第170話 再会と別れ
俺たちはジャッジメントが連鎖し続ける様子を呆然と眺めていた。
そうして三十分、いや一時間ほど経っただろうか?
ようやく連鎖が終わり、それと時をほぼ同じくして東の空が白んできた。おかげでようやく景色がはっきりと視認できるようになり、そこで俺たちが目にしたのはおびただしい数のモンスターの死体だった。
「レクス……」
「はい。まさかこれほどとは……」
あまりの光景にこの魔法を使った俺ですら驚愕している。もちろんあり得ない数のモンスターが密集していたからこその結果ではあるが、それでも言葉を失ってしまう。
「……だが、残念ながらそれでもコルティナの町に被害が出ているようだな」
王太子殿下に言われてコルティナのほうを見てみる。すると一部の街壁は崩壊しており、さらにその近くでは火の手まで上がっているようだ。
「誰か、双眼鏡を持っていないか?」
「王太子殿下、これを」
王太子殿下は双眼鏡を受け取ると、それでコルティナのほうを確認する。
「……モンスターの統制が取れていないな。兵士たちも逃げ回っている。あれはダメだ。お前たち、行くぞ! 銀狼騎士団の本懐は民を守ることだ!」
王太子殿下は迷いなくそう言い切った。
やれやれ、せっかく逃げられたというのにこの人は本当に仕方のない人だ。
……だが、いや、だからこそ一緒に戦いたいと思えるんだろうな。
俺は懐からマジックポーションを取り出すと、ひと息に
「レクス、お前にはここの守りを命ずる。先ほどの魔法で打ち止めなのだろう?」
「いえ、行けます。今、マジックポーションを飲みましたから。もう一回あれを撃つのは無理ですけど、普通に戦うくらいでしたら問題ありません」
「そうか。では行くぞ! コルティナの民を守れ!」
こうして俺たちは急遽部隊を編成し、モンスターが暴れまわるコルティナへと向かうのだった。
◆◇◆
モンスターたちの屍の間を抜け、コルティナまであと一キロほどの距離までやってきた。すると突然金のリボンをぶら下げたダーククロウが俺たちの進路を塞ぎ、大きな声でひと鳴きした。
「あれは内通者の!」
「セレスティア嬢か……」
「王太子殿下、来るなと言われているようですが……」
「セレスティア嬢! せっかく逃がしてもらったところ申し訳ない! だが私は民が傷つくところを黙って見ているわけにはいかないんだ!」
王太子殿下が大きな声で叫んだ。するとすぐに町のほうから一体のワイバーンが飛んできて、俺たちの目の前に立ちふさがるようにして着陸した。
その背にはティティが騎乗しており、無表情のまま冷たい視線を俺たちに向けている。
「セレスティア嬢!」
「せっかく逃がして差し上げたのに、どういうおつもりですか?」
ティティはまるで感情を感じさせない冷たい声で王太子殿下にそう尋ねた。
「私はこの国の王太子だ。民が苦しんでいるのに見て見ぬふりなどできるわけがない。セレスティア嬢が逃がしてくれたことには感謝しているが、せめて民の命を守る手助けはさせてほしい」
ティティはギロリと王太子殿下を冷たい目で
「仕方ありませんね。では王太子殿下は万が一に備え、南のパルヴィアへと向かう道の周辺のモンスターを排除してください」
「町の民は……」
「ご遠慮ください。もし町中で殿下を見かけた場合、私は連れ戻さなければならなくなります。殿下は私の厚意を無駄にするおつもりですか?」
「……わかった」
王太子殿下は悔しそうに唇を
「銀狼騎士団はこれより、マッツィアーノ公爵令嬢の要請によりパルヴィアへと向かう街道沿いのモンスター掃討作戦を行う」
「「「はっ!」」」
マルツィオ卿とクレメンテ卿をはじめとするメンバーのみんなが王太子殿下の命令に敬礼で応えた。
ああ、どうやらここれまでのようだ。
「王太子殿下!」
「む? どうした? レクス?」
「自分はここまでとさせてください」
「……そうか。そうだったな。お前ほどの男を手放すのは惜しいが……行ってこい。宿願を叶えてくるがいい」
「はい」
俺は王太子殿下に頭を下げた。
「みんな! 本当の主が戻った今、銀狼の
「え?」
「リーダー?」
「レクス卿?」
困惑するみんなに俺は頭を下げ、ティティのほうへと歩み寄る。
「ティティ、俺を一緒に連れて行ってくれ。そのためにここまで来たんだ」
ティティはじっと俺のほうを見てきた。俺がプレゼントした二つのアクセサリを身に着け、さらに俺のコートまで羽織ってくれているではないか。
「ティティ、頼むよ」
「本当に私でいいの? 今ならマッツィアーノと関係ない、普通の生活に戻れるかもしれないわよ?」
「ティティがいいんだ。この前も言ったとおり、ティティしかいない」
「私がどれほど汚いことをして、どんなに許されざる罪を犯していたとしても?」
「もしそうなら、俺がその半分を背負うよ」
「……分かったわ。それならレイ、力を貸してちょうだい」
ティティの表情は相変わらず無表情のままだが、俺に向かって手を差し出してくれた。俺はその手を取り、ティティの操るワイバーンの背に乗る。
するとテオが近づいてきた。
「おい! ちょっと待てよ! 俺も連れて行け!」
「テオ?」
「ファウストって野郎はケヴィンさんの仇だ! お前だけにやらせるわけにはいかねぇ」
「レイ、どういうこと? この男は何を言っているの?」
「それは――」
俺はかいつまんで事情を説明した。
「そう。分かったわ。そういうことならちょうどいいわ。お前も連れて行ってあげる」
するとどこからともなくもう一体のワイバーンが飛んできて、足でテオを掴んだ。
「え? ちょっと待て! なんで俺だけ!?」
「マッツィアーノ以外の人間を乗せるはずないでしょう?」
そう言うと俺たちを乗せたワイバーンはふわりと宙に浮き、すぐに高度を上げていく。
「うおっ!? こ、怖ぇ! お前! 絶対落とすなよ!?」
隣を飛ぶワイバーンの下からは、恐怖の飛行体験をしているであろうテオの叫び声が聞こえてくるのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/05/04 (土) 18:00 を予定しております。
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