第3話 ちゃんと話を聞いて行動すれば起こらなかったかもしれない話
このお話は私が何よりも恐怖したお話の一つで、はっきり言って不謹慎極まりない内容となる旨を先に謝罪しておこうと思う。
人間の悪意という物は底が知れない、最近未だ記憶にあたらしい物は某アニメーションスタジオ放火殺人事件、こう言った凶悪事件を例に出す事をタブーとしている世論、また関係者に不愉快な気持ちにさせている事も承知の上で申しておくと、忘れてはならない事件であるという事。
これに関しては私も少し堪えた部分がある。
その某スタジオで作られるアニメーションは独特なイラストタッチと極めて質の高い演出、そして計算された流れに一つ、二つは好きな作品がある方も多いだろう。かの容疑者に関して私が何か言うつもりも思うつもりもないし、同じく某障碍者施設殺傷事件に関しても同様の事が言える。
どうすればこれらの事件は起こらなかったのだろうか?
私自身がタラレバの話はあまり好きではないのだけれど、これはそう言った類のお話になり、どこまでが事実なのか、もし実際に別の未来があったのかに関しても所詮はタラレバでしかない。
それはカルト氏に動物の面白い話を聞かせてあげるから動物園にいかないかと誘われた日の事であり、その動物の面白い話は今回ではなく後日機会があれば公開しようと思う。何故なら、その動物のお話以上に私には衝撃的に思えたのだ。場所は割愛するが、待ち合わせの場所は瓶の飲み物が選びたい放題のレベルで置いてある売店のあるとある駅、そこで缶バッチを大量につけた学生風の子等が行きかう中でカルトさんは何かの仕事明けかツナギ姿でやってきた。
「地下鉄に乗る度に思い出すよね。まぁ半信半疑である事には変わりないんだけどね」
そう言ってカルト氏は5年だか、7年前。日雇いの仕事で一緒になったやたらタバコを吸うのが様になる年配の男性と安い食堂で同席した時の話である。
「君は、こんなじじいにもとても紳士だね」
「どうでしょう。世の中何があるか分からないので誰にでも
とそんな話をしていたそうです。食堂と言っても好きなおかずを適当に選んでご飯を最後に注文する。チェーンの定食屋みたいな場所だったらしいんだけど、日雇い労働者は食費をケチる。
ご飯におかず一品。テーブル備え付けの漬物で腹を膨らませるみたいな感じの中、その老人はご飯、味噌汁、売り物の漬物、おかず数品と豪華な定食を作っていてカルト氏的には見た目の威圧感もあり浮いて見えたそうです。
なので、
「お兄さん(年寄り相手のおべっかだね)は、もしかして軍人さんだった方とかですか?」
「そんな年じゃないですよ。ただね、戦争はしようとしていましたよ」
あぁ、やっぱりこの人もヤバい人なんだなと、昔悪かった話をする中年は未だに悪ぶっている事が多いが、カルト氏曰く、昔ヤバかった奴は異様に丁寧な人が多いと語る。そんなカルト氏に老人は語った。彼は昔、タカ派。武力を持った集団に属していたのだという。
「銃もねぇ、突撃銃をとある金属加工工場に偽装して沢山作ってたんですよ」
だなんて彼は懐かしそうに語るので、カルト氏はカルト氏の知る中でそういう事をしていた連中について心当たりがあった。
「もしかして、お兄さんはあの某団体の……関係者さんですか?」
それは日本最大のテロと言われた地下鉄でサリンガスを撒いたアレ等なのか? とか思ったら予想だにしない事になった。
「そいつらを皆殺しにする為に準備してんだ。一緒にしてくれるな」
それは怒鳴られたわけでもなく、ただ冷たい。カルト氏はこの雰囲気をしっていたそうです。完全にアングラ界隈にいる人たちが放つ独特の雰囲気と、そしてうっすら感じる腐敗臭にもにた生理的に感じる嫌悪感。そんな男性にカルト氏は頭を深々と下げてこう言った。
「それは大変失礼いたしました。どういう事でしょうか? 被害者の会みたいな?」
正直、これ以上聞きたくはなかったと語ります。聞いたところで厄介でしかないし、なんの得にもならない。世の中知らない方がいい事が多いとよく言うが、こういった界隈の情報はまさにそうなんだろう。
「いや、愛国心ですよ」
愛国心、何を言っているんだコイツはと……ことさら怖くなってきたカルト氏はさっさと仕事開始の時間にならないかなと思ったが、当時の仕事は休憩時間が2時間だとか3時間あって12時間労働で日給4万円という高額な物、内容は教えてもらえませんでした。
