第2話

 ボクのひいじいちゃんやミノルおじいちゃんと同世代の、先々代世界王の勤児きんじ様がご健在でいらっしゃった頃の世界は、とても良い時代だった。皆、何事にも勤勉に励み、各々が夢や希望を抱き目をきらきらと輝かせていた、と、ひいじいちゃんはボクに話してくれた。勤児様亡き後は、ご子息の優児ゆうじ様が勤児様の遺志を、それはもうご立派に受け継ぎ、勤児様ご存命の頃よりも更に良い時代となった、ということは、ボクもよく知っている。しかし、幼少期から御身体が弱かった優児様は、無理がたたったのか、早逝。優児様のご子息である零児れいじ様が、新世界王の座に御付きになったが、天才児として御生まれになり、甘やかされて育ってきた零児様は、一所懸命に頑張る人々を嘲笑い嫌悪した。そして、就任して早々、これまでの『世界法』を廃止し、それに代わる『新世界法』を制定した。『新世界法』は、第一条の、

「全力で頑張った民衆は、更生施設にて強制的に更生させる」

 から始まる全部で百条から成る法律である。民衆は“頑張りメーター”を装着することが義務付けられ“頑張り数値”が標準数値を超えると自動的に更生施設送りとなる。ひいじいちゃん……世界は、すっかり様変わりしてしまったよ。


『何事も、全力でやれ!』


 これがひいじいちゃんの口癖だった。勤児様の側近で、勤児様と優児様から絶対的な信頼を寄せられていた、ひいじいちゃんは、おふたりが創設された『勤勉学園きんべんがくえん』の学園長を任されるほどに誠実で勤勉な人だった。天国に逝ったひいじいちゃんが、今の腐りきった世界を見て嘆く声が聴こえてくるような気がした。そんな熱い血を受け継いだボクが、この腐臭が漂う世界を素直に受け入れられるはずもなく、ボクは、零児様、いや、零児の野郎が、至る場所に配置したパトロールロボの監視の目を掻い潜って、ヤツの企みを阻止する行動をしている。このことがヤツらにバレたら、ボクは、凶悪な犯罪者のレッテルを貼られ更生施設で酷い仕打ちを受けることになるだろう。想像すると、おそろしくて、おそろしくて、身体中がぶるぶると震え鳥肌が立ったが、ひいじいちゃんの遺影を見たら、不思議と震えが止まった。


『何事も、全力でやれ!』


 ひいじいちゃんが、全力で、ボクの後押しをしてくれるような頼もしさを感じたからだ。

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