第48話 一緒


「な、なにすんだよ!」


「バカバカバカ! 松下さんのバカー!」


「ふ、ふざけんな飛行少女。電車の音なんて不可抗力だろうよ」


「いつもの行いが悪いからです!」


「真っ当に生きとるわ! ……ったく。というか、なんで東京に?」


「……もういいです」


「はぁ……近くのおでん屋行くか?」


「……おごりなら、行きます」


「あいかわらずのどケチぶりで安心したよ。よっこらせ」


「……よっこらせって、あいかわらず、あらゆるところでオッサンですね」


「あんまりオッサンオッサン言わんでくれるかな? 一応、シェアハウス内では20歳で通ってるから」


「!?」


「嘘から始まる恋もある。君の心の辞書に刻んでおきなさい」


「嘘というか……もはや犯罪なのでは?」


「……いや、肉体年齢とは言ってない。精神年齢、いわば心は20歳だから」


「精神年齢こそがバリバリおっさんのような気がしなくもないですけど」


「……」


「む、無視しないでくださいよ。あいかわらず、都合の悪いことは聞かないんだから」


「てか、さっきなんて言ったの?」


「……」


「おい、小娘。さっきの台詞をそのままお返ししてやるよ」


「……」


「好きって言ったとか?」


「……言ってませんよ」


「お前が28歳だから……年上との恋か」


「さすがに私より年下の設定は無理じゃないですか!? バリバリ未成年なんですけど! 言っちゃいますけど、だいたい17歳です!」


「……まあ、百歩譲ってお前が未成年だと主張したとしても、20歳と17歳だったら犯罪じゃないしな」


「法律のことはよくわかんないですけど18歳未満はダメなんじゃないですか?」


「オーケーグーグル」


「で、でた。検索おじさん」


「……だ、ダメじゃねーか。20歳でもダメってどうすりゃいいんだよ。17歳にはさすがに見えんだろ」


「それだと、『20歳はイケます』的な感じになりますから、根本から訂正して欲しいですけど」


「で、なんて言ったんだ?」


「……あ、そうだ。スカウトきましたよ! ほら、これ見てくださいよ」


「……げっ! 大手じゃん」


「そうなんですか?」


「ほら、HPにも社長の写真載ってるし。この人だった?」


「そ、そうですよ。こんなダンディなおじいさまでした」


「マジか……そんな話あるんだな」


「……その点につきましてはありがとうございました。これで、夢にも一歩踏み出せそうというか」


「で?」


「なにがですか?」


「なんて言ったの?」


「……大っ嫌いって言いました」


「お、お前……夢を後押しした人に対してそんな仕打ちを?」


「……」


「いやでも、好きって言われてもな。17歳と言い張るなら、あと3年後くらいに言ってくれないかな?」


「言ってませんて! だいたい、18歳まではあと1年ですけど。青少年育成保護条例に法律家より詳しい松下さんらしくないですね」


「……社会では、18歳だからいいという風にはならない。20歳を超えているかどうかと言うのは、結構重要なんだ」


「……」


「俺が社会だ」


「……複雑怪奇な社会ですね」


「と言うわけで、3年後にまた告白してくれ」


「し、してないって何度言ったらわかるんですか?」


「18歳だと、お前の想いには答えられない」


「ふ、フラれたみたいで超気分悪いんですけど!」


「23歳と20歳だったらさすがにアリだろ」


「23歳(年齢詐称)だと、世間の位置づけでは犯罪者ってなりますけどね」


「……レッテル社会だな」


「なにを言っているのか最初から最後まで意味がわかりませんけど」


「でも……ここの事務所ってここから近いな。越してくるの?」


「うーん。そりゃすぐにでも行きたいですけど、仕事もありますからね」


「いや、チャンスがあれば迷わず飛び込めよ。義理人情気にしてる場合じゃないだろ。岳のこと気にしてるんだったら俺が言ってやるし」


「……ありがとうございます」


「ちなみに、俺んとこのシェアハウスはまだ空きがあるから、そこにする?」


「え?」


「ほら、なにかと不安だろう。というか、女子率高めにしたいんだよ」


「……いいんですか?」


「いいもなにも、松下20歳論の信憑性が高まるから非常に大歓迎だよ」


「は、犯罪に加担しろと?」


「優しい嘘だろ」


「誰に対しての優しさですか!?」


「人間だなぁ」


「みつおの真似しても、なんともならないですよ」


「でも……アレだな」


「ん? なんですか?」


「さっきのお前の言葉。確かに電車の音で聞こえなかったけど」


「……」




























 俺も一緒だと、松下さんは言った。


             END

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