第49話 おまけ


「な……なんじゃこりゃ―――――――!?」


「……キムチ鍋以外になにがあるというんだ」


 と私の魂の叫びに対し、松下さんが冷静にツッコむ。


 しかし、噂には聞いていたが、これほどとは。豚肉と白菜が絶妙なキムチの辛さとマッチして絶妙なハーモニーを奏でている。


 恐るべし、キムチ鍋。


「どうでもいいけど、他の部屋の人たちに迷惑だからあんまり騒ぎすぎないように」


「はぁ……松下さん。相変わらずですね。月が綺麗だから綺麗。キムチ鍋が美味しいかったら美味しい。素直な感情を表にだせないのは悲しいですよ」


「……」


 どうやら、グウの音も出ないようだ。


「さもしいですよ」


「……」


「意地汚いですよ」


「……」


「底意地が悪いですよ」


「さ、さすがに言い過ぎだろ!」


 と流石に反抗してきたので、この辺で許してやった。


 結局、私はと言えば東京に越してきて、松下さんと同じシェアハウスに住むことになった。言うなれば、お隣さん。で、「なにか奢れ」と言い続けていたら、「現物支給だ」とか言ってキムチ鍋を作ってきた次第だ。


「でも、本当に美味しいですね」


「はぁ……戻りたい」


「いつにですか?」


「赤ん坊」


「さ、さすがに戻りすぎでしょうよ」


 もはや、キムチ鍋関係なくなっちゃってるじゃないですか。


「もはや人生において、食だけが楽しみだと言っても過言ではないのに……俺は、初めてキムチ鍋を食って感動している小娘の前に立って、食べるのを我慢しているんだから」


「た、食べればいいじゃないですか」


「太るんだよ!」


 お、おっさん。


「ちょっとぐらい、いいじゃないですか」


「ふぅ……いいか、サト。おっさんと言う生き物はちょっと食ったら太る生き物なんだよ。で、太ったら親や親せきに言われるんだ……「太ったね」って。で、そのストレスで食べて……そしたら、職場の人にも「太ったね」って。それで、ストレスで食べて……人類なんて滅べばいいのに」


「言いすぎでしょ!?」


 別にそこまで思いつめなくても。


「サト……お前ぐらいの年齢だといくら食べても太らないんだよ。いや、たとえ少し太ったとしても可愛い。お前は、元が可愛いんだから。でも俺は……おっさんなんだよ!」


 お、おっさん。


「もう、食べてもらえませんか? と言うか、一緒に食べましょうよ。いつも通りお酒飲んで寝てればいいじゃないですか!?」


「……それは、できない」


「なんでですか?」


「プチ断食中」


「女子高生か!?」


「16時間食事感覚空けなきゃだから、あと6時間」


「女子高生か!?」


「美肌効果もあるらしい」


「女子高生か!?」


 おっさんが美肌意識してどうするんだろうか。


「まあ、じゃあ私、全部食べちゃいますよ」


「……うん」


 モグモグ。


「うま――――――!」


 モグモグ。


「おいしい――――――!」


 モグモグ。


「……」






















 結局、松下さんは死ぬほど食った。



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