第168話 雷光複合魔法

 見張りのメンバーの大声に、俺は慌ててテントから飛び出した。


「どうした!」

「レクス卿! それが、モンスターどもが一斉にコルティナへと向かっているんです!」

「なんだって!?」


 俺は大急ぎでコルティナが見える丘へと移動した。


 ……なるほど。月明かりの下なので種類までは分からないが、たしかにモンスターらしき大量の黒い影がコルティナに向かって移動している。


 しかもその影は地上だけでなく、空にもある。


「これは一体なんだ? 何が起きている?」

「分かりません。突然こうなりました」


 ……俺たちが襲われていないということは、モンスターが増えすぎて森からあふれてきたというわけではないだろう。


 となると、後継者争いをしている誰かが呼び寄せたのか? ティティは無事なのか!?


「状況はどうなっている!」


 そんなことを考えていると、後ろから王太子殿下の声が聞こえてきた。


「王太子殿下!」


 その声に振り返ると元気そうな王太子殿下の姿があった。


 良かった。元気になってくれたようだ。


 そして王太子殿下の隣にはキアーラさんもおり、なぜか王太子殿下がキアーラさんの手をしっかりと握っている。


「あ、あの、で……ルカ殿下。その、手を……」

「おっと、すまない。キアーラ嬢」


 王太子殿下はそう言ってキアーラさんの手を離した。するとキアーラさんは恥ずかしそうに手を引っ込める。


 あれ? 二人ってそんな関係だっけ?


 ……いや、今はそんなことを気にしている場合じゃないか。


「状況を報告してくれ」

「はっ! 突然モンスターどもが移動を始めたのです! 原因は不明であります!」


 すると王太子殿下はすぐに質問を返してくる。


「なるほど。何か前兆など、気付いたことはないか?」

「いえ、特には」

「町の様子は?」

「はっ! 町の中からは繰り返し閃光が見えておりました。日が沈んでから今まで、断続的に続いております」

「閃光だと? 今も見えるのか?」

「はっ! 頻度は減っておりますが、つい数分前に確認しております!」

「そうか」


 そう言って王太子殿下はコルティナのほうへと視線を向ける。そして十秒ほど待っていると、赤い光が一瞬だけ見えた。


「あれか?」

「はっ! そのとおりであります!」

「なるほど……そうだな。この状況、おそらく後継者同士の争いだろうな。そしてたしかサンドロ・ディ・マッツィアーノがレッドドラゴンを従えていたはずだ。となると、あの光はその炎によるものだろう」

「後継者同士の争いでドラゴンまで出すのですか!?」

「ああ。マッツィアーノの後継者争いは文字どおり命懸けだ。脱落すれば待っているのは死のみだ。だからきっと最有力のサンドロに対し、別の誰かが争いを仕掛けたのだろうな。そして負けそうになったどちらかがモンスターを呼び寄せた結果がアレだろう」


 王太子殿下は事もなげにそう言った。


 ティティは、大丈夫だろうか?


 心配しながら見ていると、突然コルティナの街壁が崩壊した。


「どうやらなりふり構っていられない状況のようだ。このままではコルティナの民に大きな犠牲が出る。できる限り間引くぞ!」


 王太子殿下は当然のようにそう言ったが、さすがにそれはどうなのだろうか?


「王太子殿下、さすがにここで見つかるわけには……」

「レクス、俺たち王族はな。民を守るために存在するのだ。たとえそれがマッツィアーノ公爵領の民であったとしても」

「ですが……」

「レクスの言うことももっともだ。だが、俺は民を前にして逃げるわけにはいかない」


 ああ、まったく、この人は……。


「……わかりました。なら、俺が一発やります。それでほとんど潰せるはずですから。それ以上の介入をするかどうかは、その結果を見てから決めてもらえませんか?」

「どういうことだ?」

「はい。今なら雷光複合魔法を使えるはずなんです。ただ、一発しか撃てないと思います」

「……聞いたことのない魔法だな。レクス、本当に大丈夫なのだな?」

「はい。ぶっつけ本番ですが、一発であれば魔力は足りるはずです」

「いいだろう。やってみろ」

「はい」


 俺はサンダーブースター改とホーリーブースター改をそれぞれ握りしめ、雷属性の魔力と光属性の魔力を同時に練り上げながら混ぜ合わせていく。


 そして両手を天高く突き上げ――


「ジャッジメント!」


 満天の星空に一筋の光が走り、地面に向かって落ちていく。


 落雷はその通り道付近を飛んでいた、あるいは落ちた付近を走っていたモンスターに向かって次々と枝分かれし、命中する。


 バチンバチンバチンバチンバチン!


 そしてボルトと同じように近くのモンスターへ次々と連鎖していく。


 バチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチン!


 モンスターがあまりにも密集していたため、気が遠くなるほどの回数の連鎖が発生している。


「これが……」

「はい。雷属性と光属性を合わせた雷光複合魔法です。あのいかずちにはホーリーの効果が乗っていますので、ほぼ全てのモンスターは一撃のはずです」

「……すさまじいな」

「そうですね。ちょっと異常なほどモンスターが密集していましたから……」

「……レクス、もしあれを人間がくらうとどうなる?」

「え? 人間がですか? うーん、そうですね。やったことないですけど……雷が直撃したらさすがに助からない気がしますね」

「そうか……」

「あ! でも連鎖した後のやつなら行動不能スタンだけで済むかもしれないです。ホーリーは人間に当てても意味ないですし」

「なるほどな」

行動不能スタンはヒールですぐに治りますし」

「そうか」


 そんな会話をしつつ、俺たちは延々と連鎖し続けるジャッジメントの光を眺めるのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/05/02 (木) 18:00 を予定しております。

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