第12話 セカイの次元境界

***

 眼を開けると、静寂。押し寄せる流れる時の残酷な色。


「伊織、見て、大気に柵がある」


 龍の境目を抜けた周辺は白銀の綱とユグドラシルを編んだような柵で覆われていた。明らかに、霊的な雰囲気だ。空気は流れない。振り返れば爆風の続く空間、眼の前には白無の時間。存在のない空間がぽっかりと口を開けている。伊織は馬を止めた。


「踏み込まないほうがいい。ここはきっと神さまのセカイだ。汚れた足で、お邪魔はいけない。ミカエル、きみはユグドラシルに帰れ。借り物だからな」


 ミカエルは静かに翼を広げて大気で静止した。


「ここまでありがと。行ってくる!」


 あやふやな白い柵は、よく見れば願いの珠に近い。まるで注連縄のようにセカイを囲っている。二人は仲良く手を繋いで、大気に降りた。紗那が蹌踉けたので、伊織は紗那の細腰をしっかりと抱き寄せた。背後には天上セカイが揺らめき、七色の光を微かに撒き散らしている。


「恐らくここが、天界と地上の歴史の境目だ」


(そうか)伊織は、自ら告げた衝撃の一言に愕然とした。


「これこそ、かつては天界と地上が一緒で、どこかで分離したという証拠じゃないか……」


 2人が目指すセカイは珠になって、ゆらゆらと振り子のように微動していた。


「時代が呼ぶなら行って見るしかない! 二人なら、怖くない!」


 大気は光に通じる。眩しくて、悪意なんぞ宇宙の彼方に吹っ飛びそうな耀の爆発の中。


「これが、時代を生きる人間たちの生きるために抗うエネルギーだ。紗那――」


 その空間は言葉にするは難しい。たくさんの魚のような魚影が時の河を流れていく。

 行く末来し方。

 人が説明するには難しいミエナイセカイだ。


 目の当たりにしてもお互いどう表現すれば良いのか分からなかった。


 セカイコード古代中国『殷』はあたかもプログラムのように原型を揺らしている。


 指先一つで消えてしまうような。

 水槽の幻影のようにーーー。


 第1章 了

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