ただ、人には言えない仕事との事です。
「三島由紀夫という人物を知っていますか?」
「自衛隊のところで腹を切って亡くなった方でしたか? 確か活動家であり、小説家とかだった」
「えぇ、お若いのによくご存じですね。彼は民主主義にはテロは必要なものだと語りました」
嗚呼、当時の活動家ならそれくらい言いそうだなと、そんな風に思っているとカルト氏と話している彼はその地下鉄にサリンを撒いた連中に対してこう言ったそうです。
「元々はそうでもなかったが、組織が大きくなるにつれて国家転覆を狙う思想に代わり、脱会する者、脱会を手助けする者、組織を批判する者を殺害する集団に変わった、テロリズムとは政治活動の事です。その為に過激な行動を起こす事ですが、奴らは違うでしょう?」
人を本気で殺せる人の目はあまり見つめない方がいいとカルト氏は言っていました。それは草食動物の本能なのか、魅入られるという。殺されて楽になりたいという気持ちが動物は快感物質を脳内で生成し、比較的苦しまずに死ねるらしいです。それを人間に当てはめると、その人間のシンパになりやすいのだとか、だからサイコパスはモテると、
「だから皆殺しにしようと?」
「えぇ、地下鉄で行う事件に関しても私達は情報を掴んでいましたから、私らが動ければあの凄惨な事件は起きなかった。私達が大量虐殺者として何人かが死刑台に立っただけでしょうね」
なんて事を言うんだとカルト氏は思ったそうですが、この男性の組織。実は一度某テレビ番組のメディアで取り上げられた事があったそうです。おそらくこの話を読むような方々なら昔の凶悪事件を取り扱ったバラエティ番組を見るのが好きな人も多いでしょうから知っているという人がいてもおかしくはないだろうね。
さて、長く待たせたけどカルト氏のお話で伝えたい事、怖い部分というのは今からはじまるのである。
「まぁ、結局私らの組織は警察にパクられて、連中の巣窟を襲う計画はぱぁになったんですけどね。あの事件、もちろん起こした連中に全ての罪があるけれど、私は警察の罪も大きいと思っていますよ」
「警察のですか? あぁ、お兄さん達が警察に情報提供したわけですもんね? 後手後手に回って事件が起きちゃった。みたいな?」
「違いますよ。警察という組織はね。真相なんかより見栄とメンツで成り立っている。事件を解決する事は一番じゃないんです。捜査本部も頭が変われば捜査方法が大きく変わる。捕まる犯人もそりゃつかまりませんわな。私ら、喉が腫れるくらい警察連中にこれから起きる地獄を説明したのに、相手が宗教絡みだから容易に手が出せず、私らを捕まえて自尊心を満たしただけ、結果はあーですよ。戦時中から何も変わり映えはしない……この国は核を落とされた時もそうだ」
そう言って年配の男性は席を立ち、自分の持ち場に戻っていったそうです。この年配の男性とカルト氏はもう二度と会う事はなかったそうです。
自分を肯定して欲しいわけじゃなかった彼が伝えたかった事。最後に言った核を落とされた時、というヒントにカルト氏がどういう事だろうね? という言葉に対して私は理解できてしまっていたのである。
広島、長崎の原爆。あれは落とされる必要がなく落ちた物。
当時の日本帝国軍はB29に原爆が搭載されて飛び立った事を実は随分前に察知していて、それを知った人物はいつでも迎撃できるように対B29用の当時最強戦闘機である紫電改の離陸準備まで指示していました。
が、それを上層部に伝えたところ、“そんな情報は聞いていない。いいな?” 当時の上層部は日本は負ける、これ以上メンツを保てない事はしない。核兵器を新型爆弾程度にしか思っていなかったかられは広島と長崎に原爆を落とさせて手打ちにすればいいとそう決めたわけです。
私は、テロも戦争も盤上ゲーム、筋書の元に行われている事を知りました。
いつの世も私達一般の民という者の命は計算に入っていないんだなという事です。
もし、もしも上記の年配の男性組織の実行部隊が事を起こしていたとしても世紀の大虐殺事件、テロとして騒がれたでしょう。いずれにしても多くの命が失われる。
どちらが良かったか、だなんて事は私には分かりません。
それでも、戦争のニュースや未だ犯人が捕まらない事件を見る度に思うのです。
誰かのメンツの為に、多くの人が死んでいるのだなと。
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