第187話 聖廟

 俺たちは王太子殿下たちと別れ、ワイバーンに乗って聖廟へとやってきた。


 ちなみに聖廟のある島の周囲は海流の影響もあって波がとても高く、船で上陸できる日は年に数えるほどしかないのだそうだ。


 もし建国王が足しげく通っていたというのが本当だとしたら、それはきっと……。


 さて、そんな孤島に建てられた聖廟は全体的に白い大理石のようなものでできている。正面から見るとどことなくギリシャ神殿を思わせる柱が並んでいるが、メインの建物はモスクっぽいドーム状になっている。さらにその後ろにはゴシック建築の教会にありそうな高い尖塔が一つだけそびえ立っている。


 そんな不思議な形をした聖廟だが、もっと奇妙なのは建物全体がまるで新築であるかのように真新しいことだ。誰かが管理をしているというわけではないはずなのだが……。


 そんな疑問を抱きつつも正面の階段を上り、ギリシャ神殿風の柱の間を通って入口の扉らしき場所にやってきた。石の色が変わっているのでそこが扉だろうということは分かるのだが、ここもまた魔の森の塔と同じで取っ手が存在しない。


 扉らしき部分に手を触れると、やはりあの塔と同じように魔力が吸い取られていくような感覚がある。


 俺が一気に魔力を込めると、大きな音と共に扉は開かれた。


「開いたね。行こうか」

「ええ」


 俺が手を差し出すと、ティティはその手を握り返してきた。そうして二人で聖廟の中へと足を踏み入れる。


 しばらく歩いて行くと、一つの広いホールのような部屋に出た。天井も丸くなっているので、おそらくあのドームの下なのだろう。


 床には古ぼけて色褪せたカーペットが部屋の中心に向かって敷かれており、その先には有名な建国王が剣を掲げている石像が置かれていた。


 ただ、その掲げている剣は石ではなく本物の剣だ。金色の刀身が美しい金属光沢を放っており、その色合いからしてオリハルコンのように見える。


 ということは、あれが英雄の聖剣だろうか?


 だとするとあの剣を手に入れるには石像を壊すことになってしまいそうだ。古い石像なのだろうから、できればそれは避けたいところだが……。


 そう思って周囲を見回してみるが、特にこれといったものはなさそうだ。他に出入り口なども見当たらない。


「どうなっているのかしらね。ちょっとあの石像を調べてみましょう」

「うん」


 俺たちはその石像の前までやってきた。石像に触ってみるが、魔力が吸い取られるような感覚はない。


 やはり壊さないと剣はとれないのだろうか? どこかに仕掛けでもあればいいのだが……。


「レイ、こっちに来て」


 そうして悩んでいる間にティティが何か見つけたらしい。石像の向こう側から呼ばれた。


「何かあったの?」

「ええ。この石像の台座を、入口のほうに向かって押してくれる?」

「台座を? わかった」


 俺は腰を落とし、身体強化を掛けながら力いっぱい台座を押した。


 ズ、ズズズ、ゴゴゴゴゴ。


 重たい音と共に石像はゆっくりと動き、なんとその下から階段が現れた。


「うわ、すごい。よく気付いたね」

「うちにこういった仕掛けがたくさんあるから」


 ティティは事もなげにそう言ってのけた。


「もしかして王太子殿下を逃がしたのも?」


 するとティティは小さくうなずいた。


「そんなことより、行ってみましょう」

「ああ」


 それから俺たちは階段を降り、暗い通路を歩いて行く。しばらくすると登り階段があり、それを登ると再び聖廟の入口と似た扉らしきものが現れた。


 そこに手を触れて開けると、今度は小さなエントランスホールのような場所に出た。正面には階段があり、階段を登った先には踊り場がある。階段はさらに左右に分かれており、二階の廊下へと続いている。


 そして上を見れば高い天井からはシャンデリアがぶら下がっている。きっと魔法によるものなのだろう。今も明かりがともっており、室内を照らしている。


 だが床に敷かれたカーペットは見るからに古ぼけており、ここが長い間手入れされていないことを物語っている。


 俺たちは踊り場まで階段を登った。どうやら二階の廊下はどちらへ行っても同じ場所に続いているようで、奥へと続く入口が見える。


「あそこね」


 俺は小さく頷き、ティティの手を引いて階段を上がる。そしてその入口から中を見るとそこには階段があり、さらに上へと登れるようになっている。


「ここがあの塔のようね。レイ、行くわよ」

「うん」


 俺たちは手をつないだまま、階段を一歩一歩上がっていく。どうやら三階より上は居住スペースになっていたようで、ボロボロになったベッドやら生活用品やらが無造作に置かれていた。


 そうして階段を上り、俺たちは十階までやってきた。ここの部屋には取っ手のない扉がある。


「またかな?」


 俺は取っ手のない扉に手を触れてみるが、何も起こらなかった。


「あ、あれ?」


 するとティティが扉に手を触れた。するとなんと扉が開いたではないか!


「この扉は私の魔力に反応するようね。行ってみましょう」


 ティティは俺の手を引いて、室内へと足を踏み入れるのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/05/21 (火) 18:00 を予定しております。

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