第96話 モンスターの巣窟

 あまりに突拍子もないことを言われ、思わず変な声が出てしまった。


「どうしてそうなるんですか? 見てのとおり、男ですよ」

「そうだよな。いや、だがこれは一体どういうことだ?」


 どういうことも何も、それは俺が聞きたい。


 だが王太子殿下はますますわけのわからないことを口走る。


「いや、いっそレクスは女だったことにすれば……」

「ちょっと! 王太子殿下! 何言ってるんですか!」

「え? ああ、すまない。君があまりに規格外で驚いてな」


 王太子殿下は恥ずかしそうに頬をいた。


 もしや王太子殿下、男が好きだったりするのか?


 思わず質問しそうになったが、不敬罪と言われそうな気がしたのでなんとかそれを堪える。


「それで、どうして俺が女だなんて話になったんですか?」

「どうしても何も、当然の感想だろう」

「え? どうしてですか?」

「そもそも、治癒の光は聖女の力だ。神は癒しの光を女に与え、魔を滅する光を男に与え給う。そう大聖堂の石碑に刻まれている」

「えっ? そうなんですか?」

「知らなかったのか?」

「はい」

「そうか」


 王太子殿下はそう言って難しい表情を浮かべた。


 あ、あれ? もしかして俺、異端認定されるのか?


 あ! なるほど! それでケヴィンさんたちは詳しく聞かずにいてくれたのか。


「あ、あの……俺は一体どうなるんでしょう?」

「どうなる?」


 王太子殿下は怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔になる。


「はは、どうもしないさ。役に立たない石碑なんかより、民を救える力のほうが大事だ」

「はい」

「それよりもレクス、君は何か知っていそうだったな。なぜあのフォレストウルフはあんなに強かったんだ?」

「はい。あのフォレストウルフは黒いオーラをまとっていたんですけど、気付いていましたか?」

「ああ」

「あれは、強化されている証拠なんです。前にフォレストウルフではないですが、同じようなモンスターと戦ったことがあって――」


 俺は魔界の影について、かいつまんで説明した。


「なるほど。そんなものが……ということは、その次元の裂け目とやらがどこかにあり、魔界の影なるモンスターがいる、と」

「はい。その可能性が高いと思います」

「それでいきなりモンスターがここまで増えたのか」

「だと思います」

「わかった。貴重な情報提供に感謝する。また、隊員の命を救ってくれたことにも感謝する。私はいつでも君が銀狼騎士団に加わってくれるのを待っているぞ」

「あ、はい。考えておきます」


 そうして俺たちは素材を回収し、掃討作戦を再開するのだった。


◆◇◆


 それから銀狼騎士団の騎士たちは強化されたモンスターの動きに慣れ、損害を出さずに倒せるようになった。


 こうして再び掃討のペースを取り戻した俺たちは一週間かけ、モンスターが次々と湧き出てくる洞窟を発見した。おそらくこの奥に次元の裂け目があり、魔界の影がいるのだろう。


「レクス、魔界の影は君が一人で倒すんだな?」

「はい。味方がモンスターに見える呪いを掛けてきます。対抗手段がない者が戦えば、壮絶な同士討ちになってしまいます」

「経験談か?」

「はい」

「そうか。分かった。では任せよう。銀狼騎士団の任務はレクスの補助だ! 退路を守り、万が一の際にはレクスを救出せよ! ヴァリエーゼの未来はお前たち懸かっているぞ!」

「「「おーっ!」」」


 こうして俺たちは洞窟の中へと侵入した。次々とモンスターが襲ってくるが、狭い洞窟というのはホーリーを適当にぶっ放すだけですべてのモンスターを倒せるという点ではかなり戦いやすい。


 俺たちは洞窟の分岐一つ一つからモンスターを地道に掃討していき、やがて奥まった場所にある広い部屋にやってきた。


 モンスターで埋めつくされたその部屋の奥には次元の裂け目があり、その近くにはかなり大きな魔界の影の姿がある。


「なるほど。あれがそうか」

「はい。王太子殿下、皆さんも下がってください」

「分かっている。助けが必要であればすぐに呼べ」

「はい」


 俺は王太子たちが下がったのを見て、モンスターハウスと化した部屋の中に飛び込んだ。


 さあ! やってやるぞ!


 こうして俺は魔界の影との戦い定点狩りを始めるのだった。


◆◇◆


 それから何時間が経過しただろうか?


 水筒に入れてきたマジックポーションもあと少しで無くなるため、魔界の影ボーナスモンスターにトドメをさした。


 もはや部屋は足の踏み場がないどころの話ではない。戦いながら倒したモンスターを放り投げていたこともあって端には死体がうずたかく積み上がり、とんでもないことになっている。


「終わりました! もう大丈夫です!」


 そう声を掛けると、王太子殿下たちがひょっこり顔を出した。だが彼らが来るのを待たずに俺はサンクチュアリを発動し、次元の裂け目を塞いでしまう。


 魔界の影がまた出てきたら面倒だからな。


 さて、部屋に入ってきた王太子たちはその惨状に絶句している。


「これほどのモンスターをたった一人で……」

「なんという……」

「すごい……」


 騎士たちとキアーラさんが口々に俺を褒め称えてくる。ただ、二回目ということもあってか、人魚の里のときほどの後ろめたさは感じない。


「まあ、冒険者としては稼ぎ時ですからね。これで一攫千金ですよ」


 俺がそう言って笑うと、王太子殿下たちは引きつった笑みを浮かべたのだった。


================

 次回更新は通常どおり、2024/02/20 (火) 18:00 を予定しております。


 よろしければ★、レビュー、感想なので応援ください。執筆の励みとなります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る