第2話:形見の指輪。

ある日のこと、初老の紳士が雑貨屋のドアを叩いた。


「ごめんください」


「いらっしゃいませ・・・」


対応したのはこの雑貨屋の店主のエルフ、マーテルベルだった。


「あの・・・この雑貨屋はないモノはないって聞いてきたのですが?」


「どうそお座りください」


そう言ってメーテルベルもカウンター越しに客と対面するように椅子に座った。


「なにをお探しでしょう?」


「実は指輪が・・・古い指輪なんだが、このお店に引き取られたり

していないかと思いまして・・・」


「指輪ですか?」

「よければその指輪をお探しになってる訳・・・聞かせてくれませんか?」


「そうですね・・・」


客はひとつ咳払いをして、指輪のいわれについて話し始めた。


「実は私には若いころ、親が決めた許嫁がいましてね」

「でも私には他に好きな人がいたんです」


「親に好きな人がいるからと言うと、猛反対されましてね」

「私の許嫁って女性は銀行の頭取のお嬢さんで身分も我が家より高かったんです」


「父親は、その格式が欲しかっただけなんです・・・」


「他に思う女性がいるってのは、その許嫁には悪いとは思いました」

「でも愛してもいない人と一緒になっても、お互い不幸なだけです」


「私は親の反対を押し切ってでも愛する人と一緒になることを決心して

それで、母の形見の指輪を彼女に送りました」


「ところが、突然でした」

「彼女がいなくなったのです」


「私は死に物狂いで彼女を探しましたが、結局、彼女を見つけることは

できませんでした」


「失意の中で私は生きる気力を失ってしまいました」

「家を出た私は、今日の今日まで彼女を探し続け、ずっと独身で通してきました」


「誰も愛することなく、彼女のことだけ想い続けて気がつけば、もうこの歳・・・」


「彼女がいなくなってから、一度も会うことがなかったので、私の人生も

これで終わるのかと諦めかけてていた時、ある日、古本屋に書籍を買いに

出かけたんです。

ところが、その古本屋で偶然にも彼女と出会うことができました。


「懐かしさと嬉しさで、私は舞い上がりました」

「そこにいた彼女は若い頃とちっとも変わっていなかった」


「聞くと彼女も独身のまま今日まで生きてきたそうでした」


「どうして私の前から消えたのかと彼女に尋ねたら、彼女の父親は

私の父親から大金をもらって彼女を連れて、よその町へ引っ越したんだそうです」


「そこまで私の父親に反対されてるなら、と彼女も私に会うことを

諦めて、身を引くことにしたんだそうです」


「私はそんなことがあったなんて知りませんでした」


「しかも私が彼女に渡した指輪まで彼女の父親が売ってしまったんだそうです」


「私は、もう一度彼女を二度と離したくなくて、この歳でプロポーズしました」

「彼女も私の申し出を、快く承諾してくれて、長年の想いが身を結ぶことに

なりました。


「今度こそ、ふたり幸せになろうって誓い会ったんです」


「そこで、あの母の形見の指輪をもういちど彼女にプレゼントしたいと

思いましてね」

「でも指輪は彼女の父親によって売っぱらわれてしまってます」

「見つける手だても、探す方法も分からなくて・・・」


「それで藁をもすがる気持ちで、この店に来たんです」

「どうでしょう・・・指輪を見つけることができるでしょうか?」


客の話を聞いたマーテルベルは、うなずいて椅子から立ち上がった。


「分かりました・・・きっと大丈夫と思いますよ」

「少しお待ちくださいね。」

そう言うと彼女は店の奥へ引っ込んでいった。


つづく。

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