第193話 破られた東門

 ティティの援護射撃もあり、西門に押し寄せてきたモンスターは完全に撃退したようだ。見える範囲にモンスターの姿はもうない。


 にもかかわらず、なぜかティティは大きなため息をついた。


「ティティ? どうしたの?」

「東門が破られたわ」

「え? なんで?」

「調子に乗って騎馬突撃したのよ」

「は? 騎馬突撃だって!? なんでそんな馬鹿なことを? って、どうしてティティがそれを知ってるの?」

「……マッツィアーノだからよ」


 ティティはそう言って視線を泳がせた。


 やはりティティは遠くで起きている出来事をなんらかの方法で知ることができるようだが、きっとそのことにはあまり触れられたくないのだろう。


「そっか。そうなんだね」

「ええ、そうよ。それよりレイ、どうするの? 普通に考えたら援軍に行ったほうがいいと思うのだけれど……あっちは第二王子の担当なのよね?」

「そうだけど……門が破られたってことは、もう戦線は崩壊してるんじゃない?」

「そうね。かなりの数のモンスターが町の中に入り込んで暴れ回っているわ。街壁が崩されるのも時間の問題かもしれないわね」

「……さすがにそれを黙って見ているわけにはいかないよね。ティティ、救援に向かおう。守護騎士団長! 王太子殿下と本部に伝令を! 俺たちは破られた東門の応援に向かう!」

「いえ、本部だけでいいわ。王太子殿下には私が送るわ」


 ティティがそう言うと、どこからともなく金のリボンが足に結ばれたダーククロウがやってきた。ティティはさっと手紙を書いてダーククロウの足に結び付け、そのダーククロウを南門のほうへと飛ばす。


「レイ、行きましょう」

「ああ」


 こうして俺たちは持ち場を離れ、東門の救援に向かうのだった。


◆◇◆


 ワイバーンに乗り、東門の近くにやってきた。門が破られたというのは間違いないようで、かなりの数のモンスターたちが町中に侵入している。


 また、門の外では金獅子騎士団の騎士たちが密集し、互いの背中を守ることでなんとかその身を守っている。


 ……あれでは時間の問題だろうな。


「ティティ、モンスターたちは……」

「無理よ。何度も試しているけど、やっぱり支配できないわ」

「そっか。一体どうすれば……」

「まずは門を抑えないといけないんじゃないの?」

「そうだね。じゃあまずは楼閣から行こうか」

「ええ」


 ティティはワイバーンを楼閣に接近させた。


 街壁の上にもモンスターが数多く登ってきており、すばしっこいフォレストウルフが主なようだ。対する金獅子騎士団の騎士たちも応戦をしてはいるものの、かなり分が悪いようだ。ぱっと見た感じ、フォレストウルフを二匹倒すのに一人の騎士が犠牲になっているといった具合のようだ。


 ……おいおい、これではDランク冒険者にも劣るレベルだろうに。


 残念ながら、金獅子騎士団の騎士たちは本当に弱いようだ。王太子が穀潰ごくつぶしとまで言っていたが、この体たらくを見るとそれも納得してしまう。


「ティティ、悪魔は?」

「近くにはいないわね」

「そっか。なら、俺を街壁に降ろして。それで、ティティは安全な上空にいて、悪魔が来たら俺のところに――」

「援護するわよ。見たでしょう? 私だって戦えるわ」

「でも危ないし……」

「レイ、私はもうあの頃のティティじゃないの。それに私が援護すればレイの危険が減るわ。私の魔法はモンスターの力を抑えるんでしょう?」

「……」

「私だって、レイを失いたくないの。ねえ、レイ」

「……分かった。ティティ、援護してくれ」

「ええ」


 それからティティはワイバーンを操り、街壁の上に強行着陸した。俺が降りるとすぐさまワイバーンは離陸し始めるが、それを止めようと一匹のフォレストウルフが襲ってくる。


「ティティ! 俺がやるから上に!」

「ええ」


 俺は英雄の聖剣を抜き、剣にホーリーを込めながらフォレストウルフを斬りつける。するとフォレストウルフはなんの手応えもなく、いとも簡単に真っ二つとなった。


「え?」


 嘘だろ? まるで豆腐でも切ったかのようだ。


 ……神金オリハルコンって、ここまでなのか?


「レイ! 来てるわ!」

「あ、ああ」


 ティティの声で我に返った俺は次々と襲ってくるフォレストウルフを斬り伏せていく。すると積み上げられた木箱の陰で、一人の金獅子騎士団の鎧を身に着けた騎士が震えて縮こまっているのを発見した。


「おい! 大丈夫か!」

「ひっ……え、援軍?」

「そうだ! どこか怪我をしたのか?」

「そ、それは……」


 その騎士は青ざめた表情をしているものの、バツが悪そうに視線を逸らした。


「まさか……怪我もしていないのに戦いを放棄したのか?」

「そ、その……」

「お前、本当に騎士なのか?」

「なっ!? 何を言うか! 私は! 私は……」


 そのままそいつはもごもごと口ごもった。


「騎士の誇りがあるなら戦え! 民を守るのが騎士の義務であり誇りだろうが!」

「う……」


 怒鳴りつけてみたが、ビクンとなっただけで動こうともしない。


 ダメだな。こんな役立たずは構うだけ無駄だ。そんなことよりも早く門を閉じなければ!


 俺はその騎士を諦め、街壁の上に侵入したモンスターたちを排除していくのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/05/27 (月) 18:00 を予定しております。

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