

 「ではこの中に、みんなのボトルを詰めて、海に流すぞ」


 先生の指示に従い、生徒達のボトルが次々と入れられていく。

 「なんて書いたの?」

 「将来の夢だよ。そっちは?」

 「学校の絵! 海の向こうの人達に見てほしくて」

 「そっかぁ。早苗のはどんな? 小説家になる夢?」

 「…ナイショ」

 なんて会話がありながらも、全てのボトルが入り、船のハッチが閉じられる。


 そして、遂に海岸から、船が流された。



 沖へ沖へと進む、一隻の”宝”。

 あれだけ大きく、しっかりと浮くから、魚に食べられる心配はない。

 そんな、卒業生達の想いを載せた船が、誰かの手に届く事を、願って――。




 翌日、無事に卒業を迎えた。

 門が閉じられた母校を前に、記念撮影もされた。


 そしてこのまま中学へ進学… の筈だった。




 「うそだろ」


 先生が騒ぎを耳にし、“それ”は発覚した。

 閉校したはずの学校の門が、無残にも破壊され、校庭に大きな穴が空けられたのだ。


 逮捕されたのは、とある石油産出国の富豪の孫。

 動機は「ここに、石油が埋まってるときいて」だそうだ。


 「みんな、本当に無事で良かった… しかし、なぜこんな事に」

 先生は顔を青ざめた。

 あともう少し卒業が遅れていたら、自分達は――。


 「こわいねー」

 「うん。ところで、私達のボトルはまだ届いてないのかな?」


 元卒業生たちが、そういう。




 ――どうしよう。私のせいだ… 私の、あの思い出の小説を、信じる人がいたなんて!


 同じく現場で、早苗は一人、無言で小さく肩を震わせていた。


【完】

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