第107話 魔竜の目覚め(中編)

「ではまずクレメンテから聞こう。次にレクスだ。クレメンテ、発言を許す」

「はっ! 七十年前にはどのような作戦で戦い、結果はどうだったのでしょうか?」

「そうだな。前々回の作戦では高台にバリスタ部隊を配置し、海岸でウルガーノを迎え撃った。海岸に家畜を並べて囮とし、釣られたところをバリスタで攻撃し、飛べなくなったところで騎士たちがトドメを刺すという作戦だったそうだ」


 なるほど。それはそれでいい作戦のようにも思える。


「その結果、初手のバリスタは命中したが魔竜ウルガーノの翼を奪うことはできず、バリスタ部隊はいかずちと炎によって全滅した。その後、立ち向かった騎士たちも全滅した。このときは諸侯連合軍の形を取っていたため被害は甚大で、合計で七千三百四名の騎士が戦死した」

「な、七千……」

「そのこともあり、前回は戦わない選択をしたのだろうな」

「ありがとうございます」


 クレメンテ卿は納得した表情でうなずいた。


「ではレクス、発言を許す」

「はっ! 先ほどの魔竜ウルガーノの攻撃の四つ目と五つ目についてです」

「ああ。それが何か?」

「俺は、その攻撃に心当たりがあります」

「何?」

「ヴァリエーゼで私が戦った魔界の影を覚えていらっしゃいますか?」

「ああ。壮絶な同士討ちになると言っていたな。だが、魔竜ウルガーノの記録とは異なる」

「はい。ですが、そのときに申し上げたのはすべてではありませんでした。もっとも致命的なものを申し上げたのであって、他にも毒を受ける、体が動かなくなるといった症状がでることがあります。ですので、魔竜ウルガーノの四つ目の攻撃というのは、魔界の影による攻撃と同じであると考えます」

「ほう。ということは、レクスはそれを防げるのだな?」

「はい。防ぐことができます」

「なるほど。では五つ目の攻撃についての心当たりはなんだ?」

「はい。魔竜ウルガーノが操ったといういかずちは、間違いなく雷属性魔法です」


 すると室内がざわついた。王太子殿下も怪訝そうな表情をしている。


「どういうことだ? 雷属性魔法などというものは聞いたことがないぞ?」

「雷属性魔法というのは文字どおり、雷を操る魔法です。その特徴は二つあり、一つは雷属性魔法による攻撃を受けた者は体が痺れて動けなくなるというもの、もう一つは雷属性魔法による攻撃を受けた者の近くにいるものにその効果が次々と連鎖するというものです」

「……その証拠は?」

「俺が少しですが、雷属性魔法を使うことができます」

「何?」


 王太子殿下はピクリと眉を動かした。


「この場で使い、証明することができます。ただ俺の雷属性魔法はとても弱いので、空から雷を落とすことはできません。ですがそれは逆に人が受けても死ぬことはありません」

「……いいだろう。私にそれを使ってみせよ」

「殿下! なりません! そういことでしたら私が!」


 クレメンテ卿がそう言って慌てて立ち上がった。


「そうか。ならばレクスよ。クレメンテに雷属性魔法とやらを使ってみせよ」

「はい。ただ、俺もそれほどこの魔法に精通しているわけではありませんので、どのくらいの範囲に連鎖するのかわかりません。ですので巻き添えを避けるためにも、できるだけ遠くに離れていただけると助かります」

「いや、構わん。死なぬのだろう?」


 王太子殿下はそう言って避難を拒否した。そのせいなのか、それとも疑われているのかは分からないが、他の騎士たちも避難しなかった。


「ではクレメンテ卿、バチッときますからね。皆さんも身構えてください」


 俺はそう警告するとクレメンテ卿に手を突き出し、ボルトを放った。


 バチン!


 バチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチン!

 

 まあ、こうなるよな。


 円卓を囲んで座っていた騎士たちは、王太子殿下を含めた全員がボルトの連鎖によって行動不能スタンしてしまい、机に突っ伏して苦しそうなうめき声を上げている。


「すみません。すぐに治療します」


 俺は急いで彼らにヒールを掛けて回る。


「なるほど。たしかにこの効果は記録にある魔竜ウルガーノのいかずちと同じもののようだな。だがレクスよ。なぜヴァリエーゼでこの魔法のことを申告しなかった?」

「あの場においてあまり意味がなかったからです」

「意味がないだと?」

「はい。まず、俺はこの魔法にあまり慣れていません。そのため、光属性魔法のように連発できません。そして何より大きな問題は、味方がいる場所で使ったことがないということです」

「それはつまり、この連鎖という現象は敵味方を問わず発動するということだな?」

「試してはいませんが、おそらくそうだと思います。ですのであの場では必要ありませんでしたし、仲間と常に行動する騎士団においても役に立つとは思えませんでした」

「なるほど、それはそうだな。いくら強力でも味方まで巻き添えにするのでは意味がない」

「はい。仰るとおりです」

「分かった。申告しなかった件は不問としよう。レクスよ。お前の力でこの連鎖を防ぐことはできるのか?」

「麻痺することは防げますが、ダメージを防ぐことはできません」

「そうか。分かった。他に質問のある者はいるか?」


 王太子殿下がぐるりと見回すが、手を挙げる者は誰もいない。


「では次だ。今回の対処方針についてだが、お前たちの意見を聞きたい。順に聞いて行こう。トンマーソ」

「はっ! 私は反対であります。過去の記録から我々が魔竜ウルガーノを退けられるとは思えず、隠れて嵐が過ぎ去るのを待つことが最善であると考えます」

「わかった。エリベルト」

「はっ! 私もトンマーソ卿に賛成であります」

「そうか。マルツィオ」

「はっ! 私は民を守るため、戦うべきだと思っております。ですが、現時点でどのようにすればそれが実現できるか、皆目見当がついておりません。従いまして、トンマーソ卿に賛成せざるを得ません」

「ほう。それは良い作戦があれば戦うべきということか?」

「はっ! そのとおりです!」

「分かった。次は――」


 それから王太子殿下は一人一人意見を聞いていった。半数ほどはトンマーソ卿の意見に全面的に賛成で、残る半数はマルツィオ卿と同じで戦うべきだがどうしたらいいか分からないのでトンマーソ卿に消極的賛成という意見だった。


 なんとか知恵を振り絞ってでも戦おうという騎士がいなかったことにはさすがに驚きを禁じ得ない。


 態度にこそ出していないが、おそらく王太子殿下はかなり腹を立てているのではないだろうか?


「ではレクス。お前はどう思う?」


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 次回更新は通常どおり、2024/03/02 (土) 18:00 を予定しております。

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