ドン底から始まる下剋上～悪魔堕ちして死亡する幼馴染を救うためにゲームの知識で成り上がります～

第162話 非情な宣告

　サルヴァトーレの拳がクルデルタに命中するかと思われた次の瞬間、サルヴァトーレの肩口に一本の矢が突き刺さった。矢は命中した瞬間、白く眩（まばゆ）い光を放つ。

「グガァァァァァ！？」

　サルヴァトーレは苦しそうな雄たけびを上げ、その拳は勢いを失う。するとクルデルタはサルヴァトーレの腕を掴み、まるで一本背負いのようにサルヴァトーレの巨体を投げ飛ばした。

　サルヴァトーレの巨体が豪快に宙を舞い、背中から地面に叩きつけられる。

「サルヴァトーレ、貴様は最後まで馬鹿なままだったな。よもやファウストに乗せられて人間をやめ、モンスターなんぞに成り果てるとは」

　クルデルタはそう言うと懐からナイフを取り出し、サルヴァトーレの首に突き刺した。するとナイフも矢と同様に眩い光を放つ。

「グッ！？　ガッ……グガ……」

　サルヴァトーレは苦し気なうめき声をあげた。その様子にファウストは目を見開き驚く。

「なっ！？　サルヴァトーレ！？　一体なぜその程度の攻撃で倒れているのですか！　父上を倒さねば未来はないのですよ！？」

「ふん。研究ばかりで世の中のことを知らぬ愚か者めが」

「……どういうことですか？」

　ファウストは不快感を隠そうともせず、クルデルタを睨（にら）みつける。

「ふん。光のナイフと光の矢だ。知らなかったのか？」

「それは……一体……？」

「モンスターを殺す忌々しい光の魔法が込められたナイフと矢だ。レムロスで銀狼の顎（あぎと）なる冒険者どもが売りさばいている」

「なっ！？　なぜそのようなものが！」

「さあな。だが、お前のような愚か者を抑える役には立ってくれたぞ。なあ？　セレスティア」

　そう言ってクルデルタは上空を見上げた。するとその視線の先にはワイバーンに騎乗したセレスティアの姿がある。

　ゆっくりと高度を下げ、十メートルほどの高さで静止したセレスティアはクルデルタにニコリとその美しい顔で微笑みかける。

「はい。お父さまのお役に立てて何よりです」

「なっ！？　セレスティア？　裏切ったのか！？」

「あら、裏切っただなんておかしなことを言いますね。まさか私が本当にファウストお兄さまと組んで反乱を起こすとでも？　それにサルヴァトーレお兄さまとサンドロお兄さまをあんなお姿にしてしまうなんて」

　セレスティアはまるで悲しんでいるかのようにそう言ったが、表情は無表情のままだ。

「なっ！？」

「セレスティア、お前反乱のことを知っていたのか？」

「ファウストお兄さまがご不満をお持ちなことは存じ上げておりました。ですが、まさかここまでのことを計画なさっていたとは夢にも」

「セレスティア！　お前は愛するサルヴァトーレを生かすために父上を裏切ったのではないのか！」

「え？　私がサルヴァトーレお兄さまを？」

　セレスティアはまるで汚物でも見るかのような目で地面に這（は）いつくばるサルヴァトーレを見た。

「そんなわけないでしょう？　何を馬鹿なことを仰っているんですか？」

「何？」

　ファウストは怪訝そうに眉をひそめる。

「暴力を振るわれないから、そのように演技をしていただけです。ファウストお兄さまったら、まさか私がマッツィアーノのしきたりを破ってまでサルヴァトーレお兄さまと一緒になりたいと思っているだなんてたわごと、本気にしていたんですか？」

「なっ！？」

　ファウストは目をまん丸にして驚いた。

「大体、十二歳も年下の、しかもまだ十歳の異母妹（いもうと）をイヤらしい目で見るような異母兄（ケダモノ）なんかを好きになるわけがないでしょう？」

「グ……ガ……」

　それを聞いたサルヴァトーレはうめき声を上げ、そのことに気付いたセレスティアはクスリと小さく笑った。

「私はお父さまを見習って行動しただけですよ。特に以前の私は無力でしたからね」

　セレスティアはそう言うと、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。

「く、くくく、くはははは。いいぞ！　それでこそ私の娘だ」

「こ、このっ！　サルヴァトーレ！　セレスティアを引きずり下ろせ！」

「グガァァァァァ！」

　サルヴァトーレはがくがくと震える足で立ち上がり、セレスティアの騎乗するワイバーンに飛びかかろうとジャンプした。だが二度のホーリーを受けて大ダメージを負ったサルヴァトーレの手が届くことはなく、そのまま落下して這いつくばる。

　その様子にセレスティアは満足げな笑みを浮かべた。

「お前たち、サルヴァトーレお兄さまを介錯して差し上げて。いくらケダモノとはいえ、あのようなお姿はあまりにも忍びないわ」

　すると周囲の兵士たちが矢を番え、サルヴァトーレに狙いを定める。

「ガ……ア……ゼレ゛…ディ……」

「やれ」

　最後はクルデルタが命令し、一斉に矢が放たれた。次々と矢が命中し、何度となくホーリーが発動する。

　やがて光が消えると、サルヴァトーレはピクリとも動かなくなっていた。

「さあ、次はお前の番だ。愚か者の処分はきちんとしておかなければな」

　クルデルタはそう宣言すると、ニタリと邪悪な笑みを浮かべるのだった。

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　次回更新は通常どおり、2024/04/26 (金) 18:00 を予定しております。