第149話 更なる戦力強化

 その後、聖女リーサは巡礼の旅とやらに出た。南に向かったそうなので、最初の行き先はアモルフィ侯爵領あたりだろうか?


 あのあたりは次元の裂け目を閉じたこともあってモンスターが激減しているそうなので、割と気軽に行ける地域となっているはずだ。もっとも、俺にはなんの関係のない話だが。


 ああ、そうそう。アモルフィ侯爵といえば、レベル1ヒールポーションをまとめて百個も大量購入してくれ、さらにお試しでと言ってレベル2ヒールポーションを五個購入してくれた。


 おかげでアモルフィ侯爵一人だけでなんと六百万リレもの売上が立ってしまった。


 マルゲリータ様のお誘いを断ったというのにこうして便宜を図ってくれるということは、きっとそれだけ期待してもらっているということなのだろう。


 どこまでその期待に応えられるかは分からないが、おかげさまで銀狼のあぎとの活動資金面での不安は完全に解消された。


 というわけで、俺はその資金を使って魔石や光の欠片をギルドから買い取ることにした。俺だけでなくテオとキアーラさんの魔力も強化したいので、魔石と光の欠片はいくらあっても足りない。


 と、そうこうしているうちに七月になった。アモルフィ侯爵がポーションをオーダーしてくれたのを皮切りに王宮や貴族、さらにはなんと教会からもレベル1ヒールポーションの注文を受け、もはや本職がポーション屋なのではないかと思うほど忙しい日々を送っている。


 そんなある日、俺はマッシモさんの紹介でオークションに行き、オリハルコンのインゴットを手に入れた。


 そしてその値段はなんと! たったの五百万リレだ。


 想像していたよりもはるかに安くて驚いたのだが、マッシモさんによるとオリハルコンの加工方法が失伝していることがその理由なのだという。


 つまり、オリハルコンのインゴットを手に入れたところで使い道がないのだ。だから欲しがるのは収集家とマッシモさんのような研究者ぐらいしかいない。


 これがもしインゴットではなく、オリハルコン製のアクセサリや武器防具となると、どんなに安くても領地が丸ごと一つ買えてしまうほどの値段が付くとのことだ。


 要するに、俺は領地二つが買えるほど価値のあるオリハルコン製のアクセサリをレシピにして潰してしまったらしい。もちろん一つはホーリーブースターになっているし、もう一つは闇の聖女の首飾りになっているわけだが……。


 それはさておき、手に入れたオリハルコンのインゴットを使い、ティティにプレゼントするための闇の大聖女の耳飾り、キアーラさん用に大聖女の首飾り、テオ用にファイヤーブースター、マッシモさん用にアクアブースター、そして自分で使うためのサンダーブースター改とホーリーブースター改を作った。


 ちなみに「聖女の」ではなく「大聖女の」となっていることからも分かるように、聖女シリーズよりも性能がアップしている。まず増幅率がおよそ十パーセント向上し、さらにブースターと同様に増幅倍率の変更ができるようになっている。また、欠片の使用量が多かったこともあってか、あしらわれている宝石の数が増え、一つ一つも大きくなっており、さらに全体のデザインが聖女シリーズのものよりもかなり煌びやかになっている。


 改シリーズも性能については大聖女シリーズと変わらない。


 なお、テオとマッシモさんのものが改となっていないのは、炎の欠片と水の欠片が不足していてレシピを手に入れられなかったからだ。他意はない。


 というわけで、俺はさっそくテオとキアーラさんを探して拠点を歩いていると、正面からキアーラさんがやってきた。


「キアーラさん」

「あ、リーダー。こんにちは」

「こんにちは。ちょうど探していたところです」

「え? 何?」

「これをどうぞ」


 俺は大聖女の首飾りをキアーラさんに差し出した。するとキアーラさんは目を丸くして驚いている。


「え? え? わ、私に? こんな高価なものを?」

「はい」

「ほ、ホントに? いいの?」

「もちろんです。そのために作ったんですから」

「え? オーダーメイドなの?」

「オーダーメイド? ああ、はい。自分で作ったので、既製品ではないですね」


 するとキアーラさんは嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、つけてくれる?」

「はい」


 俺はキアーラさんに大聖女の首飾りを掛けてあげた。キアーラさんは嬉しそうな笑みを浮かべたまま、窓に映る自分の姿を確認している。


「ねえ、似合ってる?」

「はい。とても似合っていますよ」

「そう? えへへへへへ」

「その首飾りは大聖女の首飾りといって、光属性魔法をブーストしてくれます。ぜひとも今後の任務で使ってください」

「え?」


 ん? なんだか突然声が硬くなったような? なぜか表情も強張っているが……まあ、いいか。


「かなりブーストされるはずですから、いきなり実戦に持って行って戸惑わないように試して慣れておいてくださいね」

「……はい。ありがとうございます」


 キアーラさんは突然敬語になると、そのままペコリと頭を下げて立ち去っていった。


 はて? 俺は何か失礼なことを言ってしまったのだろうか?


 首をひねりつつも、俺は後ろ姿を見送るのだった。


================

 次回更新は通常どおり、2024/04/13 (土) 18:00 を予定しております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る