第195話 降った者たち

 それから俺たちは東門を突破して町に入り込んだモンスターを排除した。


 今は街壁の外にいるモンスターたちの駆除を行っており、門の近くにいたモンスターと戦っている。


「ふう。大体終わったかな?」

「そうね。次はあっちかしら?」


 ティティはそう言って、モンスターたちの中で孤立しながらもなんとか耐え続けている一団のほうを指さした。


「そうだね。じゃあ――」

「待って、来たわ」

「え?」

「公爵! レクス! 大丈夫か?」


 その声に振り向くと、なんと王太子殿下が銀狼騎士団を率いてこちらに向かってきている。


「王太子殿下! はい、なんとか。とりあえず町に入り込んだモンスターは排除しました。ただ、あちらに金獅子騎士団の騎士たちが取り残されています!」

「そうか。ならば包囲を解くのが先決だな。斉射!」

「「「はっ!」」」


 銀狼騎士団はあっという間に隊列を整え、一斉に矢を放った。その矢は光の矢だったようで、モンスターたちはバタバタと倒れていく。


「食い破れ。ただし、茂みには近づくなよ」

「「「はっ!」」」


 騎士たちはモンスターたちが倒れて空白になった場所へするりと侵入し、それを左右に押し広げるように攻撃を始める。騎士たちはそうして安全地帯を確保すると、再び矢を斉射した。


 その繰り返しでモンスターの群れの中に長い突出部を作り出し、ついには孤立している金獅子騎士団の騎士たちのところにたどり着いた。


「大丈夫か! 助けに来たぞ!」

「おお! 助かった!」


 そう答えたのはエリベルトだった。


「む、エリベルトか」

「え? あ……」


 エリベルトは気まずそうな表情を浮かべる。


「エリベルト、今はレムロスを守ることが最優先だ。一時的に俺の指示に従ってもらうぞ」

「……はい」

「エリベルト率いる金獅子騎士団の騎士たちは東門まで退け! 負傷者を運んだ後に左翼に加われ! 街壁からモンスターどもを引き離すんだ!」

「はっ」


 エリベルトたちは手慣れた動きで負傷者を運び、銀狼騎士団の作った突出部の中央を通って東門まで戻ってきた。


 すると俺に気付いたエリベルト卿が気まずそうな表情でこちらを見てくる。


「エリベルト卿」

「……レクス卿か。負傷者はどこへ?」

「一旦、門の前のモンスターたちの死体の裏へ。そこなら多少は安全です」

「ああ」


 エリベルト卿たちはてきぱきと負傷者を運び、そのまま左翼、つまり北側のモンスターの排除へと向かう。


 俺はその様子をなんとも複雑な気持ちで見守った。


 というのも、彼らは全員元銀狼騎士団の騎士だったのだ。一方、運び込まれた死傷者の大半は知らない者たちだ。


 別に王太子殿下を見捨てた彼らのことを気に掛ける必要はないのだが、王妃と第二王子が余計なことをしていなければ、と思わないでもない。


 ……穀潰ごくつぶし、か。


 俺は頭を振って余計な思考を追い払う。


「ねえ、ティティ。西と南は大丈夫かな?」

「ええ。モンスターたちは全滅したわ」

「そっか。こっちはなんとかなりそうだし、あとは北だけど、そっちはどう?」

「北は持ちこたえているわね。あの馬鹿王子が余計な口出しをしていないもの」

「え?」

「ここの戦線が崩壊したきっかけはね。馬鹿王子が無意味な突撃を命じたことらしいわ。それでアサシンラットの潜む茂みに近づいたみたいよ」

「あいつ、余計なことしかしないな」


 それを聞いたティティはクスリと笑った。


「あ……失言だったね。今のは……」


 するとティティはクスクスと楽し気に笑う。


「あらあら、いいの? マッツィアーノに弱みを見せるなんて」

「いいよ。ティティにだったらいくらでも」

「……もう」


 ティティはそう言って少し顔を赤らめた。だがその表情は怒っているようで、照れているようで、なんとも複雑だ。


「レイ、私たちは上に戻るわよ」

「え?」

「だって、もう王太子殿下の部隊が出ているのよ。なら私たちは悪魔が来たときに備えて力を温存するべきでしょう?」

「そうか。そうだね。でも怪我人は……」

「それは聖女リーサの仕事じゃないかしら? いい? レイのやるべきことは悪魔に備えることよ。もしここで魔法を使いすぎて、あの雷の魔法が必要なときに使えなくなったらどうするの?」

「……そうだね。ティティの言うとおりだ。引き揚げよう」


 俺たちは街壁の上の楼閣に移動し、悪魔の襲来に備える。


 そうしてそのまま戦いを見守っていると、気付けばどっぷりと日が暮れていた。相変わらず戦いは続いているものの、戦況はこちらにとって大分有利に進んでいる。東門に攻め寄せてきていたモンスターたちもそのほとんどが撃退され、残るは北門に攻めてきているモンスターたちだけだ。


 このままいけば、明日の朝には掃討戦に移れるだろう。


 そんなことを考えていたときだった。


 隣に座っているティティがはっと息を呑み、拳をぎゅっと握ってブルブルと震えだした。


「ティティ? ティティ!? どうしたの!?」


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 次回更新は通常どおり、2024/05/29 (水) 18:00 を予定しております。

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