セカイを繋ぐ3つの絵画

第25話 レジスタンス

*1*

 紗那は明日にでも行動を起こしてくる。そういう女だ。一緒に育ったから分かる。


 セカイの秘密を知りたい。その一心で多分ここ、下層まで欲しがっている。

 例えセカイに必須の『織姫』でも、ここまで無茶をされれば、上層部だって動くだろう。知らず紗那への刺客が送られる懸念もあるというのに。どこまでも伊織を最悪へと誘う姿はやはり、天衣無縫な織姫だ。



 伊織は思考を絞めて自室のドアを閉めた。無機質なドアの前で、ポケットから銃弾を取り出して装填すると劇薬を意味するマークを確認した。


「原因不明で長官が倒れた」なら、指揮系統は伊織の手に転がってくる。が、もしユグドラシルに認められないようだったら。


「殺すしかないか。……経験はないが、認められるまで」


 サイレンサーをつけた銃を構えて、壁に向かって撃ってみる。薬莢がカラリと落ちた。紫煙を上げた銃を下ろして、伊織は廊下を直進し、ガラス張りのエレベーターに乗り込むと、景色の見える壁に寄り掛かった。

 黒の珠の処理場や、特徴ある研究所の屋根が見えて来る。


(まさか、織姫が攻め込んで来る事態など想定していなかった)


 ――黄泉太宰府に告ぐ。今すぐセカイの全権を織姫騎士団に譲渡せよ。我々、ミズガルズ全域はウェルドの支配から立ち上がる。


 織姫による織姫の反抗(レジスタンス)か。どちらが織姫なのか分かりゃしない。


(昔から、置いて行かれると怒ったからな……)


「あの暴れ織姫には首環はつけられない……さて」

 久々の兄弟の再会が、血に彩られなければ良いが。兄がお利口さんであることを願う。


 このトリガーは弾きたくはないのだから。

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