第163話 暗躍するセレスティア

「セレスティア、町の様子は?」

「はい。突破されていた門は押し返し、内部に侵入したモンスターたちの排除も完了しています。今は門の修繕を行っていますが……すみません。今度はサルヴァトーレお兄さまの従えていたモンスターたちが暴れ始めました」

「そうか。それはそうだろうな」


 クルデルタは納得した様子でうなずいたが、ファウストにとってそのやり取りは衝撃的だったようだ。


「セレスティア! どういうことですか! なぜそのようなことが分かるというのです!」

「さあ、なぜでしょうね」


 セレスティアは意味深な笑みを浮かべているが、それ以上は答えようとしない。


「セレスティア! 答えなさい!」


 そう叫ぶファウストをセレスティアは無視し、クルデルタに話し掛ける。


「お父さま、私はあちらの対処に当たろうと思いますが、よろしいですか?」

「ああ。ここは俺に任せてそちらに向かえ。民草どもに次期マッツィアーノ公爵の姿を見せつけやるのだ」

「はい。分かりました」


 セレスティアはちらりとファウストに視線を送ると、これ見よがしに鼻で笑った。


「セレスティアァァァァァ!」


 ファウストは激怒し、セレスティアに向かって手を突き出した。だがすぐに悔し気に表情を歪める。


「ちっ。父上のものか……」

「いや、違うな。あれはセレスティアのものだぞ」


 クルデルタはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、馬鹿にするような口調でファウストの独り言に答えた。


「なっ! セレスティアの!? ならばなぜ支配権を!」


 驚愕した様子で叫ぶファウストに対し、セレスティアはあきれたような視線を向けた。


「なぜって……ファウストお兄さまはおかしなことを仰いますね」

「どういうことですか!」

「そんなもの、ファウストお兄さまの魔力が私よりも劣っているからに決まっているでしょう?」

「えっ? そんな……馬鹿な……」


 ショックを受け、愕然としているファウストを再び鼻で笑うと、セレスティアはそのまま飛び去って行った。


「ふん。愚か者が」

「父上……セレスティアは一体いつから……」

「もう何年も前からだ。いまや国内のダーククロウをすべて支配しているのがセレスティアだ」

「ダーククロウをすべて? そんな馬鹿な!? 一体どれほどの魔力があれば……いや、そもそもなぜそのように無駄なことを? ダーククロウなど戦力にならないではありませんか!」


 するとクルデルタは蔑んだ目でファウストを見る。


「ファウスト、お前は本当に、救いようのない愚か者だな」

「なっ!?」

「まあいい。冥途の土産に教えてやる。セレスティアはな。支配下にあるダーククロウどもが見聞きしたものを自由に知ることができるのだよ。たとえどれだけ離れていようともな」

「は?」


 ファウストはポカンとした表情となった。


「この価値がどれほどのものか、さすがのお前でも理解できるだろう」

「……え? そんな……ということは……くっ!」


 徐々に理解が追いついてきたのか、ファウストは怒りに体を震わせている。


「元々はサンドロを後継者とし、セレスティアと結婚させるつもりだったのだが……」


 クルデルタは憎しみのこもった目でファウストを一にらみした。


「ふん。こうなってしまったものは仕方ない。セレスティアにはさっさと婿でも取らせ、次世代を産ませるとしよう」


 クルデルタが手を挙げると、兵士たちは矢を番えた。


「くっ……」

「やれ」


 クルデルタの命令を受け、兵士たちは一斉に矢を放つ。


「サンドロォ! 時間を稼ぎなさい!」

「グガァァァァァ」


 サンドロはファウストの命令に従い、弓を構える兵士たちのほうへと突っ込んでいく。飛んでくる矢を次々と剣で叩き落とし、あっという間に兵士を斬り伏せた。


 一方のファウストは脱兎のごとく駆け出し、研究所の奥へと逃げていく。


「ちっ」


 舌打ちをしたクルデルタが手を天に向かって掲げると、ワイバーンとブラックドラゴンの群れがやってきた。


「アレを殺せ! 周りの被害を気にする必要はない」

「ガァァァァァ!」


 クルデルタの命令を受けたブラックドラゴンとワイバーンたちは雄たけびを上げる。そしてブラックドラゴンは大きく息を吸い込み、巨大な火の玉を吐き出すのだった。


◆◇◆


 再び街壁へと向かったセレスティアは暴れているモンスターたちを従え、次々と同士討ちをさせていく。


 上空からその様子を見守るセレスティアの表情は満足げで、わずかに口角が上がっていた。


「ふふ。レイ、あなたのおかげよ」


 そう呟いたセレスティアだったが、すぐに小さなため息をついた。


「でも、こんなに汚れきった私を見てもまだ、私がいいって言ってくれるのかしら?」


 そうつぶやき、闇の聖女の首飾りをぎゅっと握りしめる。


「それはないわね。私は罪を重ねすぎたもの」


 セレスティアは寂しげな表情で再びため息をついたものの、すぐに真顔に戻る。


「でも、私はもう……あら?」


 セレスティアのところへ一羽のダーククロウがセレスティアに近寄ってきた。


「……そう、お父さまはサンドロお兄さまと互角なのね。ちょうどいいわ。レイは……予定どおりね。ロザリナお姉さまは……ふふ、そうよね。こっちも予想どおり。あとジェスト・フラーヴィは……そう、そんなところでサボっているのね」


 セレスティアはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


「お前、ジェスト・フラーヴィのところへと向かいなさい」


 するとセレスティアを乗せたワイバーンは一直線に町の中央広場へと向かうのだった。


================

 次回更新は通常どおり、2024/04/27 (土) 18:00 を予定しております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る