第194話 東門の攻防

「レイ! 上よ! 避けて!」


 その鋭い声に顔を上げると、なんと上空から火球が飛んできているではないか!


「うわっ!?」


 慌てて横っ飛びをしてそれをかわしたが、火球は次々と飛んでくる。


 なんだ!? 何が起きているんだ!?


 火球を躱しながら上空の様子を確認すると、どうやら上空に赤い鳥らしきものが飛んでおり、そいつが火球を俺に向かって撃ってきていることが分かった。


 あの高さを飛ぶモンスターを撃ち落とせるにはジャッジメントを使うしかないが、それをすると同士討ちになってしまう。


 くっ……こんなところで雷属性を選んだデメリットが!


「レイ! 無事よね?」

「大丈夫! それよりあの鳥は?」

「あれはファイアイーグル、お父さまが使役していた炎を吐く鷹のモンスターよ」

「ファイアイーグル……」

「レイ、ファイアイーグルは私に任せて」

「え? でも……」

「大丈夫よ。空を飛べるのは私しかいないのよ。だから私が戦うしかないわ。それよりレイは門を早く閉じてちょうだい」

「……分かった。ティティ、無理しないで」

「ええ」


 ティティはそう言うと、何匹ものワイバーンを引き連れてファイアイーグルのほうへと向かっていった。それを見送った俺はモンスターの排除を再開する。


 いくら斬ったとしても英雄の聖剣の切れ味が落ちることはなく、依然としてフォレストウルフもディノウルフも、なんの手応えもなくスパスパと切れ続けている。そしてティティがファイアイーグルの相手をしてくれているおかげで上空からの攻撃も止まった。


 もはやなんの憂いもない。


 そうして俺は、門の真上にある楼閣を奪還した。


「……ひどいな」


 楼閣には金獅子騎士団の騎士たちの死体が散乱しているにもかかわらず、モンスターの死体がない。


 ということはつまり、彼らは抵抗すらできずにやられたということを意味している。


 ここは門の開閉を操作する装置があり、さらに前線の指揮にも使われる重要な場所だ。


 ということは、少なくとも隊長クラスの指揮官がいたはずで、指揮官が倒れれば戦線が崩壊するのでそれなりの強兵が周囲を固めていたはずだ。


 だが、銀狼騎士団から引き抜かれた騎士たちがこんな醜態をさらすとは考えにくい。死体の顔にも見覚えがないので、きっとこの者たちは生え抜きでなのだろう。


 ということは、外で未だに持ちこたえているあの集団が元銀狼騎士団の部隊ということだろうか?


 と、そんなどうでもいいことを考えつつも、俺は東門の閉門操作を始める。もし西門と同じ仕組みであれば、この門の扉は二重になっているはずだ。一つは重たい金属製の格子を上から降ろすもので、こちらは楼閣で操作する。そしてもう一つは観音開きとなる木製の扉で、こちらはすでに破壊されている。


 今この金属製の格子は上がっているので、この格子を降ろせば門を閉じられる。


 俺は身体強化を発動しながらハンドルを回し、格子をゆっくりと地上に降ろしていく。


 ……ものすごい重さだ。これはとても一人でやるような作業ではないのだが、そんなことは言っていられない。


 俺は格子が一気に落ちないように注意しながら、少しずつ回して格子を降ろしていく。


 その間にもモンスターは次々と町中に入り込み、建物を破壊していく。


 早く! 早くこの格子を降ろさなきゃ!


 焦るが、落として壊れてしまえば元も子もない。


 そうして作業を進めていると、ズシンという衝撃が伝わってきた。


 格子を降ろせたのか?


 ドシン!


 再び衝撃が伝わってきた。


 これは! もしかしてモンスターが降りきっていない格子に突撃してるんじゃ?


 俺は慌てて楼閣を飛び出し、街壁から降りてみる。するとなんとワイルドボアが地上まで一メートルほどの高さまで降りてきた格子を突破しようと突撃していた。


 やらせるか!


 俺はすぐさま下に降り、格子をくぐって外に出る。するとワイルドボアは俺に標的を変えて突進しようとしてきたので、それに合わせてカウンターでホーリーを叩き込んだ。


 ワイルドボアはその一撃で動かなくなったが、俺という獲物を見つけたモンスターたちは一斉に俺に向かって突撃してきた。


 この状況なら!


 俺はギリギリまで引き付け、そしてホーリーを放ちながら剣を横に一閃する。


 ホーリーブースター改に加え、英雄の聖剣でもブーストされたホーリーは半径二十メートルほどの範囲を一撃で薙ぎ払った。


 だがその範囲外にいたモンスターたちは懲りずに俺に向かって突撃してくる。それを再びブーストしたホーリーで薙ぎ払う。


 それを十回ほど繰り返すと、門の前にはモンスターたちの死体の山ができた。そしてこれによって周囲のモンスターたちの視線が遮られたようで、モンスターたちの突撃が止まった。


 よし! チャンスだ!


 俺は急いで門をくぐって中に入ると道を塞ぐモンスターを倒し、楼閣に登った。そして再びハンドルを回し、ついに格子を降ろすことに成功したのだった。


「よし! やった!」

「上手くいったようね」

「うわっ!? ティティ!?」

「何よ。そんなに驚いて」

「い、いや。ちょっと気配がなくて……」

「そう? レイのような強い騎士に気取られないなんて、私も大したものね」


 ティティはそう言って楽しそうにクスクスと笑った。


「それよりティティ、ファイアイーグルは?」

「倒したわよ。いくらファイアイーグルが強くても、ワイバーンの群れに勝てるわけないでしょう?」


 そういって指さした先には黒焦げになった数頭のワイバーンの死体と赤い鳥が転がっていた。


「そっか。そうだね。でも念のため」

「何するの?」

「いや、ホーリーでトドメを刺しておこうかと思ってさ。悪魔が来たらどっちも復活して手駒にされるでしょ?」

「それもそうね」


 そうしてワイバーンとファイアイーグルの死体に近づき、ホーリーを放つのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/05/28 (火) 18:00 を予定しております。

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